第119話 絶望と諦め
━━……モルドレッドは牢屋の中で両手足を縛られながら泣いていた。この後とんでもない拷問が来る。
この首輪のせいで逃げられない。たしか、この首輪はあの獣人につけていたやつだ。
……あの獣人ちゃんには悪い事をしたなぁ………………
そんなことを思いながらこの世界に絶望した。そして、もう一度小さく呟く。
「助けて……真耶君……」
その言葉は牢屋の中に少しの間響き渡った。
その瞬間、突如大きな音を立て扉が開けられた。そして、男が入ってくる。
一瞬期待したが、どうやら期待はずれだったらしい。
「拷問の時間だ」
男はそう言うと、その大きな手でモルドレッドの髪を引っ張った。
痛い。でも、今からもっと痛いのが来る。
……あ、そうだ。私これから犯されるんだ。
そんなことを不意に思ってしまった。本当に犯されるかも分からない。いや、父が……モルゴースがそう言ったのだから、自分は今から犯されるのだろう。
散々おもちゃにされて、妊娠したら醜い身体だと罵られ捨てられる。それが自分の運命なんだ。
モルドレッドは少しだけ顔を上げその男を見た。黒い鎧を着ている。その男からは禍々しいオーラを感じる。もしかしたら、自分一人では勝てないかもしれない。
「これは……父上の……」
そうか……ラウンズの1人の力を借りてるのか。だから、こんなに強いのか。じゃあ、真耶君も勝てないだろう。
来ちゃいけない。来ないように願おう。来たら殺される。来ちゃダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメ……じゃない。やっぱり来て欲しい。
「助けて欲しいよぉ……真耶君……」
モルドレッドは力なく声を発した。その時、街の方でとんでもない爆発が起こった。
「真耶君……」
モルドレッドは自然とその名前を口にしていた。
━━遡ること10分前……
真耶達はインベルの街へと入って行った。中はがらんとしていて人通りは少ない。それに、見かける人も冒険者ばっかりだ。
真耶はそんな中何人かに別れてある魔道具を設置しに行ってもらった。その魔道具とは、魔力感知機と、爆発玉だ。
この2つをセットにして置くことで、魔力を感知し爆発する特別な爆弾が出来上がる。
真耶はそれを10個ほど街の隅々まで置いてもらった。そして、自分は街の真ん中に近づいた。丁度そこは広場のような場所だった。円形に建物が並んでおり、真ん中に噴水がある。真耶はその噴水のそばで、爆発玉を取り出す。
正直に言って、これ一つの威力はさほど無い。当たっても、ちょっと火傷するくらいだろう。
だが、さすがに10個程度の塊にして爆発させればかなりの威力が出る。真耶はそう思い爆発玉を10個ほどまとめた。
「まーくん、準備できたよ」
奏がそう言いながら歩いてきた。他のみんなも終わったのか、ぞろぞろと帰ってくる。だいたい10分程か……早いな。
「よし、よくやった。じゃあ、爆発させたらすぐに城に向かって走れ。ていうか、もう今のうちから走ってろ」
真耶はそう言って奏達を城の方に向かわせた。真耶はそれを見送ると、少しずつ爆発玉に魔力を送り込む。
あまり送り込みすぎると爆発するから、中々入れられない。そして、奏達がある程度は離れると、真耶は一気に魔力を送り込んだ。
すると、爆発玉は突然光を発する。その光はだんだん強くなっていき、臨界まで達すると淡い光の輪を形成した。
真耶はそれを見ると、すぐさまその場から離れる。そして、城に向かって走り出した。
「残り3秒……2……1……0」
その時、街の真ん中に近い広場で大爆発が起こった。その爆発は、周りにあった建物を全て破壊すると強烈な突風を巻き起こした。
━━……黒騎士はその爆発に戸惑った。なんせ、突然街の真ん中で爆発したのだ。テロとしか思えない。
「あの距離だと……もう城まで来てるのか……!……まぁいい。私の役目はこの女を犯すことだ。まずは貴様の後ろの穴から広げてやるよ」
黒騎士はそんなことを言って謎のものを取り出す。
怖い。こんな状況になっても自分は犯される。やだ。助けて欲しい。
「真耶君!助けて!」
その時、モルドレッドは一筋の希望を胸に自然と叫んでいた。前まで感情なんか無くなったと思っていたのに、自然と言葉が漏れていた。
当然そんなことをすれば黒騎士は怒る。モルドレッドは怒った黒騎士によって殴り飛ばされた。
すると、その威力が強すぎたのか、壁を破壊し隣の部屋まで飛ばされる。そこは、闘技場のようなところだった。
観客席が上にあり、下には誰かが戦うと思われる円形のフィールドが用意されていた。よくある闘技場と形は同じだ。
モルドレッドはその時理解した。ここが自分の死に場所なんだと。ここが自分の処刑場なんだと。
多分今から自分は拷問される。犯される。痛いのが来る。痛くて辛くて苦しいものがくる。
「クソ……まぁいい。場所は違うがここでやってやろうじゃないか。まずは顔が変形するまで殴ってやるよ。それとも、熱して溶かした鉄をケツの穴にでもぶち込んでやろうか?」
黒騎士はそんなことを言う。そのせいでモルドレッドは恐怖に支配された。だから、逃げようと思っても体が動かない。
何とか逃げようと手を後ろに動かすと、黒騎士は力いっぱいモルドレッドの顔を殴り飛ばした。
「痛ぁ!」
「こんなことで喚くな!これからもっと楽しくなるんだからよ!ゲヘヘヘヘヘヘ!」
そう言って気色の悪い笑い方で笑う。
モルドレッドはその時、完全に絶望した。そして、心の底から恐怖で埋め尽くされた。
逃げたくても体が動かない。それに、どうせ逃げられない。いつしかモルドレッドは逃げることさえもやめてしまった。
「ごめんね……さよならだよぉ……真耶君……」
モルドレッドは小さくそう呟いた。そして、1粒の涙を流す。
見上げると、黒騎士が焼けて溶けた鉄を持っていた。黒騎士はモルドレッドを蹴り飛ばすと片手でモルドレッドの服を剥いでいく。
モルドレッドは泣くことも騒ぐことも、抗うこともせず、ただ無感情で剥がされていくだけだった。
「諦めたか……面白くないな。だが、それはそれで面白い」
矛盾している。とかいうツッコミも出来ない。もう何もしたくない。早く終わって欲しい。
どうせやられるんだ。ケツの穴もドロドロに溶かされるんだ。……これは比喩表現手間はない。本当に溶かされる。
そう、そして死ぬんだ。散々遊ばれて死ぬんだ。
「さよなら……」
小さく発せられたその言葉は、暗くなった空に飲み込まれるように消えていった。
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