第139話 時の門番
それから2時間ほど飛び続けた。ある程度飛ぶと、森が見えてくる。ここからはエレメントの国を抜け、カクテルの国に行くのだが、どうやら時の里と言うのはこの間に位置するらしい。
真耶は森が見えてきたので、そこに向けて降下をはじめた。高いところから見ていると気が付かないが、この森はかなりでかいらしい。
なんというか、全てでかい。果物も草も花も木も全部でかい。と言うかデカすぎる。自分の身長が177cmくらいだったからそこから換算しても100mくらいは余裕である。
「でかすぎるだろ……」
「私も初めて見たんですが、デカすぎですね」
「なんだ?君達は初めてだったのかい?」
「お前は初めてじゃなさそうだな」
「前に何度かきたことがある。その時とこんな感じだったよ。でも、前より植物が枯れている……」
シュテルはそう言って少し顔を暗くした。どうやらアーサーの力はここまで及んでいるらしい。だとしたら、ここに来るのはまずい気がする。なんせ、ここまでアーサー達は真耶を襲いに来ることが出切るからだ。
もしそうなれば、ここは一瞬で戦場となる。
「……アーサーの力……か。まさかここまでとはな。だったらあの小さな炎はマーリンの消えない炎か?」
「そうだね。彼の炎は凄まじいからね」
「彼?彼女だろ」
「どういうことだい?僕が見たのは老人だったよ」
シュテルはそんなことを言ってくる。まさか、あいつは姿を変えることが出来るとは。恐ろしいな。
……いや待て、多分姿を変えてるのは光魔法かなにかだろう。俺達の目に映る光を変える魔法だ。
そして、この魔法が使えるということは、もしかしたら俺達の周りにいつもいるかもしれないということだ。
まぁ、この魔法の弱点は、ただ姿が変わっただけでステータスは何も変わってないし、気配や魔力はダダ漏れだということだ。
「……はぁ、本当にめんどくさいやつらを呼んだな」
「うっ……ご、ごめんなさい」
真耶の言葉に玲奈は小さくなっていく。そして、小さな声で謝った。
さすがに、自分が召喚したせいでこんなことになってしまっている以上、自分が悪いのはもう決まっている事だ。それに、真耶の右腕が無くなったのも自分のせいだ。
玲奈はそのことを思い悩んでどんどん肩身が小さくなっていく。
「……」
「何悩んでんだよ。過ぎたことは忘れろ。過去のことを思い悩むんじゃなくて、未来のことを考えろ」
真耶は振り返りそう言うと再び歩き始めた。その言葉に玲奈は少しだけ心が救われた気がした。
「フッ、全く、見せつけてくれるじゃないか」
「ん?なんか言ったか?」
「いいや、何でもないよ」
シュテルは優しく微笑みそう言って歩き始めた。
ある程度進むと森はどんどん茂っていく。しかし、なぜか入口のようなものは見当たらない。シュテルの話によればここら辺だという。
「なぁ、どこにあるんだよ。ないじゃないか」
「あれ?おかしいなぁ。確かにここにあるはずなんだけどなぁ。ちょっと伝書鳩を飛ばしてみるよ」
「いや、いい」
準備を始めるシュテルを真耶は静かに止めた。そして、目の前を向き殺気を強める。
「あ、出入口が出てるよ」
「真耶くん行こ」
「……いや、先に行っててくれ。歓迎されてないのは俺みたいだからさ」
そう言って覇滅瞳剣アルテマヴァーグを手にした。そして、イマジネーションアイの力を使い右手を構築する。
「っ!?待て!まだ敵と決まった訳では……っ!?」
シュテルが何かを言い終える前に突然現れた女性は真耶に攻撃を仕掛けてきた。真耶はその攻撃をすんでのところで回避する。そして、流れるような動きでアルテマヴァーグを振るった。
しかし、その刃はかすりもせずに避けられる。しかも、その女性はありえない角度で避けている。なんと、体を90度くらい逸らしているのだ。
「ちっ、柔らかい体だな」
だったら、回避不可能な攻撃をすればいい。簡単な事だ。真耶は1度距離を取ると両手を大きく開く素振りを見せる。その時、微かに波動を漏らして女性に牽制をする。
「終わりだ」
真耶は流れるような動きでアルテマヴァーグを天に掲げると、勢いよく振り下ろした。
とてつもない威力の波動が女性に向かって飛んでいく。高密度に圧縮された波動はその状態を維持することが困難だ。だから、周りに波動を撒き散らしながら突き進んでいく。
しかし、女性はその波動を消してしまった。
「っ!?まさか……!いや、関係ない。俺の勝ちだ」
真耶は一瞬だけ驚くが、すぐに冷静になりそう言った。軌道は完璧だ。波動を使って細かい修正を出来た。あとは、自分が正確に撃つことが出来るかだ。
そんなことを考えていると、突然女性が頭を下げた。その直後に後ろから手裏剣が飛んでくる。これは、真耶が両手を開く素振りを見せた時にこっそり飛ばしたものだ。波動を少し放ったのは、カモフラージュと手裏剣の細かい位置調整だったのだが、どうやら上手くいったらしい。
「この勝負、俺の勝ちだ」
真耶は不敵な笑みを浮かべて右手を前に突き出した。そして、右手から白と黒の光線を放った。これは、ディスアセンブル砲だ。真耶の放ったディスアセンブル砲は手裏剣のちょうど真ん中の穴が空いている部分にぶつかると、突然乱反射した。
そう、真耶はその穴がある部分に凸凹にした鏡をセットしていたのだ。だから、そこにぶつかった光系統の魔法は全て乱反射する。さすがにこれは避けられなかったらしい。女性はその光に体を貫かれた。
右手の二の腕の部分、右足の太もも、左手の手のひら、左足のスネ、左脇腹、そして左肩。さすがにその部分を貫かれると体は動かせない。
完全に身体中に力が入らなくなった女性はその場に力なくへたりこんだ。真耶はそんな女性に近寄る。
「おい、お前は何者だ?」
真耶はそう聞きながら仮面を無理やり奪い取った。仮面の中からは可愛げな女性の素顔があらわになる。
「クッ……!どこでその力を手に入れた……!?どこでその目を手に入れた!?」
「フィーストの国のルーレイトの街だ」
「そういうことを聞いてるんじゃない!その力は、私達だけの特別な力なのよ!私達の血族だけの、特別な力なのよ!」
「それがどうした?たとえそうだとしても、現に俺は持っている。このとことについて文句をつけたいなら今すぐ過去に戻って俺を阻止してみろ。だが、そうなればこの世界はとっくに滅ぼされてるがな」
真耶はそう言って殺気を強める。
この世界もどうやら過去改変は危険らしい。やはり、バタフライエフェクトというものが起きてしまうようだ。
「とりあえず、さっさと俺達を案内しろ。殺されたくなければな」
真耶はそう言ってその女性を拘束した。
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