第146話 疲労
あの日から何日も歩き続けた。この世界は朝昼晩の区別がなく唯一時間を知れるものと言えば、真耶の右目の力しかない。
だから、彩花と癒優は自分達が2年も過ごしたなんてこれっぽっちも思っちゃ居ない。しかも、この2年で体が成長しないように真耶が時間を分け与えた。
だから、尚更気づかれることもない。そんなことを考えていると、後ろから彩花が話しかけてきた。
「次はどこに行くの?」
「そうだな……真っ直ぐ行けば何かあったはずだ。ここに来る前に見えた」
「わかったわ」
彩花はそう言って再び出発の準備をする。
最近は彩花と癒優も戦闘に参加し始めた。さすがに守られるだけじゃ嫌らしい。そのためか、割かし楽にはなった。
だが、それでもやはりキツイ。この世界で俺は寝ることが出来ない。この2年間もずっと起きていた。もし、真耶が寝てしまえば2人は一瞬で殺されるだろう。
だから、この世界で真耶の存在はかなり大きいものだった。
「……」
「真耶くん、大丈夫?」
「ん?あぁ、当たり前だろ」
「……少し休もうよ」
癒優がかなり心配した声で言ってくる。考えてみれば、この3ヶ月はずっと歩き続けていた。真耶はなんともなかったから気にしなかったが、2人はきつかったようだ。
「そうだな。少し休むか」
真耶はそう言って周りを見渡した。そして、壁の近くに行き壁に触れる。
「”物理変化”」
真耶は壁に穴を開け洞穴を作った。そして、その中に入っていく。癒優と彩花もその後ろをついて行った。
2人が完全に中に入ると真耶は入口を閉じた。そして、中を少しだけ広くし、3人が休めるスペースを作る。
「ここなら安全だろう」
「一応結界も張っておくね」
「頼む」
「”パーフェクトスペース”」
真耶達のいる洞穴に青い光を放つ壁のようなものが出来た。
「ねぇ、私達って本当に帰れるの?」
「当たり前だろ」
「それなら良かった……」
2人は安心してその場に座り込む。だが、正直なところ帰れるか分からない。一応裏技じゃないど、時空間魔法で帰れるかもしれないが、失敗すれば終わりだしな。
「……フッ、やはり時間をかけて探すしかないか……」
真耶はそう言ってその場に座り込む。
こういうのは最終手段として取っておく他ない。ここで使って失敗してこの先何も出来なくなるより安全策をとってずっと行動してる方がいい。
それに、もしこの先何も出来なくなるようなことが起これば、2人は確実に死ぬ。それに、俺も死ぬ。
だから、今はこうやって魔力を温存しながら進むしかない。
「スースー……」
「スースー……」
気がつけば、2人とも寝ていた。やはり、3ヶ月も歩き続けたのがかなりきつかったらしい。
ま、考えてみれば俺達は日本人。こんな危険とは全く関係ない国で過ごしてきた。それに、日本じゃなくてもこんな場所など無い。
だから、2人にはこの世界はきつくて今にも泣き出したいのかもしれない。
「……」
「……ん……むにゃむにゃ……帰りたいよ……」
突如、癒優がそんなことを言い出した。どんな夢を見ているのかは分からない。だが、癒優が今の状況をよく思っていないということだけはよく分かった。
それに、癒優はいつもそうだが眠ると泣き出す。どんな夢を見ているのか分からないが、この2年間はずっと泣いていた。
もしかしたら、いつも見る夢がそんなに怖いのかもしれないがそんな奇跡みたいなこと起こらないだろう。てか、そんなことで奇跡が起こるなら早く俺達を帰れるようにしてくれ。
「……真耶くん……」
今度は彩花が何か言い始めた。起きているのかと思ったが、寝ているようだ。
「私達帰れるの……?」
まさか夢でもそんな事を聞かれるとは。どうやら彩花の中では帰れないと思っているらしい。だが、正直なところ帰れる気がしない。
なんせ、この針と同じパーツがいくつあるかも分からなければどこにあるのかも分からない。わかったとして、何年かかるか分からない。
「……」
真耶はその場で黙り込んだ。すると、突然眠気が襲ってくる。その眠気は異常だ。まるで薬を盛られたかのようだ。
だが、考えてみればおかしくは無い。なんせ、真耶は既に2年間も寝らずに起き続けてきた。たまには寝てもいいだろう。
そう頭の中で考えて真耶は深い眠りに着いた。
━━気がつけば、そこには何も無かった。真耶か作った洞穴も破壊されたのか、崩れ落ちたのか分からないが、既に無かった。
しかし、俺達は何も怪我していない。それどころか汚れ1つ着いていない。
「どういうことだ……?」
真耶はその場に立ち上がると周りを見た。魔物はいるのだが、何故か自分達のいる所まで来ない。というか来れない。
「……もしかして……」
真耶は魂眼を発動した。すると、自分達の周りに白いモヤがかかる。
真耶はこれを前に見た事がある。こんなにでは無いが、これを纏っていたやつだ。
「白虎……お前どうやって来たんだよ」
「気づいたか……初めから着いていたぞ」
白虎はそう言って姿を現す。
「お前、いつになったら寝るのか心配になってな。クロエがどんな方法でも良いから眠らせて欲しいと言っていた」
なるほどな。だから突然眠気が来たのか。だが、あんなところで眠らされると危険すぎるだろ。
そう頭の中で思って白虎に聞いた。
「クロエはいるのか?」
「ここにいるよ」
そう言って姿を現す。
「なんだよ。いるなら早く言えよ。てか、お前らなんでそんな現実感が半端ないんだ?」
「ここは冥界の狭間だからね。死者が冥界に行く前にここで1度試練を与えられるんだ」
なんでそんなところに俺達は送られたんだよ。と、即座に頭の中でツッコミをいた。
「ま、私達は霊体だけど、マヤ達は完全に体がこっちに来ているから帰るのが難しいってだけだよ」
「帰る方法を知ってるのか?」
「ううん。知らないよ。だから、皆で根気強く探していこう」
そう言ってハイテンションではしゃぐ。
まぁ、人数が増えるのはありがたいが、根気強くか……仕方がない探すしかないのか……
「フッ、俺を誰だと思ってる?根気強く探してやるよ」
真耶はそう言って彩花と癒優の元に行き、起こそうと思いながら胸を揉んだ。
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