第133話 黒い男の正体
VIPルームの前にはやはり人がいた。どうやらこの騒ぎでもここを動かないつもりらしい。
殺すのは簡単だが、それだと良くない。もしかしたら、この人は操られているだけの可能性もあるからだ。
だったら、殺さず退かす。簡単な事だ。
「退け」
「……」
「フッ、そっちがそのつもりならこうするだけだ」
真耶はそう言って男の胸ぐらを掴むと自分の顔に寄せ付けた。そして、左目を赤く光らせる。
邪眼だ。その目の力で男に精神的なダメージを与える。男はその目を見て一瞬で精神を破壊されるとその場に倒れた。
真耶はその男が倒れ、意識を失ったことを確認するとそのままVIPルームの中に入っていった。
「……待ってたよ」
入るなりいきなりそんなことを言われた。奏はその声に驚き真耶に抱きつく。真耶はその声がした方向……VIPルームの中心を見つめた。
人がいる。この金ピカの部屋には似合わない黒いオーラを纏った男だ。それに、黒い服も着ている。傍から見ればただの犯罪者だ。
「まぁ、日本ではお前みたいなやつのことを犯罪者って言うんだけどね……君みたいな人はこの世界でも犯罪者だし嘘つきだね。見た目を騙すというのは詐欺罪じゃないのかな?なぁ、コンスタンティン」
「……よくわかったな」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってる?」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。そして、とんでもなくでかい殺気を放つ。すると、黒い男は全身から白い光を放った。
光が収まると、中から人が出てくる。その人は、見たことがない人物だった。だが、真耶だけは見たことがある。あの日、アーサーから逃げた時に後ろの方にいた男だ。
「再開に感謝だ。そして、死ね。”物理変化””ディスアセンブル砲”」
真耶は男に向かってディスアセンブル砲を放った。すると、手のひらから黒い光線が放たれる。その光線は、コンスタンティンにぶつかるとすぐに消滅する。
「危ないな。いきなりあんな技を撃つなんて。それに、その技はモルドレッドの技だ」
「そのモルドレッドはお前らに愛想をつかして俺のところに来たよ」
「そうか。そういえば、黒騎士に拷問させてたのを思い出したよ。まだ生きてたのか?」
コンスタンティンは煽るように言ってくる。確かに顔はうざいし言い方に腹が立つが、別になんとも思わない。それでブチギレることなんてない。
「ま、なんでもいいけどさ、死ねよ。”物理変化”」
真耶は魔法を唱えて左手の手のひらから雷を発生させた。そして、無くなった右腕の部分も雷で再現する。
「ほぅ、そのような芸当ができるとはな」
「驚いて腰を抜かしても良いぜ」
「そんなこと俺がする訳ないだろ。”エンドスロット”」
コンスタンティンが呪文のような言葉を唱えた。すると、スロットのようなものが現れ回転を始める。
まずいな。この後とんでもない魔法が来る。さて、どうするべきか……
「守りは……愚かだ!」
真耶はそう叫んで一気に距離を詰めた。コンスタンティンもいきなり距離を詰められ戸惑うが、すぐに数字を揃える。
7……9……1……
ハズレか?いや、そんなはずは無い。恐らくだが、なにか来る。この距離だ。もう殺せる。
真耶は狙いを定め、雷で擬似的に作った右腕でコンスタンティンの胸を貫こうとした。しかし、出来なかった。
なんと、コンスタンティンの胸に透明な壁がある。その透明な壁は、全く右腕を通さない。
真耶がそれに気を取られていると、コンスタンティンはスロットをもう一度回してなにか当てていた。
6……3……6……
まずい。殺られる。嫌な予感しかしない。多分次にくる攻撃は斬撃か何かの攻撃だ。
「チッ……!”空間変化”」
真耶はすぐに左目を見開いて空間眼を使い、真耶のいる空間と少し離れた空間を変化させた。
そして、その直後に真耶がいた空間が切り裂かれた。
「まーくん!援護だよ!”グランドインパクト”」
奏は呪文を唱えながら床に杖をコツンとつけた。すると、とんでもなく大量の魔力が床に流れ込みコンスタンティンの足元に移動する。
そして、突如コンスタンティンの足元から先端が尖った岩山が突き出してきた。
「マヤさん!私も援護です!”ブレイブオーラエンチャント”」
クロバが真耶と紅音の勇敢な気持ちを沸き立たせる魔法をエンチャントした。そのおかげもあってか魔力が通常の3倍か4倍くらいに増えている。
「このまま決める!紅音!」
紅音は真耶の合図を聞きコンスタンティンのいるであろう先端まで飛んだ。やはり生きている。
コンスタンティンは紅音の存在に気がつくと、すぐに殺そうとする。しかし、その後ろから真耶がコンスタンティンの頭を貫いた。
しかし、それだけでは終わらない。真耶はそのまま右腕の形を剣に変化させコンスタンティンの体を縦に切り裂く。
すると、コンスタンティンから紅く染まった液体が吹き出てきた。そして、力なく崩れ落ちていく。真耶はそれを見ながら手に着いた血を振り払った。
「終わりだな」
「いいや、まだ終わりはしない」
「っ!?」
なんと、コンスタンティンが体を再生させながら起き上がってきた。その体に着いている軽いキズは既に治っている。
……なんという回復力だ。これも、エンドスロットと呼ばれるものの力か。
数字は7……7……7……
「っ!?やられた!」
まずい!7のゾロ目なんかだしやがった!フィーバータイムって感じか!
「フッ、貴様もこれで終わりだ。”エンドスロット”」
コンスタンティンはそう言うと、もう一度スロットのようなものを回し始めた。それはクルクルと回転すると、最悪の数字で止まった。
「どうだ!7のゾロ目だ!フィーバー中の7のゾロ目はな、ジャックポットになるんだよ!」
コンスタンティンがそう言うと、魔力がとんでもなく跳ね上がり体が真っ黄色に光り始めた。
その魔力が膨大すぎるせいで、辺りに稲妻が走る。そして、台風のような爆風がVIPルームに吹き荒れた。
「まーくん!炎魔法なら何とかなるんじゃない!?」
「バカ!やめとけ!爆発するぞ!あいつこのどさくさに紛れて火薬を巻いてやがる!それに、この部屋には火薬がしき積まれている!」
「フハハハハハ!よくわかってるな!そこのおバカちゃんとは違うようだ!だがな、それがわかったところで貴様は俺には勝てん!」
確かにその通りだ。右腕がない以上火力不足だ。それに、ずっとクロニクルアイで右腕の切断面の時間を止めているが、いつまで持つか分からない。
真耶はそんなことを思いながらコンスタンティンを見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
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