第141話 対面……
━━どうやら作戦は失敗したらしい。だとしたらここにいるのは意味が無いな。
次の機会を狙うしかない。まだチャンスはある。
「たとえ何が起ころうともあの悲劇だけは止めてみせる」
真耶を見ていた人影はそう言って手を強く握りしめた。そして、左目に青白い光を放つ円を浮かばせた。
━━真耶は目の前の建物を見て思った。なぜか懐かしい気がすると。だが、そんなはずは無い。ここに来たことなんてないのだから。
そもそも、考えてみるとこの里は違和感だらけだ。俺だけ入れない様にする割には俺がいないと渡れない橋を作る。
一体ここの里長は何を考えているのだろうか?不思議でならない。
「よし、行くか」
『ん!』
真耶は奏達の威勢のいい返事を聞いて扉を開いた。すると、そこには1人の女性がたっている。また女性だ。その女性はいかにもメイドという服を着ている。
「……お待ちしておりました。月城真耶様ですね?」
「あぁそうだ」
女性の言葉に頷いて答える。だが、正直真耶は戸惑った。なんせ、この世界で初めて本名で呼ばれたからだ。
この世界には苗字という概念は無い。だから、自分の月城という苗字を言うとそれまで名前だと思われてしまう。
だからこの世界で苗字を言うことも聞くこともないと思っていたのだがな。
「ねぇ、まーくん。彼女どう思う?」
奏はヒソヒソ声で話しかけてきた。彼女をどう思うか。まだ分からないな。この段階では判断の付けようがない。
「まだ分からない。判断材料が少ないからな。ただ、何かしらの不思議な力を感じる」
真耶はそう言ってその女性を見た。彼女からはどことなく懐かしいような気もする。だが、それ以上に異様な雰囲気が出ている。
これは少し気をつけなければならない。真耶はそう思ってその女性に近づいた。その女性は1度頭を下げると突然話し始めた。
「では、向かいましょう。ちなみにですが、私の名前はエルマです。よろしくお願いします」
「よろしくな」
エルマは再び頭を下げると真耶達の案内を始めた。
歩いていて思ったが、この建物はどこか仰々しいところがある。だが、ある程度進むと突然和風な雰囲気を出し始める。和洋折衷な建物だ。
それに、至る所にトラップが隠されている。それはまるで忍者屋敷のようだ。
「凄いですね。こんなに豪華な屋敷は見たことがないです」
「ほんとですね。これだけ広いと掃除も大変でしょうね」
「お前らはしゃぎすぎて迷子になるなよ」
「さすがにそこまで馬鹿じゃないよ!」
奏達ははしゃぎながら歩いている。なんだか心配だが、多分大丈夫だろう。
真耶とシュテルは少し警戒しながら歩みを進めた。
「そうだ、この際だから聞いておくけど、右腕はどうしたんだ?」
「これか?これはな、カジノの街で的と戦った時に失った」
「そうだったのか……だが、なぜ治さなかった?」
「治せないんだよ。切断面に使ったクロニクルアイの力が暴走して解除できなくなった。それを治すためにここに来たんだ」
「そうだったのか……済まないな。悪いことを聞いてしまった」
「いや、良い」
真耶はそう言って右肩を見た。やはり、まだ解除は出来ていない。それに、切断面はまだ血が流れようとしている。切断面の時間が止められているからこぼれはしてないが、止めてなかったら出血多量だ。
それに、この時間を止めている時に寿命が縮まないのがずっと続くわけじゃない。本来クロニクルアイを使えば自分の時間が無くなる。だが、何故か今は時間を使わない。それがなぜなのかは分からないが、この状態がずっと続くとは思えない。
「……はぁ、なんだか嫌なことが続くな」
「月城真耶様、着きました」
「ん?あぁ、了解した」
突然女性は立ち止まり振り返るとそう言ってきた。しかし、そこに部屋などない。それどころか、何も無い。後ろには無限に続く廊下があるだけだ。
「あれ?何も無いよ」
「そうですね。マヤ様はなにか見えますか?」
「……」
「見えるのかい?」
「……姉貴は見えるか?」
「私?私が見えるはずないだろ。なんせ真耶が見えないのだからな」
玲奈はドヤ顔でそういう。真耶はそれを見て少し呆れるが何も言わない。そして、そのままここ最近ずっと黙り込んでいるヴィヴィアンと何故か突然甘えん坊になってきたモルドレッドに目をやった。
「お前たちは?」
「私は見えないよ」
「私も見えないわ」
「やっぱりか……」
「まーくんは?」
「見えてないよ。でも、分かる。目の前にあるのが」
真耶はそう言って左手を前に突き出す。奏達はそれが理解できなかったのか、首を傾げてこっちを見ている。
「ま、なんでもいいけどさ、行こうぜ」
真耶はそう言って扉があると思わる場所を触れた。何かある感触がする。真耶はその何かを手探りで探す。そして、ドアノブのようなものを見つけた。
「真耶様以外の方はこちらでお待ちください。勇者様方もそちらでお待ちになっております」
エルマはそう言って奏達を別のところに案内し始めた。
「一緒に行ってはダメなのか?」
「はい。こちらでお待ちください」
シュテルの言葉に静かに答える。その様子を見ると、まるで真耶以外の人物を入れたくないみたいな感じだ。
「……シュテル、こいつらは俺に用がある。なら、俺が行くべきだろ」
真耶はそう言って扉を開いた。シュテルは少し心配しながらも微笑んでエルマについて行くことにした。奏達は少し心配していたが、真耶を信じているのか笑顔で見つめるだけだ。
真耶は皆の顔を見て不敵な笑みを浮かべるとその中へと入っていった。
「さようなら……。では、行きましょう」
エルマはシュテル達にそういうと、静かに待合室のような場所まで歩き始めた。奏達はそんなエルマについて行くことにした。
「……なぁ、どう思う?君は真耶が無事に帰って来ると思うかい?」
「思うわ。だって、まーくんは最強なんだよ」
「そうだといいんだが……嫌な予感がするんだ」
「わ、私もです」
後ろからルーナの声がした。ルーナは全身を震わせながら恐る恐る話してきた。
「ルーナ……あなたまで……」
「カナデさん……私も嫌な予感がします」
クロバも同じように言ってきた。その様子は、不安と恐怖に犯されてしまったかのように両手足を震わせている。
「マヤ……必ず生きて帰ってこいよ」
シュテルのその言葉はその空間に静かに響き渡った。そして、その場の全員が真耶が帰ってくることを願った。
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