第153話 真耶とケイオス・レヴ・マルディアス
━━……真耶は暗い空間にいた。この空間は、先程真耶が発動した魔法の中だ。当然この中には真耶と一緒に入ったマーリンが居る。
真耶は真っ暗な空間で手を自分の胸の前位の高さまで上げ、青白い炎を灯らせた。すると、その空間に青白い炎がいくつも現れる。
その炎によってその空間は照らされ明るくなった。
「……」
「……やってくれたな」
真耶とちょうど対角線上から声がした。マーリンだ。どうやらマーリンは真耶の拘束魔法を解いたらしい。杖を構えて戦闘態勢を取っている。
「……」
「本気で戻らないのだな?」
「そう言ってるだろ」
「そうか。……クックック……ケイオス、お前も鈍くなったな。魔法を使うのは久しぶりか?」
「どういうことだ?」
マーリンはまるで奥の手があるかのように笑い出す。
「わしはこの魔法を見た事がない」
「そりゃあ、今作ったからな。1回見せた魔法はお前全部対策するだろ」
「あぁそうだな。それでだが、お前は魔法を作る時のプロセスを知ってるのか?」
その言葉を聞いて真耶はなるほどなと思った。
「新しく創る魔法はそのプロセスを踏まなければ作れない。そして、そのプロセスは何段階にもわけられる。1、属性、2、効果、3、範囲、4、使用魔力、5、発動速度、6、その魔法自体の持つ速度、7、性質、8、形、9、時間。この順番で行えば魔法を創ることが出来る」
「そして、それらの手順を全て踏まないと作ることは出来ない」
マーリンは真耶の言葉に被せるように言ってきた。真耶はその言葉を聞いて少しだけ微笑むと、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「そう思われがちなだけだ。別にこの順番にやらなくてもいいし、飛ばしても構わん。実際に今創った魔法も、属性、範囲、形の3つしか決めてないからな」
「何!?」
「ま、強度が低いことは変わりないがな」
真耶はそう言って笑った。しかし、これは笑い事では無い。基本的に、そのプロセスを飛ばしたり設定しなかったりして魔法を作ることが出来る者はアヴァロンにもいなかった。
だが、真耶はそれをしてのけたのだ。だから、笑っていられる場合じゃない。
「何故そんな力があってラウンズを抜けた!?」
「別になんだって良いだろ」
「っ!?……そうだな。”デウスフェニックス”」
マーリンは話を終わらせるかのように魔法を唱えた。その魔法は、赤い光を放つ鳥のようだ。
「デウスエネルギーか……」
デウスエネルギーで出来た鳥は真っ直ぐ真耶に向かって飛んでくる。しかし、真耶は全く動く気配がない。そして、フェニックスは真耶の目の前まで来た。
「”消えろ。そして変われ”」
真耶がそう言うとフェニックスは消え、赤い光を放つ剣が現れた。真耶はその剣を手に取る。
「デウスソードってところかな?要らねぇや」
真耶はそう言ってその剣をへし折り捨てた。
そして、指をパチンッと鳴らす。その瞬間、突如その場の雰囲気が変わった。
「っ!?なんだ……これは……!?」
「俺が創った魔法はただお前を閉じ込めるだけ。それに、お前と話している間に魔法を設定した。その能力とは、”何かを犠牲にして新たなるものを作り出す”だ。だから俺はこの空間自体を犠牲にして新たな空間を作り出した。こうやって創った魔法は普通に魔法を作るより魔力を使わないしプロセスも全て無視できる」
真耶の言葉にマーリンは驚き声も出ない。それに、真耶から溢れ出す殺気やオーラ、全ての気が波のように押し寄せ汗が止まらない。
(……これが……ラウンズ最強の男……!)
