第131話 反撃の開始
真耶の体はかなりの重症だった。見た目だけだと腕の方が酷いが、実際に治療してみると全身傷だらけだ。
まず、左腕の筋肉が断裂している。それに、痙攣が止まらない。恐らく、雷を発生させた時に感電したのだろう。奏が触ると静電気なのか、漏電しているのか、バチッとくる。
そして、何より右目だ。時計の針が壊れている。
どういうことか分からないって?確かにこれだけじゃ分かりづらいだろう。詳しく言えばこうだ。
時計の針が歪み、時計の文字も歪んでいる。そして、カチカチと壊れた時計のように動いている。この様子を一言で表すなら、まさに狂っているという表現が妥当だろう。
一体どうやったらこんなことになるのだろう。そんな考えが、その場の誰もの頭の中に浮かんだ。
しかし、言葉にすることが出来ない。真耶のその苦しそうな様子を見て、みんな言葉を失ってしまった。
「……まーくん……そろそろ右腕の魔法を解いてよ。解いてくれないと傷が治せないよ……」
「無理だ。右目がおかしい。使いすぎたせいで狂ってやがる。それに、この腕の傷は治らない」
「そんな……」
奏はその言葉を聞いて、顔を俯かせた。
それにしても、なぜ右目が安定しなくなったのかが謎すぎる。一体なぜなのだろうか。
技の使いすぎか?いや、前に使った時は何ともなかった。ということは、これまでやってこなかったようなことをして、こんなふうに狂ってしまったというわけだ。
「……喰らい、放出する……っ!?まさか……!」
その時、なんとなくわかった。なぜこうなったのか。その理由はこうだ。
真耶は始め右腕の時間を戻した。そして、時間を止めた。さらに、時間を喰らった。そして最後に喰らいながら放出した。
恐らく、時間を喰らうのと、放出するのを同時に行うと、時間軸がおかしくなり狂ってしまうのだ。
「まーくん……どうしたの?」
「……クソッ……!もうダメだ……奏の胸を揉ませてくれ……」
「ふぇぇ!?か、からかわないでよ!」
突然真耶がからかうと、奏は顔を真っ赤に染め上げてプンプンしながらポカポカ殴ってくる。
……てか、回復してるのに殴ったらアウトだろ。とかいうことはこの場では禁句だ。
まぁ、そんなことは置いといて、早くこの状況を何とかしなければならない。まず、奏なら呪いを解けるかもされないが、右目の力が治らない以上呪いをとくことも、腕を治すことも出来ない。
そして、あまり時間をかけすぎると逆に、ルーナ達にかけた保険が解かれてしまうかもしれない。そうなれば、ルーナ達は犯されるだけだろう。白濁の液体でデリケートゾーンをぐしょぐしょにされ、尊厳を奪われる。
「……なぁ、今回の敵ってさ、俺が勝てる相手だと思うか?」
真耶は唐突に奏に質問した。すると、意外なこと絵が帰ってきた。
「勝てないよ」
「……やっぱりそう……」
「そんな様子のまーくんじゃ勝てないよ。いつもみたいに驕り高ぶりながら不敵な笑みを浮かべて私達に持ち前のドSっぷりを見せつけないと、勝てないよ」
そんなことを言ってくる。
「……そうか。フッ、確かにそうだな。俺が勝てるかじゃなくて、相手が俺に勝てるかどうか分からないからな。俺が勝つことは決定事項だ。なんでそんなことを忘れてたんだろうな」
そんな訳の分からないことを言う。すると、奏はにっこりと笑顔になって抱きついてきた。
「戻ったね。……でも、なんでそんなに弱気になってたの?」
「……カジノで……」
「っ!?もしかして、ルーナちゃん達に何かあったの!?」
「いや、まぁ、何も無かったわけじゃないけど、そっちじゃなくて、カジノでさ……俺、1つも当たらなかったんだ。まるでコイン掃除機だよ。どんどん吸い込まれていって、それが何だか悲しくて……」
そんなことを言って涙を流す。確かにそれは辛い。だが、そのコインは無料で貰ったものだし、別に損はしてないのだが、なんだか心がすり減ってしまった。
真耶がそんなことを言って目の前の虚空を虚ろな目付きで見つめていると、奏達が呆れた目で見てきた。
「まさか、まーくんがそんなに落ち込んでたのって、カジノに負けたから?」
「……負けてないもん。負けたんじゃなくて、楽しんだんだもん」
まるで子供のように意地を張る。その様子を見てなんだかおちょくりたくなったのか、奏は指でつんつんし始めた。
当然のことだが、真耶にそんなことをすれば、倍返しされる。奏は、それがわかっていながらいつもやってしまう。そして今回もやってしまった。
当然奏は真耶に手を掴まれる。そして、気がついた時には真耶に向かってお尻を突き出す体制にされていた。
「……どうする?このままおしりペンペンの罰を受けるかおしりペンペン罰を受けるかどっちか選べ」
「ひ、1つしかないじゃん……」
「そういうことだ」
「どういうことぉぉぉぉぉぉ!」
奏の叫び声が聞こえた。そして、其の数秒後にバチィィィィィン!という悲痛な音が響いた。
「い、痛い……いらいれふ」
奏はそう言ってその場に経たり混んだ。しかし、真耶はすぐに絨毯の出口まで行くと、当然のように言った。
「お前ら何してる?行くぞ」
真耶はそう言い残して絨毯の中から出ていった。
「なんであんなにすぐ気が変わるの……?」
紅音はその2人の様子を見て驚きを隠せない様子でそう言った。そして、4人は絨毯の中から出てくる。
「マヤ様、カナデ様、どのように行かますか?」
「うーん……正面突破でいいんじゃない?」
奏は適当にそう答える。
「正面突破は良くないのではまずいのではないでしょうか?それだと入る前にやられてしまうのではないかと……」
フェアリルはたんたんと答える。その答えが全て理にかなっているせいで、奏は適当に答えたことが恥ずかしくなった。
「バカか?」
「もぅ!バカって言わないでよ!」
そう言って再びポカポカ殴る。その様子はまるでバカップルだ。だから、3人は心の中でこの2人はバカップルだなぁ、と考えたのであった。
「落ち着けよ。よく考えてみろ。俺は相手に知られてるんだから入った瞬間にゲームオーバーだろ。だったら顔がしれてないお前らに行かせるのが良い」
「じゃあまーくんは?」
「どっかから侵入する」
「そんなことできるの?奏ちゃんは論外だけど、真耶くんも余り隠密な行動ってしてこなかったよね?だったら暗殺者をやってた私の方がいいんじゃない?」
「いや、やめとけ。片腕がないいじょう、変装は出来ない。だから、俺が侵入するしかない」
その言葉に皆は渋々認める。そして、嫌々ながらも3人で街の中へと入っていった。
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