第12話 2人の秘密
真耶は話を始める。
「俺らは、日本っていう国から来たんだよ」
そう言っても、ルーナは不思議そうな顔をする。
「分からないのは当たり前か……俺らはな、日本っていう異世界から召喚されて来たんだよ。元々勇者パーティの一員として召喚されたわけだ」
「勇者!?もしかして、この世界に勇者が来たのですか!?」
「勇者を知ってるのか?」
真耶がそう聞くと、ルーナは頷く。そして、希望に満ち溢れた目で真耶達を見る。
「マヤさんは勇者パーティの一員だったんですね……凄いです!」
「一員と言っても、モブだからあんま知られてないしね。それに、このことは秘密だよ」
「何でですか?めでたいことだと思うのですが……」
ルーナは不思議そうに首を傾げる。そして、真耶を見つめる。真耶は少し考えると決心したように頷き、これまで起こったことを全て話すことにした。
「まぁ、かくかくしかじかで……」
━━5分程で真耶の話は終わった。終わる頃にはルーナは涙を流していた。
「……うぅ……うぅぅ……ひっぐ……」
「そんな泣くような事じゃねぇよ。それに、追い出されるのは慣れている。今回のことで3回目だしな」
「え?2回目じゃないの?」
「ん?あ、いや……なんでもない」
真耶はそう言ってはぐらかした。そして、立ち上がりドアノブに手をかける。
「ま、俺達は一応勇者としてこの世界に来た。だから、当面の目的は魔王を倒すことでいい」
「分かりました。1つ疑問があるのですが……」
「悪ぃ、先に買いたい物を買ってくるよ」
そう言って部屋から出ていってしまった。
「行ってらっしゃい……」
ルーナの声が小さく響いた。
「あ、待って、最後に1つ言っておくけど、ナスを俺の前に出すことは禁止だから。俺の視界に写したやつは1日服を着ることが出来ないようにしてやるから。じゃ、行ってくる」
真耶は突如戻ってきて、そう言い残して部屋から出ていった。
真耶は部屋を出ると下へおりていく。下に行くと、裸で顔を真っ赤に染めた女の子がいた。
「ど、どこへ行くのですか……?」
「ん?ちょっと道具屋に行こうかと……」
「あ、あの……ついて行きます……」
そう言って真耶の裾を握る。
………………は?
真耶は全く理解できなかった。着いてくるということもだが、何故裸で恥ずかしい思いをしているのに、更に恥ずかしい思いをしに行くのだろうか。
「別に恥ずかしいなら来なくてもいいよ」
「い、いえ……私は今罪人です。あなた様にご迷惑をかけたので……御奉仕させて……ください……うぅぅ」
真耶は頬をポリポリかいて顔を見た。凄く赤くなっている。まるでりんごのようだ。
「一緒に来たいなら良いけど、恥ずかしいならやめといた方が良いぞ」
「い、いえ……行かせてください……。それに……ここにいると、私は罪人なのでお仕置を受けないといけないので……」
女の子は顔を曇らせそんなことを言う。確かに、宿の奥の方で顔を赤く染めた変態のような顔をする男が3人もいた。
「……はぁ……君、名前は?」
「ク……クロバ……でしゅ……っ!?」
「あはは!可愛いね!いい名前だ!」
真耶はそう言って笑う。それに対してクロバは頬をふくらませて怒る。そして、ポカポカと殴ってくる。
「む〜!ちょっと噛んだだけじゃん!ばかぁ!」
「まぁまぁ、そんな怒んなって。さ、行くぞ」
そう言って真耶は宿を後にした。
━━それから、2人は街の商店街のような所に向かった。クロバが言うには、そこに道具屋があるらしい。
「お、あったな」
早速道具屋を見つけた。2人は中に入って商品を見る。
「まいどありー!」
真耶は沢山のものを買って道具屋を出た。ちなみにだが、ゴールドはまたもや石を変えたものである。そして、さっきの石と今の石はこの街に来る前に拾っておいたものである。
2人は道具屋を出ると宿へ帰ろうとする。すると、街の路地裏のような所で人影を見た。
「ん?あれは……」
「ま、待ってください。あまり奥の方へ行ってはいけません。そっちはゴロツキが多いですから」
「そうか。忘れないようにするよ」
