第114話 強襲
「でもまーくん、その目の力って使って良いの?」
「時喰い自体は時をあまり使わない。なんせ、時を奪う力だからな。だから、それを結界にすれば回復しながら守れるってことだ」
その言葉にその場の全員が絶句した。そして、馬車を操縦する人は自然と恐怖が出てきた。
今、目の前にいる男は恐らく《《世界が作り変えられる前の魔王》》より強い。
そう、世界が作り変えられる前の……
恐らく、ここにいる人達で世界が作り変えられたこと知る人は1人しか居ない。なんせ、真耶達はその作り変えられる瞬間に立ち会ってないから。
それに、ただ《《壊された》》としか思っていない。だから、真耶達が他の人と話があっていることがおかしいのだ。
「ねぇまーくん、これからどうするの?」
「ん?と言うと?」
「夜が明けたらまーくんはどうするの?」
「このまま馬車でインベルの街まで行くけど。逆にそれ以外に選択肢があるのか?」
「いや、その、絨毯は使わないの?」
「……そうだな。確かに、使った方が良いが……この世界、どこか違和感を感じる。俺の考えが間違えてるような気がするんだよな」
真耶は少し悩むような素振りを見せそう言う。そして、どこかおかしいと言うその言葉に皆は言葉を失った。
しかし、そんなにおかしな気はしない。どちらかと言えばしっくりくる。それに、見た感じ間違えてるような気はしない。
「多分まーくんの考えすぎだよ」
「……まぁ、それならいいんだが……」
その時はそれで終わった。それが後々真耶達を苦しめることになるとも知らずに……。だが、それはまだずっと先の話……。
「あの、そろそろ寝ませんか?馬車を操縦してた人は寝ましたよ」
「……そうだな。お前らは先に寝てていいぜ。見張りは俺がするよ」
「いえ、見張りはゴーレムにさせましょう」
クロバはそう言って魔法陣を描き始めた。そして、すぐに書き終えると魔法を発動する。すると、ゴーレムが生成された。
そのゴーレムは体は岩でできており、かなり頑丈そうだ。それに、なんだか魔力量が多すぎる気がする。
「お前、こんなに魔力使ったら魔力が枯渇するだろ。気をつけろよ」
「大丈夫ですよ。私もかなりレベルが上がったんですから」
「いや、そういう問題じゃないんだけどな。……まぁいいか。足りなくなったら分けてやるよ」
「わーい!ありがとう!」
クロバは子供のように喜ぶ。それを見て真耶も微笑む。その場には、結界の外の危険な雰囲気など無く楽しく微笑ましい雰囲気が流れた。
そして、そんな空気に包まれながら真耶達は深い眠りについた。……と言っても、真耶は基本的に1時間程度しか寝ない。日本にいた時は毎日徹夜でゲームをしていたからだ。
……いや、本当に凄かったんだぞ。真耶は世界一のトップランカーで、かつバグやチートの使い手だったんだからな。
だから、1時間寝るだけでもかなり寝た方なのだ。今にしてみれば、この世界に来て1時間寝以上寝たことがない。基本的に起きているからな。
そんなこんなで1時間後に起きた真耶は眠気もスッキリさせて馬車の近くまで来た。馬車を乗り越えて結界の外に出れば、大量の敵がいる。
「あ……」
たった今時計の針が少し戻った。恐らく何かしらの魔物が入ろうとしたんだろう。だが、入れずに時を食われたといったところか。
今の俺の寿命が4700年ほどだが、明日の朝起きたらどれくらい増えてるんだろうな。かなり楽しみだ。
「まぁ、やることもないし武器の手入れでもしておくか」
そう呟いて奏達の近くまで歩くと座った。そして、アルテマヴァーグを取り出す。
初めて真耶が作った遺物の武器。その威力は凄まじく喰らえば一溜りもない。だから、手入れを怠ると良くないことは明らかだ。
そんなことを考えながら真耶は奏の寝顔を見た。可愛い顔だ。なんだか楽しそうに寝てやがる。
「こんな世界でこんなに楽しく寝れるやつは少ないよな」
真耶は小さく、誰にも聞こえないように呟いた。そして、少し考えると左目に魔力を溜め始めた。
「何かおかしい世界……ルーナの博識スキルに聞けば早いのだが、心配はかけたくないな……」
そう呟いた左目を見開いた。その目には青白く光る円が浮かび上がっていた。
「世界眼……世界を見る目。この目に映るのは世界の全て」
この力を使えば世界の状況が分かる。そう思って使った。すると、その目に映ったのは驚くべきことだった。
そこに映ったのは、作り替えられた世界。壊されただけじゃない。青色の星だったこの世界は赤い星へと作り替えられていた。
街の位置、大きさ、数、全てが前と違う。山の形も全然違う。そして何より、世界の中心に城があり、そこに円卓がある。
「これは……っ!?」
その時、突如ランスロットが現れた。どうやら今から円卓で会議を行うらしい。魔力の波長を合わせれば視覚だけでなく聴覚も使うことが出来る。
「なんて言ってるんだ?」
『……それでだが……ヴィヴィアンについてだが……』
どうやら俺が捕まえたヴィヴィアンについての話をしているらしい。もう少し聞いてみよう。
『ガウェインとモルドレッドが裏切った』
ランスロットはそう言った。
……もうバレてんのかよ。確かにガウェインとモルドレッドがいない。
『それでだが、ガウェインは逃がしたがモルドレッドは捕らえた。今拷問にかけている。後々処刑するつもりだ』
そんなことを言う。その言葉に真耶は言葉を失った。そして、すぐに策を考える。今の一瞬で200通りの策が思いついたが、そのうちの195通りが奏達を危険に晒してしまう。
『それでだが……今盗み聞きしている男を殺せ。そうすれば、ガウェインもモルドレッドもヴィヴィアンも裏切るまい』
っ!?バレてやがる。まずい……!
真耶は咄嗟に右目を見開くと時計の針を少し進めた。
「”クロニクルチェンジ”」
真耶達を深緑色の光が覆う。すると、その数秒後に光り輝く槍が降ってきた。その槍は、真耶達のいる場所に降ると、誰にも当たらずすり抜けた。
「危ねー」
真耶はその場でそう呟くと額の汗を拭った。
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