「フッ、そう怯えるな。今回この空間に付与した属性は簡単なものだ。無属性、性質は内側からだと壊れない。そして、この領域効果に絶対必中を増やしておいた。だから、お前は俺の攻撃を避けることは出来ない」
真耶はスラスラとないこの空間について述べていく。だが、聞いたところで何も変わりはしない。ただ、自分がこの空間から生還する可能性がほとんど0になってしまったということだけが分かる。
「フフフ……フハハハハハ!哀れな奴だ!変に俺の招待を暴くからだ!この領域では俺の魔法は全て必中する。つまり、俺の勝ちだ」
真耶はそう言って物理変化を……使わなかった。
「……フフフ……やはり対策してるよな。反魔法か……。なら、それが耐えきれない威力で攻撃すれば良い。久しぶり見せてやるよ。あの技を」
真耶はそう言うと体全身から溢れ出すほどの魔力を手のひらに集めだした。
「っ!?こんなところでそんな技を使えば、この空間は耐えきれんぞ!」
「あんまり俺の魔法を舐めるなよ。耐えるようにこの領域を作った」
「信じられん……!」
「別に信じてもらわなくて結構。信じる信じないは関係がない。そんなもので変わってくるような威力じゃないからな」
真耶はそう言ってさらに魔力を溜めて言った。ある程度溜まると、魔力はとんでもないほど大きくなり、雷やら何やらと災害を巻き起こす。そして、真耶の後ろに巨大な魔法陣が現れた。
「……物理変化でも良かったんだけどな……。どうやらこの”物理変化”という技は、俺の使っていた魔法の派生らしいんだ。と言っても、威力は本来の1万分の1くらいらしいんだけどね」
「……」
マーリンはもう何も喋らなくなった。多分、もう無駄だってことが分かったのだろう。それなら話が早い。
「ま、この技は普段使っていた物理変化より強いということだ。諦めろ。”理滅・歪曲”」
真耶がそう唱えると、マーリンの体がぐにゃりと歪んだ。そして、体は普通は曲がらない方向に曲がり、ぐにゃぐにゃになってしまった。
そして、その時真耶の領域が解けた。
真耶の領域が解けたことにより、奏達も再び真耶の姿を見ることが出来る。しかし、出てきたのはこれまで見たこともないような気を纏い、恐怖心を逆撫でするようなオーラを放つ真耶だった。
「ま、マヤ……さん?」
「真耶くん!どうしたの!?」
ルーナと紅音は必死に真耶に呼びかける。しかし、真耶は聞こうとしない。ただ、目の前を見つめているだけだ。
エルマも含め、その場の起きている人全員がその視線の先が気になった。エルマはスクリーンを移動させ視線の先を映し出す。すると、その先にはぐにゃぐにゃに歪んだマーリンが絶命していた。
「っ!?な、なにこれ……!?」
「き、気持ち……悪い……!おぅぇぇぇぇぇ……!」
そのマーリンの姿は人とは形容しがたく、ただの肉塊でしか無かった。そのせいか、それを見ていた人はみんな気分を害して吐き出してしまう。
『ま、真耶くん……本当に真耶くんだよね……?』
『あぁそうだよ』
彩花の問いに真耶は答える。しかし、彩花は少し涙をこぼしながらその答えを否定した。
『違うわ!あなたは真耶くんじゃない!真耶くんはそんな怖い顔をして笑ったりしない!日本にいた時も、1人で寂しそうな顔をしてたけど、奏ちゃんと話してる時とか、奏ちゃんの胸を揉んでいる時とか優しい笑顔で笑ってたもん!でも……でも、今は違う!マーリンって人を殺した時も、今も、ずっと怖い顔をしてる!怖い顔で笑ってる!そんなの真耶くんじゃないよ!』
彩花はそう言って泣き出してしまった。癒優もそんな彩花を見て泣き出してしまう。
『……俺は……真耶だよ。月城真耶……それが俺の名前だ。そして、ケイオス・レヴ・マルディアス。それも、俺の名前だ』
そう言って真耶は不敵な笑みを浮かべた。その顔は、さっきまでの真耶とは違い優しく、オーラも優しくなっていた。
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