第125話 帰宅
━━今度こそ本当に夜が明けた。違う部屋に入った時には、既にみんなが眠そうだったので、布団を用意し寝かせた。
その間真耶はずっと起きて考え事をしていた。
この後どこに行くか……カジノの街にでも行ってみるか……。たしか、あそこには何かしらの噂を聞く。もしかしたらオーブがあるかもしれない。今のところはオーブを集めて行くのが最適解だろう。
さて、もう夜が開けたことだし準備でもするかな。
「……フッ」
真耶は静かクロバ達を見て笑ってしまった。なんだか気持ちよさそうに寝ているクロバが楽しそうに見えてしまったのだ。そして、それ以上に寝相が悪すぎて笑ってしまった。
真耶はそんなクロバ達を横目に剣に手をかけた。覇滅瞳剣アルテマヴァーグ、絶愛輪廻アムールリーベ、対極双剣ゲーゲンタイル。
そして、最後の1つ……この剣は本当に奥の手だ。困った時にだけ使おう。
「んん……あれ?マヤさん……起きてたんですか……?」
「ん?あぁ、起きたのか。おはよう」
「おはようございます……ふわぁぁ……」
「でっかいあくびしやがって。言っとくが、あくびって伝染するんだぜ」
「へっ!?嘘ですよね!?」
クロバは驚いた表情をして慌ててすがりついてきた。
「嘘じゃないよ」
そう言うと絶望が目の前に落ちてきたぐらいの衝撃を受けて魂が抜けたように白くなった。そして、静かに土下座をして言った。
「申し訳ありません。私のせいで皆が眠くなってしまいました」
「いや、そこまで慌てることじゃねぇだろ」
真耶はその大袈裟なオーバーリアクションに呆れてため息が自然と漏れてしまった。そして、なんだかくだらなくなってきて部屋から出ようとする。
すると、クロバは顔を上げてさらに驚いた表情をした。一体何に驚いているのかと思ったら、別になにか驚くようなものはなかった。
……普通に意味がわからん。
「なんでそんな顔をする?」
「だって……マヤさんが構ってくれないんだもん……」
そう言って目を麗せる。
……ったく、このかまってちゃんが……
「仕方ないな。ほら、なでなでしてやるからこっちに来い」
真耶がそう言って手招きすると、クロバはてくてくと歩いて真耶の元まで来る。そして、静かに頭だけ差し出す。
本当に甘えん坊な奴らだ。いつからこうなったのだろうか。
……今になって考えてみると、こいつらが甘えだしたのって今日からじゃね。いや、前からも甘えてきてはいたが、かまってちゃんではなかった。
だったら、今日から甘えん坊になったということか。なんと言うことだ。まさか俺のせいで性格まで変えてとは……俺の魅力がそんなにあるとはな。
とか言う冗談はこれまでにして、一旦考え直してみよう。このままでいいのだろうか。
「……」
まいっか。別に何の支障もないしな。てか、こんなことしてる間に次の街に行く準備でもしないとだな。
真耶はそう思うとクロバの頭を撫でるのをやめて、隣の部屋に行った。すると、皆起きていた。どうやら自分の力で目を覚ましたらしい。
「あ、まーくんおはよう」
「おはよう。起きて早々だが、次の街に行こうと思う。一旦冒険者の街に戻るから準備をしてくれ」
「はーい」
奏達は返事をすると、そそくさと準備を始めた。クロバ達も、真耶の顔を見てそそくさと準備を始める。とか言うことはなく、じっと見つめているだけだ。
「お前らも準備をしろ」
「はーい」
クロバ達も返事をして準備を始めた。
━━それから10分ほど経過した。真耶達は準備が整ったのか、宿の外で絨毯を取りだし魔力を注ぎ込んでいる。
「さて、行くか……お前ら中に入れよ」
『はーい』
皆は返事をすると、ぞろぞろと中に入っていく。
真耶は全員入り終えたのを確認すると、絨毯に魔力を注ぎ込み浮かせた。そして、そのままものすごいスピードで冒険者の街まで戻る。
だいたい来る時に3時間ほどで来れたから、馬車で来たぶんも含めると、5時間程度だろう。かなり長いな。
そういえば空と千春はどこにいるのだろうか。俺達が夜宿に泊まっている時に先に帰っていたからな。どこかにいるはずだ。
「……ま、あいつらなら魔物にやられることは無いか」
そう呟いていると、地上に空と千春を見つけた。なんだか楽しそうに馬車で移動している。これなら大丈夫だろう。
「……それにしても、見晴らしがいいな。本当にあの日オーブの力はすごい。これでエレメントの国は救ったな」
真耶は地上を見つめながらそう呟いた。
━━それから5時間が経った。真耶の計算通り5時間程で冒険者の街に着いた。冒険者の街に着くと、何故か門番が待ち構えていた。
「あ!お帰りなさいませ!さすがはマヤ殿でございます!」
「何だ急に?」
「王が待ってます!直ぐに行かれる様にとのことです!」
「そうか、気が向いたら行ってやるよ」
「いえ!直ぐに行かれるようにとのことで……」
「じゃあ、気が向いたら直ぐに行ってやるよ」
真耶はそう言って街の中に入った。
正直に言って気が乗らない。きっと良くないことが起こる。真耶は絨毯からおりると皆が出てくるのを待った。すると、ぞろぞろと皆が出てくる。
そして、ワクワクしながら言ってきた。
「すごいよまーくん!絶対にご褒美が貰えるやつだよ!行こうよ!」
「そうですよ!マヤさんは疑り深いんですよ!」
「マヤ様行きましょうよ!」
皆は口々に真耶に言ってくる。しかし、それでも行く気にならない。絶対にいいことは起こらないからだ。
多分何らかの形で仕事を押し付けられるか、強すぎるせいで追放されるかだ。
……まぁ、奏達がめちゃくちゃ行きたそうな顔をしてるから行ってやらんでもないが……だが、何故か足が進まない。
……ん?ちょっと待て、足が進んでないのに体は進んでるぞ。どういうことだ……て、奏達が俺を無理やり抱き抱えて王がいる少し豪華なテントのところまで行こうとしてる。
「……はぁ、そこまでしていきたいのかよ。仕方ないな」
真耶はそう呟いて降りると、テントに向かって歩き始めた。
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