第126話 次へ
テントに着くと、何故か門番がこちらを睨んできた。どうやら機嫌が悪いらしい。少しでも怒らせれば殺されそうな位の剣幕だ。
真耶はそれを見てやはり帰りたくなる。絶対にこの後めんどくさいことが起きる。そんな気がしてならなかった。
それだけじゃない。もし俺達が異端者として認定されれば俺達は殺されかねない。
「なぁ、本当に行くのか?」
「当たり前でしょ!」
「……もしなんかめんどくさいことがあったらお前ら責任取れよ」
「もぅ!わかったから!行くよ!」
奏はそう言って少し怒りながらテントに入っていった。真耶はそんな奏を後ろから追ってテントに入って行った。
「待ってましたよ」
テントに入るなりいきなりそんなことを言われた。まるで自分たちが戻ってくることを知ってたみたいだ。
気に食わない。このなんでも見透かしたような目が特に気に食わない。そんな目をしていいのは俺だけだ。
真耶は静かに女王を見つめた。
「話しは終わりか?なら帰るよ」
真耶はそう言ってテントから出ようとする。奏達はそれを止めようとするが、真耶はそんなもの聞かない。しかし、女王は少し微笑むととんでもないことを言ってきた。
「良いのですか?そんなことをしたらあなたのお連れの方全員をそこの私の側近に犯させますよ。それも、あなたの目の前で」
「何?」
「フフフ……そのままの意味ですよ。あなたはあなたのお連れの方達が目の前で白濁の液体を体の中に注入されるのを見るのですよ」
女王はそんなことを言って笑う。悪趣味な女だ。
「そんなことで俺を止められるとでも?」
「なら、そこで見ててください。やって」
女王がそう言うと、近くにいた側近達が奏達の服をぬがせ始めた。
「やっ……!まーくん!助けて!」
奏の泣きそうな声が聞こえる。どうやら女王達は本気らしい。もうズボンを脱いでいる。
「……そんなことをしてもいいのか?」
真耶は静かにそう聞いた。片目だけを開いて睨みつけながらそう聞いた。
すると、一瞬側近達は手が止まったが直ぐに奏達を犯そうとする。本当の本当の本当に奏達を犯すつもりらしい。
なら、仕方がない。
「殺すしかないよな」
真耶はそう言って、容赦なく側近の胸を右手で貫いた。側近の1人から大量の鮮血が飛び散る。
真耶はそれを見て手を引き抜いた。その右手には、赤く鼓動を打つ心臓が握られている。
その時、突如側近の男と真耶の右手が深緑色の光に包まれた。真耶の時眼の力だ。この力で時間を止めることで、側近が死ぬのを止めたのだ。
「っ!?」
「え……!?」
その場の全員が目を丸くした。なんせ、その場の誰も人が死ぬ……いや、真耶に殺されるなんて思っていなかったからだ。
女王はこの時ある間違いを犯していた。女王は真耶が奏達を人質に取られた時に言うことを聞く男だと思っていた。そうして真耶をコントロールしようとしたのだ。
だが、それが間違いだった。真耶からしてみれば、奏達を人質にとるということは危害を与えることに変わりない。奏達に危害を与えるものは皆殺しだ。だから、側近達は殺されて当然なのだ。
真耶はそういう男だ。今回は初めてだから殺さず情けをかけた。本来なら女王ごと全員殺しているところだ。
「命拾いしたな。死にたくないなら今すぐに手を離せ」
そう言うと全員手を離しその場を離れる。女王はそれを見て少し冷や汗を垂らした。
「おい、冷や汗かいてるぞ。大丈夫か?熱でもあるのか?」
真耶はわざとらしく聞いた。そんなわけないのにだ。女王はその時の真耶の顔を見て、絶望した。
笑っていたのだ。それも、とてつもなく不敵な笑みで。その顔はまるで、自分を殺しに来た悪魔のようだった。関われば死ぬ。ちょっかいを出せば死ぬ。コントロールしようなんて考えれば、死ぬ。そんな顔だった。
「ご、ごめんなさい……」
「何謝ってんだよ。別に怒ってなんかないさ。別にな」
いや怒ってるだろ。と、言いたいが、言えば殺されることを女王は肌で感じとった。今すぐこの場から逃げ去りたい。まるで魔王と戦っているようだ。いや、それ以上かもしれない。
「フッ……そんなに怖がらなくていい。早く用事を言えば、俺はここから出ていくよ」
「わ、わかりました……。よ、用事とは、この街に行っていただきたく存じます」
そう言って指を刺したのはカジノで有名な街……そう、真耶外交としていた街だ。その街にはラウンズがいる訳じゃないのにオーブが置いてあるらしい。
「いいだろう。待ってろ」
真耶はそう言って絨毯を広げた。奏達は、襲われてからずっとポカーンとその場の成り行き気を見ていたが、もっと面白そうだからついて行く。
「まーくん……行くの?あんな形になっちゃうなんて……」
「いいさ。悪いのは全てあっちだ。それより、早く準備をしろ。行くぞ」
そう言って絨毯を指さした。奏達は当然のようにそこに入っていく。だが、奏は途中で足を止めた。
「どうした?」
「まーくん……好き」
そう言って奏は真耶にキスをした。深い……とても深いキスを。
「ねぇまーくん……なんでも1人で抱え込まないで。私達がいるってことを忘れないで。私達非力だけどきっとなにかの役にはたつから」
そう言って手を強く握る。……こいつらは馬鹿だな。何かの役にたつって、いっつも役にたってるのに。
「わかった……。ありがとな。そう言ってくれると嬉しいよ」
真耶はその時嘘をついた。本当は違うことを言おとしたのに。本当は、お前たちはもう役にたってるさ。とか、そういう歯の浮くようなことを言おうとしたのに。
「やっぱり俺は嘘つきだよ……」
「ん?何か言った?」
「……フッ、いいや、何も言ってないよ」
そしてまた嘘をついた。優しい笑顔で奏達を見つめながら小さな嘘をついた。
この時真耶は、これが幸せなんだろうなって改めて実感した。そして、その幸せを壊すまいと、改めて決意を固めた。
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