第151話 本当の真耶
「”ファイアーバード”」
彩花は先制攻撃として炎の鳥を作り出し相手にぶつける。
真耶はそれを見ていい手だと思った。しかし、それと同時に火力不足だとも思った。恐らくだが、この程度の火力では確実に倒せない。もし様子見で魔法を放ったのであれば、それは悪手だ。
「……ま、先手必勝って言う言葉があるくらいだしな。さて、ここから苦しい戦いが始まるぞ」
真耶はそう呟いて少し目を細めた。
「……どう?」
「ダメ。全然効いてないわ」
「やっぱり……でも、これならどう!?”ウインドスラッシュ”」
今度は風の刃だ。これならかなり火力はある。恐らくかすり傷程度はダメージを与えられるはずだ。
そんなことを思っていると、風の刃がその何かにぶつかり砂煙が上がった。そして、その中から少しだけ頬に傷をつけた何かが出てくる。
「やるな。だが、まだ火力不足だ」
「そうね。でも、行ける!」
彩花はそう言って少し杖を握る手の力を強めた。そして、魔力を込め唱える。
「”ブレイブバード”」
杖から黄色い光を放つ鳥が現れた。その鳥は見た感じなにかの属性があるというような感じでは無い。何か別の力を感じる。
その鳥は、真っ直ぐなにかに向かって飛んで行った。そして、ぶつかると一瞬で小爆発を起こす。
「これが私の最強の技よ!」
彩花が自信満々でそう言うと、その刹那、何かが爆発した。その何かはさっきまで人型を保っていたが、体のあらゆる部分が爆発したみたいで体を保てなくなる。そして、彩花はその何かを倒したのだった。
「どう?」
彩花は凄く嬉しそうに尋ねてくる。
「凄かったよ」
真耶は優しくその頭を撫でた。しかし、その時に気づく。今、彩花の後ろでその何かが起き上がり攻撃態勢に入っていることを。
「っ!?」
「え!?」
彩花は思わず素っ頓狂な声を上げる。そして、自分が真耶によって押し飛ばされたことに気がついた。
最初は不思議に思ったが、すぐに答えがわかる。さっきまでいた場所に、何かが攻撃をしてきていたのだ。
真耶は彩花を突き飛ばすとすぐにアルテマヴァーグを抜く。そして、波動を撒き散らしながら何かを切り裂いた。
何かはアルテマヴァーグに切られたことや、波動によって切られたことで体がバラバラになる。
そして、そこで完全に絶命した。
「危なかったな」
「あ、ありがとう……」
「癒優も無事か?」
「ひゃ、ひゃい!」
癒優は声を裏返らせながら返事をする。どうやら突然のことすぎて頭が追いついてないらしい。
「ま、これで倒せたから良いか」
真耶がそんなことを呟くと、今回も当然のように後ろの壁が壊れやすくなる。だが、今回違ったのは、壊れやすくなるどころか壊れてしまった。
「なんで……?」
2人は驚き言葉を漏らす。そして、その数秒後に壊れた部分に人がいることに気がついた。
「誰……?」
「待て」
真耶は2人を静止させる。そして、その人物に向かって言った。
「何しに来た?マーリン」
そう言うと、その人物の姿が顕になる。そして、現れた人物は真耶の言った通りマーリンだった。
「何しに来たかだって?そんなの決まっている。お前を連れ戻しに来たんだよ」
「え!?」
マーリンの言葉に彩花と癒優は素っ頓狂な声を上げた。そして、2人の顔を何度も見つめる。
「どういうことなの!?」
「どういうことって……こういうことだ」
「いや、そんなことを聞いてるんじゃなくて、真耶くんを連れ戻すってどういうこと?」
「ほぉ、真耶はお前らに何も教えてないのか。ではここで教えてやろう。そいつの招待をな」
マーリンはそう言って不敵な笑みを浮かべる。その笑顔と言葉で癒優と彩花は少し怖気付いてしまった。
そして、真耶の顔を見る。助けを求めているのか、それとも本当のことなのかどうなのかを聞いているのか、それとも両方か……。どちらにせよ2人は真耶に真実を確かめたかった。
真耶はそんな2人を一瞥すると言った。
「どこで分かった?」
「お前がいなくなった時だ」
「あぁ、あの療養期間か。なるほどな。だから俺の居場所がわかったわけだ。それで、なぜ今更俺を連れ戻す?」
「何を言っている?お前はわしらの仲間だ。どう言った経緯でコンスタンティンを殺したのかは分からんが、それでも仲間だ」
そう言ってマーリンは優しく手を差し伸べてくる。その時真耶は理解した。なぜあの時モルドレッドは捕まったのか。
「なるほどな。そういえばお前、よくモルドレッドとヴィヴィアンを詐欺ってたよな」
「そんなことはどうでもいい。早く来い」
「ねぇ、ちょっと待ってよ!どういうことなの!?真耶くん!」
癒優はこの話についていけなかったのか、必死に2人に呼びかける。
「この話で理解出来ぬとは。人とは馬鹿な生き物よ」
「お前も人だろ」
「違うな。わしらは神に近い存在だ」
「アヴァロンに住むだけでそんなに偉くなるとは思えん。故に俺はアヴァロンから出た」
真耶はマーリンに向かって少し強い殺気を放つ。マーリンはその殺気を受け少し困ったような表情をした後、同じように殺気を放ってきた。
「癒優、彩花、お前らに教えてやるよ」
そう言って2人の方を振り向いて話を始めた。
「俺の本当の名は月城真耶じゃない。本当の名はケイオス・レヴ・マルディアス。ラウンズの一人だ」
「それも、ラウンズ最強の剣使い、そして、ラウンズ最強の魔法使い、そして、ラウンズ最強の魔眼使いだ」
「っ!?」
癒優と彩花は驚くあまり言葉を失う。そして、まるで信じられないといった様子で近づいてきた。
「嘘……だよね?」
「嘘じゃない。なぜ俺が日本にいたのかの記憶は無いが、ラウンズであることは確かだ」
「そもそも考えてみろ。なぜこの者は異世界に来ても驚かない。それに、人を平気で殺す。さらに言うなら、なぜこの世界のことを知っている?まるでこの世界のものを事前に持っていたかのようだ。その目にしても、すぐに使いこなす。おかしいと思わなかったのか?」
癒優と彩花はマーリンの話を聞いて確かにと納得してしまった。そして、すぐに真耶の顔を見る。いつもの優しい顔だ。なのに、今の2人には恐怖しか感じなかった。
「このこと奏達には言ってるのか?」
「あぁ。俺の部下が言いに行っている。これで仲間全員から嫌われたな」
マーリンはそう言うと、気味の悪い笑みを浮かべた。
「フフフ……フハハハハハ!そんなことでアイツらが俺を嫌いになるわけないだろ。現実を見ろ。俺はお前らの敵だ」
真耶はそう言うと魔法を使った。それも、物理変化じゃ無い魔法を。
「”グランドスピア”」
「っ!?」
「え!?」
その場の全員が驚き固まる。真耶はそんな中小さく微笑みながら言った。
「当然記憶が戻ったんだ。魔法も使えるに決まってるだろ。さぁ、始めようか」
そう言って真耶は手のひらに魔力を溜め始めた。
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