第152話 辛い真実
━━一方その頃奏達は……
「っ!?……何しに来たの?」
エルマが奏達の前に現れていた。エルマは奏達の前に来るなりいきなり奏を蹴り飛ばす。
「きゃあっ!」
「ちょっと、なにするのよ!」
「フンッ!いい気味だわ。ずっと虫酸が走ってたのよ。あなたごときがあのお方と共に旅をするなんてね」
「何言ってるの?」
突然のことすぎてその場の誰もが話についていけない。クロバはエルマを見つめながら静かに聞いた。
エルマはその問いに対して少し考えた後言った。
「あなた達は何も知らないのね。いいわ、教えてあげる。ケイオス・レヴ・マルディアス様のことを」
突如現れたその名前にその場の全員は困惑する。なんせ、奏達はケイオスという名の人物に会ったことなんかないのだから。
「誰……なの……?」
「そこから?馬鹿な人達ね。ケイオス様ならいつも一緒に旅をしてたじゃない」
いつも一緒に旅をしていた。そう言われて思いつく人など一人しかいない。
今はここにいない人。そして、この世界に来た時から、いや、この世界に来る前から冷静すぎて、異常に肝が座ってて、人間離れしすぎている人。
そう……
「まー……くん……!?」
「そうよ。あなた達で言うところの、月城真耶様よ」
なんと、真耶がケイオス・レヴ・マルディアスという人物だった。しかも、真耶はラウンズの1人で、最強だったと言う。
「嘘……そんなことって……!」
クロバが呻くような声を出す。
「嘘じゃないわよ。信じられないなら本人に聞いてみなよ」
そう言って魔道具のようなもので何かをスクリーンのようなものに映し出した。その映し出された向こうには、なんと真耶と癒優、彩花の姿がある。
そして、3人は誰かと話しているようだ。その先を見ると、なんとマーリンがいた。
「っ!?なんで!?」
「まぁ話を聞きなさい」
そう言ってエルマは集中する。すると、どんどん真耶達の声が大きくなっていき、聞こえてきた。
『”グランドギアス”』
真耶はノーモーションでかつ陣なし詠唱なしで魔法を発動した。
突如発動された魔法にマーリンは対応しきれず受けてしまう。
とは言っても、この魔法は相手を拘束する魔法だから特に食らっても問題は無い。
「っ!?なんで!?なんでまーくんが魔法を使ってるの!?」
奏は思わずそう叫んでしまう。しかし、その声は映し出された奥の真耶に届くことは無かった。
『さすがだな。油断していたよ』
『これくらい何でもない』
『やはり、お前はわしらの元にくるべきだ』
『俺は行きたくは無いがな。そもそも、記憶を失った理由がわからん』
そう言って真耶はて右手を見つめだした。そして、マーリンの方を見て少しずつ握りしめていく。
『くっ……!』
『もう諦めろ。お前は俺に勝てるわけないんだ。前からそうだったろ』
『……クックック……お前は嘘をついている。忘れた理由がわからないだって?じゃあなぜ記憶が戻った時にわしらの元へ来なかった?』
『お前らが攻撃するからだろ』
『あれはお前が本物か確かめるためだ!だがお前はあそこでわざと負けた。そのせいでアーサー王もお前がケイオスとは思わなかったのだ!』
そう言ってマーリンは怒鳴りあげる。しかし、真耶は一切表情を変えることなくマーリンを冷たい目で見つめる。
「マヤ様……?」
『……はぁ、良いよもう。正直なこと言ってやるとだな、まず俺がラウンズをぬけた理由はお前らの頭が古かったからだ。マーリン、ラウンズの掟を言ってみろ』
『何を簡単なことを……。1つ、王の言葉は絶対。異論を述べてはならぬ。2つ、王の命は絶対。死んでも守り通せ。3つ、王を慕え。王を尊敬し崇め奉れ。王以外を崇めることは禁ずる……だ』
『そう、それが俺達アヴァロンで暮らしてきた常識。でも、日本では違う。物事は全て皆で考える。王では無いが、国のトップが間違ったことをするなら指摘する。トップを慕ってはいるが、それ以外を崇めても良い。どうだ?俺達アヴァロンとは全く違うだろ。おれ達はアヴァロンのそう言う風潮がいいものと思って生きてきた。だが違う!俺達は間違ってたんだ!全て王が支配するなんて言うことは全然いいことなんかじゃないんだ!何故それが分からない!?』
『そういうお前こそな、人々が考えるからこそ戦が起きる!戦争がおきる!聖戦が起きる!全て王が支配することで争いは無くなるのだよ!わしの考えが分からぬか!?』
『分からねぇからお前達の元へ帰らないんだろ!モルドレッドだって、ヴィヴィアンだって、ガウェインだってそうだ!俺の言っていた日本という国のあり方に共感したんだ!だからこそ俺について来てくれた!何も分からないお前らに教えてやるよ!人々の力をな!』
真耶とマーリンはそれぞれの意見を言い合う。その時初めて奏は、本気で真耶が怒鳴っているのを見た。
前に何度か怒鳴っていたが、どれも本気では無い。だからこそ、今真耶が言ってることが本気で本当のことなんだと分かった。
「……そんな……ケイオス様……なぜ、そのような考えを……」
『その理由を教えてやるよ。……フフッ、マーリンの部下と聞いて誰かと思えば、エルマ、お前俺の部下だろ』
「け、ケイオス様!申し訳ありません!」
なんと、真耶は映し出された奥から話しかけてきた。この魔法は見た感じ、会話は出来ないはずなのに。
「……まーくん……」
『奏、悪かったな。黙ってて。お前に嫌われたくなかった。どうだ?失望したか?』
「え……!?あ……その……」
そんな事ないよ。という言葉が出てこなかった。本当はそうやって言いたいのになかなか声が出ない。出てくるのは空気と恐怖心だけ。
『そうか……それがお前の答えか……』
真耶はそう答えて悲しい顔をした。そのせいで奏は慌てて正そうとする。しかし、やはり声が出ない。涙だけが溢れだしてくる。
『それで、お前はどうする?ラウンズに戻るのか?』
『……フッ、戻らねぇって言ってんだろ!”サクリファイススフィア”』
真耶がそう唱えると、突如スクリーンが真っ暗になる。そのせいで奏達は何が起きたのか分からなくなった。
「まーくん……」
奏は不安げな声で小さく真耶の名前を呟いた。
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