第136話 強襲ランスロット
宿につくと、真耶はすぐに部屋に入り静かに椅子に座った。さすがにあれだけの戦いをすれば体力が消耗される。
それに、想像眼を使うと脳をフル回転させるから目眩がする。魔力云々と言うよりそっちの方が問題だな。
それに、この右腕……元の右腕と同じだ。だが、これは再生した訳でも回復した訳でもない。なんせ、再生も回復も封じられていたからな。だとしたらこの腕はなんだ?偽物なのか?それともただの想像の産物でしかないということか?
わけがわからない。それに、使いすぎて隙を産む可能性だってある。気をつけて使わなければならない。
「……白虎か……あいつがいるなら朱雀とか玄武とかもいるのだろうか。いたら心強いが、仲間になるとは限らないからな。気をつけなくてはならないな」
真耶は小さくそう呟いた。
「まーくん、そういえばなんだけどさ、この腕どうするの?」
奏はそう言って腕を収納魔法の中から取りだした。
「っ!?なぜ俺の腕を持ってる?」
「たまたま拾ったんだ」
「マヤ様が喜ぶと思ったんです」
そう言ってフェアリルが後ろから助け舟を出してきた。そうか。確かに嬉しいな。2つあれば比較もしやすい。
真耶は自分の右腕を受け取ると、神眼でその腕を見つめた。見ると、驚くべきことがわかった。
なんと、自分の腕の性質が2つとも違うのだ。今着いている右腕には幻覚を見せる幻術に長けた魔力が。奏が持ってた自分の右腕には何も付与されていなかった。
そして、今の俺に着いている腕はただの魔力の塊らしい。だから、こっちの腕が本物だ。
道理でおかしいと思ったんだ。なんせ、この腕の傷は治らないと言われたのに治ったからな。
真耶はそんなことを思いながら自分の右腕を消そうと試みた。頭の中で消すイメージをすると簡単に消えた。そして、切断された右腕が出てくる。その切断面には針が止まった時計が描かれていた。
真耶はその時の歩みを……
「待てよ……なんでクロニクルアイを解いたのに時間が止まってる?」
考えてみれば不思議な事だ。なんせ、この時間を止めて居た力は既に解除済みだ。だから、止めた時間は歩み出したはずなのだ。だがしかし、この腕の時間は止まっている。
真耶は少し焦ったがすぐに右腕の時間を進め始めた。止まっているのなら解除するのではなく進めるのだ。だが無理だった。
どういう訳かそこだけ時間が進まない。それどころか、右目に浮かぶ時計の針も動かない。
(まさか、まだ狂っているのか?)
真耶の頭の中にはそんな言葉が思い浮かんだ。確かに、コンスタンティンとの戦いで何故かクロニクルアイの制御が効かなくなってしまった。だから、上手くクロニクルアイを使えない。でも、その理由が分からない。もしかしたら、やつがスロットでそういう目を引き当てていたのかもしれない。
まぁ、何はともあれ真耶の右腕は治らないということだ。
「奏、その腕ずっと持っていてくれるか?」
「良いけど……どうして?」
「何故か腕が治らない。クロニクルアイの力が解除出来ないんだ」
真耶は冷静に状況を伝えた。すると、その場にいた全員は慌て始める。
「そう慌てるなよ。いずれ治る」
「で、でも、マヤ様の右腕はどうするのですか!?」
「一応作れるから大丈夫だろ」
「待って!私がマヤくんの右腕になる」
突然モルドレッドがそんなことを言い始めた。そして、真耶に右側から抱きつく。急にどうしたんだろ?
「待って!じゃあ私は真耶の左腕になるわ!」
そう言って玲奈が左側から抱きついてきた。その様子は、恋敵が好きな人を横取りしようとする時の姿に似ている。
「あのなぁ、そんな引っ張り合うなよ。仲良くくっつけ」
真耶がそう言うと、突然ピッタリくっつく。本当に何を考えているのか分からない。
「むー!私はマヤさんの右足です!」
「あ!私は左足です!」
次にルーナとクロバが両足にしがみついてきた。もう訳が分からん。これではただ拘束された男だ。
真耶は呆れて何も言えなくなってしまった。
「ん?フェアリルとヴィヴィアンは興味無さそうだな」
「……」
真耶がそう言うと、突然2人がお腹に抱きついてきた。やっぱり来るようだ。と、言うことは、奏とアロマも来るはずだ。
「まーくぅん!」
やはり来た。奏は真耶の背中から飛びついてきた。
「アロマはどうする?」
「え?その、の、残ってるところが……その……」
そう言って指を指してくる。そのアロマの顔はとんでもなく真っ赤だ。
だが、その理由もすぐにわかった。今、アロマが抱きつくことが出来るのが、股間しかないのだ。さすがにそこに抱きつきたくは無いらしい。
「そうか、悪かっ……」
真耶が言い終える前にアロマは股間に抱きついた。
……いや、抱きつくのかよ。
まぁいいけどさ。
「てか、暑苦しいんだけど。早くどいてくれ……っ!?」
その時、真耶はなにかとんでもないものを感じた。そして、すぐに左側にしがみついている人を体をひねり右まで移動させる。その2秒後に、その場に薄紫の光を放つ白い矢が飛んできた。
「お前ら、離れろ」
真耶の一言で全員察する。モルドレッドはいち早くその場を離れディスアセンブル砲を放った。
「おいおい、仲間に向かって危ないなぁ」
そんな声が聞こえてくる。そして、出てきたのは意外な人だった。
「ランスロット……何しに来た?」
「怖いなぁ。俺が来た理由はね、お前らを殺しに来たんだよ」
ランスロットはそう言って剣を構えた。真耶は即座にアムールリーベを取り構える。そして、右手に白虎の力を宿らせた。
「死ね。”白虎冥爪・絶裂”」
鋭い爪がランスロットを襲う。しかし、ランスロットはその攻撃を難なく受け止めた。しかし、すぐにアムールリーベがランスロットを襲う。さすがにこれは防げなかったようだ。そのまま吹き飛ばされる。
「まーくん!炎だよ!”ゴッドフェニックス”」
奏は炎を真耶に向けて放ってきた。それを、アムールリーベで吸収する。
「助かった。これで終わりだ」
そう言ってアムールリーベを振り下ろす。すると、ランスロットに向かって炎の斬撃が飛んで行った。ランスロットはそれをスレスレのところで避けるとすぐにその場を離れる。斬撃は、そのまま後ろの壁を切り裂いて焼き尽くした。
「今なら勝てると思ったのにね。また来るよ」
ランスロットはそう言って帰って行った。
「一体なんだったんだよ。いきなり来ていきなり帰っていったぞ」
本当に訳が分からない。
「……フッ、なんでもいいや。今ので次の行き先が決まったからな。次は、時の里に行くぞ」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
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