第138話 またまた剣聖
━━真耶は1人で立っていた。周りには人はいない。目につくものは全て地獄のようだ。
全てを焼き尽くす黒い煉獄の炎。どんなものも一瞬で風化させる死の風。そんじょそこらの炎など、この世界では1秒とも持たない。それくらい冷やされた空気。逆に、氷を出せば一瞬で溶かされる。それくらい熱せられた地獄の熱気。
落ちれば底は無い。永遠に落下し続ける。し死ぬまでだ。
この世界からは戻ることなど出来ない。例え、いかなる魔法を駆使したとしてもそれらは全てかき消される。
この世界に終わりは無い。永遠に続く時間と道をひたすら歩き続ける。いつか、帰れる日を願って。
「あ……」
魔物がいた。この世界の魔物は少し特別だ。まず、異常に強い。単純な攻撃は確実に当たらない。それどころか、跳ね返される時だってある。
また、相手の攻撃は避けることが出来ない。たとえ避けても、見えないところから攻撃が来る。それらは全て緻密に計算された攻撃だ。
どうやらこの世界の魔物は賢いらしい。それに、とんでもなく強い。まさに完璧だよ。こんなに強い魔物と戦ったのは初めてだ。
真耶はそんなことを思いながら目の前の魔物を見つめた。気がつけば、もう目の前にいる。その速さは一瞬にも満たない。
「”物理変化”……フッ、やはりな」
やはり魔法は発動しない。ここでは全ての魔法はかき消される。何をしても無駄なのだ。
「もう何年ここにいるかな……3000年くらいか?」
ここと向こうの世界では時間軸が違う。こっちの1000年は向こうでは1日。まだ3日ほどしか経っていない。
「……必ず俺は帰る。待ってろよ……皆」
虚空の彼方にそう呟いて、真耶は再び歩き始めた。
━━真耶は1人立っていた。他の皆は準備をしていてまだ外に出てきていない。
「……」
「まーくん」
後ろから声をかけられた。振り返ると皆いる。どうやら準備が出来たらしい。真耶は静かに奏達の元まで歩き絨毯を広げた。
「遅いな。じゃあ行くか」
「ん!」
威勢のいい返事と共に、真耶は絨毯に魔力を注いだ。すると、絨毯はふわりと空中に浮かぶ。
真耶はそのまま魔力をどんどん注いでいった。すると、絨毯は前に進む。
「……」
目的地は時の里。1度冒険者の街に戻ろうかと考えたがら直接行くことにした。一応手紙は出している。だから、大丈夫だろう。
「ねぇまーくん、さっきは何考えてたの?」
突如奏がそんなことを聞いてきた。どうやらさっきの自分の様子を見られて居たらしい。少し絨毯の中を覗くと奏だけじゃなく、他のみんなも不思議に思っていたようだ。みんな真剣に聞いている。
「さっきか?さっきは少し嫌な予感がしてさ。なんだかお前らに悲しい思いをさせるような気がするんだ」
「悲しい思いですか?」
「そう、何なのかは分からないけどさ」
真耶は不思議そうに首を傾げるルーナにそう言った。ルーナは少しだけ不安げな顔をするが、すぐに笑顔になる。
奏は、真耶の話を聞いて少しだけ戸惑った。真耶がこんなことを言う時は、必ず当たる。それを知っているからだ。
だから、当然玲奈も少し怯える。もしかしたらここで何者かに襲われるかもしれない危険性もあるからだ。
「……そう言えば、マヤさんは時の里がどこにあるのか知っているのですか?」
「え?どういうこと?」
クロバの問いに奏は首を傾げる。
「時の里というのは隠れ里なんです。だから、特殊な手順を踏まないと入れません。ましてや、見つけることも困難です」
「そうなんだ!?」
「それで、マヤさんは知っているのですか?」
真耶はクロバのその問いに少し考える。確かに探すのは苦労するだろう。だが、真耶は時の里の場所も行き方も知っている。
「知っているさ。全て時眼が教えてくれるから」
そう、クロニクルアイが全て教えてくれるのだ。場所も行き方も。恐らくだが、真耶自身のクロニクルアイが正常に作動しなくなったことで、時の里が真耶を呼んでいるのだろう。理由は分からないがな。
まぁ、呼ばれたらからには行ってやろう。もしかしたら、この目が治る可能性だってある。
「……っ!?」
「マヤ様、何者かが接近してます!」
絨毯の中からフェアリルの声がした。どうやらフェアリルも気がついたらしい。さっきからとんでもないスピードで強大な力を持ったものが2人こっちに向かってきている。
(まさか……あの破壊兵器か?いや、それだとしたら気配が……て、この気配はあいつじゃないか)
「マヤ様?どうされましたか?」
「……こいつはあれだな。見方だ」
真耶はそう言って絨毯を止めた。すると、突然絨毯の上に男が現れる。恐らく走ってきたのだろう。めちゃくちゃ息を切らしている。
「……はぁ、はぁ、マヤ……どうしてこんな遠い場所にいたんだい?」
「仕事だよ。オーブを探そうかと思ったが、無かった。だが、敵の幹部の1人は倒したからな」
「なっ!?また君に離されてしまったな」
「いや、勝負してないだろ」
2人はそんな会話をする。その相手は、白い髪で、短い。髪はストレートで腰には神精霊剣シュテルンツェルトを携えている。
もうお分かりだろう。この男はシュテルだ。なんで来たのかは知らないが、この剣聖は俺のところまで走って来たらしい。
「なんで来たんだよ。なんか用か?」
「いや、予言が出てね。君がなぜか地獄のようなところで5000年以上過ごさなければならないという予言が出た」
「は?意味わかんねぇよ。5000年?そんなに生きれるわけ……ないこともないな」
その時、真耶は突然思い出した。そう言えば、今は時喰いをして寿命が5000年近くあるのだということを。
じゃあ、もしかしたらその予言も当たっているかもしれない。それに、俺自身も嫌な予感がした。こんなに悪い予言やら何やらが続くということは、本当にその事が起こるかもしれないということだ。
「注意しておけよ。君がいなくなれば、他の皆が悲しむ」
「……あぁ、分かった」
真耶は静かに頷くと力強く手を握りしめた。
「……フッ、ま、私が一緒に行くから大丈夫だろうけどね。一応勇者も時の里に向かっている」
「は?なんでだ?」
「私が向かわせたからに決まってるだろ。君が行くと言ったら喜んで向かっていったよ」
真耶はその言葉に呆れて何も言えなくなった。しかも、この話の流れだとシュテルも来るみたいだ。仕方がない。
「はぁ……なんだか嫌な予感がするよ」
真耶は小さく呟いた。
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