第124話 未来を見つめて
━━長い夜が明けた。……と、誰もが思っただろう。だが、特に長くはなかった。なぜなら、別にセックスした訳じゃないからだ。だから、夜もまだ終わっていない。今は夜中だ。
あの時モルドレッドがやりたそうな顔をしていたから邪眼でそのまま眠らせた。
どんな夢を見たかは知らないが、かなり気持ちよさそうに寝ている。真耶はその寝顔を見ながら小さくため息を着いた。
「……はぁ、ベルト壊しやがって……」
真耶はそう言ってベルトを修復する。
「……はぁ、まさかあんな技を使うとは。襲われるのを対策してベルトをコツを知らないと外しにくくしていたが、破壊されれば関係ないな」
そう言ってベルトを見つめる。今度からはディスアセンブル砲対策もしなければならないようだ。
なんてことを思いながらその場から立ち上がった。気がつけば、奏達もぐっすり寝ている。
真耶は何とか3人を起こさないように部屋から出た。すると、部屋の前でクロバ達がコソコソと覗いていた。
「何してんだよ」
「ギクッ!?そ、そ、そ、それはですね……その……決して覗いていたという訳では……」
「フッ、覗きをするなんて悪い子だな。全員お仕置だ。そこにお尻をだせ」
「ひぃっ!ご、ごめんなさい!許してください!」
皆は真耶の言葉を聞いて素早い動きで土下座を決め込む。しかも、裸で。
いや、普通に服脱ぐのはやすぎるだろ。とんでもないスピードだぞ。世界記録とかそういうレペルじゃない。
まぁ、この世界にそんな記録を持っているやつはいないがな。
「そういえば、空と千春はどうした?」
「あの二人ですか?あの二人なら……」
「どうした?まさか、なんかしたのか?」
真耶は少し呆れた声でそう聞く。その問いに対しクロバは首を横に振るが、なんだか気まずそうな表情をする。
「何かあったのか?」
「うーん……なんだか口で説明しにくいんですけど……なんというか、すごく怒ってること言うか……プライドを傷つけられた勇者みたいになってるんですよね」
「なんだよそれ?そもそも、プライドを傷つけられて怒った勇者を見た事ないだろ」
「それはそうなんですけど……」
「まぁ、でも、何となくわかるよ」
そんなことをいっているが、真耶はクロバの話を聞いてほとんど理解していた。なんせ、クラスメイトの事だ。性格も知っているからこの後どうなるかだいたい予想がつく。
ここで煽りに行ってもいいが、ただブチ切れさせて第2戦目に突入したらめんどくさいのでやめておこう。
まぁ、でも、約束は守ってもらわなくてはならないな。もし破ったら……フッ、この世のものとは思えないほどの痛みを味あわせてやる。
そもそも、約束は守らなくてはならない。破ることはならない。そう思っている人が多いが、それは違う。約束は守ら無くてもいい。”必ず守る”と言わなければ。
これは、言霊に近い事だ。口に出してしまえば言霊がつき、例えのどんなことをしてもその事象が起きる。
他には、言葉はブーメランのように帰ってくるとかな。負の言葉が口から出るということは、負の力が蓄積されるということ。そうなれば、悪いことが起こるのは明白。
「約束ってなんですか?」
フェアリルが聞いてきた。少し不思議そうだ。それに、心配の眼差しもある。
「約束ってのはね、空と千春との勝負で負けた方は1週間くらい服を着ちゃだめ。ってやつだよ」
「そんな約束したの?」
「わからんが、記憶の片隅にある。だから、千春にだけ約束を守るように誓約印を書いた」
しれっと千春だけと言う真耶に一同は少し呆れる。
真耶はそんな皆を見ながら少し部屋の中を見た。中では4人が気持ちよさそうに寝ている。特に、モルドレッドが気持ちよさそうに寝ている。
どうやら緊張が解けてぐっすり寝れるようになったみたいだ。拷問されている時は、寝る時間も拷問されていたに違いないからな。
「ねぇ、モルドレッドちゃんはどんな感じなの?」
玲奈が心配した目で聞いてきた。
「姉貴を気になるか?」
「当たり前でしょ」
「そうか。……モルドレッドにはな、無数の傷があった。多分、普通の魔法じゃ治せない。治せたところで傷跡が体に残るような傷だ」
その言葉に玲奈は目を丸くする。そして、泣きそうになりながら寝ているモルドレッドの顔を見た。
「あんな可愛い子が……?」
「フッ、顔なんかもう酷かったぞ。傷だらけ。火傷の痕もあった。それに、黒騎士は俺の目の前でモルドレッドのお尻の穴に溶けた鉄を突っ込みやがった。まぁ、当然治したけどな」
「そんな……!?」
その言葉で玲奈は遂に泣き崩れてしまった。目から大粒の涙を流し、膝から崩れ落ちる。
「……うぅ……私達がもう少し早く着いていれば……」
「結果は結果だ。今更理想を語っても変わらない」
「っ!?そんな言い方無いでしょ!私達が早く行ってれば、何か変わったかもしれないでしょ!」
「その変化が、必ずしもいい方向に働くとは思うなよ。もしかしたら、早く行ったことで俺は負けていたかもしれない。そのたった一つの行動で、俺達は全滅していたかもしれない!」
真耶は突然叫んだ。その声に玲奈はビクッと身体を震わせる。
「バタフライエフェクトって知ってるか!?過去にやった小さな事象が未来を大きく変えるんだよ!もし過去が違ってたら、今の未来は確実になかった!分かるか!?」
真耶の怒涛の発言に玲奈は臆してしまって上手く喋れなくなる。何か喋ろうとしても、口から空気が漏れるだけ。
「姉貴は過去ばかり見て未来を見てない!愚かだ!俺達は過去のことを振り返って絶望に打ちひしがれるんじゃない!未来を見てこの後どうするかを考えなければならない!わかったか!?」
「ひゃ、ひゃい!」
玲奈は怒鳴られたことに対する驚きと恐怖で涙が止まらなくなった。声は裏返り、まともに喋れない。目からは大粒の涙がダムが決壊したかのように流れ出す。
「ごめんなさい……ごめんなさぁい!……うわぁぁぁぁぁん!私……私……!」
「泣くな。わかってくれたならそれでいいよ」
真耶はそう言って玲奈の頭を撫でた。玲奈は泣きながら真耶に抱きつく。
「ひっぐ……ごめんなさい……」
真耶は泣きじゃくる玲奈を見て静かに頭を撫でる。少しの間沈黙が流れた。そして、頭を撫でていると、スースーという音が聞こえてきた。
どうやら玲奈は寝てしまったらしい。泣き疲れてしまったようだ。真耶はそんな玲奈を部屋の中に入れると、静かに布団の上に寝かせた。そして、静かに部屋から出る。
「さてと、次に行く街でも決めておくか」
真耶はそう言って皆を連れて違う部屋に行った。
読んでいただきありがとうございます。