2人は再び足を進めだした。その道中、周りを見ると裸の女性やお尻が真っ赤な裸の女の子をよく見た。さらに言えば、他に色々されている人もいる。
「なぁ、この街の領主はこの光景を何も思わないのか?」
「この光景って、どの光景ですか?」
「……いや、分からないならいいや。あ、ちょっと待ってくれ。ギルドに寄りたい」
「了解しました。ギルドはこの道を真っ直ぐ行った1番奥です。一緒に行きましょう」
「済まないな」
2人は右の大通りを向いて足を進め出した。どうやらこの道がこの街のメイン通りのようだ。
(だとしたら、冒険者ギルドはこの街の中心にあるのか)
そう思いながら真耶はギルドの前まで来た。
「さて、入るか」
そう言って扉を開けた。
━━一方その頃、奏達は……
「まーくんがいなくなると静かだよね」
「本当にそうね」
2人は何もすることがなくなって静かに座っていた。特に何かする訳でもなくただ座るだけだ。
『ねぇ……』
「っ!?あ、先に言っていいよ……」
「っ!?いやいや、そっちこそ先に……」
こういうやり取りを真耶が部屋から出て行ってずっとやっている。
「……あのさ、まーくんって何か隠してると思わない?」
「思います。あの魔法もですけど、職業も、全て嘘ついているように見えます」
「あの時、ステータスプレートを見せてもらったけど、なんだかまーくんっぽくなかったし……」
2人は顔を暗くする。仲のいい自分たちにすら本当の事を教えてくれない真耶に不満を抱く。
『……』
「前から思ってたんだけど、実はまーくんって人間じゃないのかも」
「な、何でですか?」
「だって、まーくん強すぎじゃない?異常だよ。それに、召喚された時も、魔物に襲われた時も、人を殺した時も、精霊族に襲われた時も、冒険者達に襲われた時も、どんなときもずっと冷静だよね」
「そうですね。肝が座っているとしか……」
「それにしても座りすぎだよ。だから最近まーくんが何か別の存在に思えてくるの。それに、雰囲気がなんだか人じゃないみたい」
「雰囲気?」
「そう、なんだか人じゃない者が何故か人の仮面を被っているみたいなんだ」
奏はそんなことを言う。しかし、そんなものは根拠などない。それに、もしそうだとしてもステータスを隠す理由が分からない。
だが、2人には分かっていた。なぜ真耶がそこまでしてステータスを隠すのかが。
「ねぇ、この前さ、”この世界で思考を読み取ることが出来る人”を調べてもらったじゃん。あれ、今ならわかるんじゃない」
「なるほど。確かに、今の魔力量なら出来ます」
そして、2人は決心したように頷く。
「いきます。” 世界の森羅万象を知り、世界を作りしものよ、その知識を教えたまえ”」
詠唱が終わると、前と同じように風が吹き荒れ始めた。
(それは、お主らと一緒におる。世界の理を変えるものじゃ)
「それって……まさか、マヤさん!?でも、そんな素振り見せなかったよ!」
(隠しているだけじゃ。それに、もし読めなかったら、あの時なぜ精霊族が攻めてくることがわかったのか……不思議じゃのぉ)
「そうだったんだ……」
ルーナは小さく呟いた。そして、魔法を解こうとする。しかし、止められた。
(待て、最後に聖痕に気をつけるのじゃ……)
「え?まさか……!」
そこで魔法は解けた。ルーナの思考は戻ってくる。目を開けると、奏がウキウキしながら待っていた。
「わ、わかったの?」
「うん……それがね……マヤさんだって……」
その言葉を聞いて奏は目を見開く。そして、信じられないと言った顔をする。
「でもね……それ以上にカナデさん、あなたの体の方が心配です!」
「えぇぇ〜!?なんで〜!?」
「胸!胸を出してください!」
「ちょっ!やめてよ!うわぁぁぁん!」
「なんで逃げるんですか!?」
2人は狭い部屋の中で追いかけっこを始めた。ドタドタと足音が部屋の外まで響き、静かな部屋は一瞬にしてうるさい部屋と変わってしまった。
「待ってくださ〜い!」
ルーナの声が部屋中に響き渡った。
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