第10話 出発の日
冒険者達は目の前の真耶を見つめる。真耶はルーナを覆った壁を戻すと2人を自分に寄らせる。
「チッ、ハーレム気取りですか・・・これだから新人は・・・」
「そういうあんたも女性と一緒にいるじゃねぇか」
「うるさい!お前に喋っていいなど言ってないだろ!」
なんと理不尽な!冒険者というのは皆こうなのか!?
そんなことを頭に思い浮かべた。真耶はやれやれと言った感じで2人の頭に手を置いた。
「何でも良いが、とりあえず落ち着けよ。一体何が起こったんだ?」
「シラを着るな!」
冒険者はそう言って何も教えてくれない。流石に真耶も少し腹が立った。
「いい加減にしろよ。話せよ」
少し強い口調でそう言った。すると、何故か冒険者も腹を立てる。どうやら意地でも教えないらしい。
「仕方ないな・・・」
真耶は右眼で全員を見た。普段は制御しているがその制御を外す。すると、大量の情報が頭に流れ込んでくる。
「なるほどな・・・精霊族が攻めてくるのか」
真耶は小さく呟いた。それが聞こえていたのか、隣の2人が驚く。そして、すぐに不安な顔になり涙目で見つめてきた。
「大丈夫だよ。安心して」
真耶は2人を励ます。安心したのか顔が明るくなる。しかし、冒険者達はそれが気に入らなかったようだ。憎悪や嫉妬、あらゆる負の感情を3人にぶつけてくる。
「いい加減にしろよ!お前らのせいでこの街はもう終わりだ!」
「出ていけ!」
「死ね!責任取って死ね!」
『死ね!死ね!死ね!・・・』
ギルドの中は怒号が飛び交う地獄の場となった。奏とルーナの2人はその罵声に当てられ気分が悪くなる。
「ゔぅ・・・ゔぉえ・・・」
奏はその場で嘔吐してしまった。
「おい、大丈夫か?」
「う・・・うん・・・」
真耶は奏の背中に手を置き落ち着かせる。その時、どこからか食べ物が飛んできた。再びルーナの顔にあたる。
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁん!もうやめてよ!うわぁぁぁぁぁぁん!」
「泣いて許されると思うなよ!」
「この泣き虫!お前らなんかこの街から消えればいいんだよ!」
冒険者達の暴言が酷くなっていく。そして、1人がルーナの前に行った。その冒険者はいきなりルーナを蹴ると、顔と腹を殴り出した。
「いい加減にしろ!”物理変化”」
ルーナは再び壁に囲われる。真耶は壁に手をつけるとそこから鉄の剣を作り出した。
「俺の仲間に手を出すな。俺はお前らを何時でも殺せるんだぞ」
そう言って剣を突きつけた。冒険者達はそれを見て戦闘の構えをとる。
「じゃあ、殺してみろよ!」
目の前の冒険者の男が剣を振り下ろしてきた。真耶は剣で受け止め横に流す。
「小癪な!殺れ!魔法士たち!」
その言葉と共に魔法士達が詠唱を始めた。
この雰囲気はまずい。あの時・・・俺達がここに飛ばされた時ほど大きくはないが、同じ雰囲気がする。
『”炎を示せ・・・ファイアーボール”』
「”物理変化”」
真耶は飛んできた無数の炎の球を壁を作って防ぐ。しかし、熱さを感じる。どうやら熱は防げないらしい。
「っ!?」
咄嗟に体を反らせた。すると、壁をつきぬけ矢が飛んでくる。
「”サーキュレーションアロー”」
さらに三本飛んでくる。
「チッ・・・」
真耶は飛んでくる矢を全て避ける。それを見た冒険者達が苦しい表情をする。
「きゃぁぁぁ!やめて!熱いよ!」
突如そんな悲鳴が上がった。よく見ると、冒険者達がルーナのいる壁の中に炎魔法を打っている。
「やめろ!」
しかし、冒険者達は誰もやめない。真耶はすぐに火を消すと、ルーナの方へ足を向ける。
「おっと、行かせはしねぇよ」
「またお前か!邪魔するな!」
「黙れ!敵はさっさと死ね!」
「敵って・・・たった2、3時間前まで仲良かったくせに何ほざいてんだよ!」
真耶と冒険者の男の戦いは激化する。2人の間に入れるものなどいない。冒険者達は2人の戦いを見るしか出来なかった。
しかし、それは奏も同じ。何も出来ないままただ見つめて祈る。それしか出来なかった。
カキンッ!キンッ!キンッ!
甲高い音が響く。2人はギルドの真ん中で切り合う。
「なぜここまでやる!?俺を追い出せば良いだけの話だろ!」
「違うな!俺達冒険者はお前を殺さないと気が済まないんだよ!お前がいるから精霊族が攻めてくるんだ!お前が死ねばいい話なんだよ!だから逃がすわけないだろ!」
なんて理不尽なことだろうか。精霊族に奏達を人質に取られ、取り返すと今度は街の冒険者に殺されかける・・・
こんな刺激的でいつも通りじゃない毎日は初めてだ。
「向こうにいた時はいつも通りばっかりだったからな・・・」
「なんか言ったか?」
「いや、なんでもないよ。”物理変化”」
冒険者達は真耶の魔法によって武器を封じられた。魔法士達は杖を、戦士は剣や弓、槍などを固められる。
「クソッ!」
「離せっ!」
「嫌だね。君達には少しの間こうしててもらうよ。あと・・・」
真耶は手を目の前に突き出した。そして、何かを掴む素振りを見せる。すると、そこから悲鳴が上がった。
「暗殺するならもうちょっと静かにしろよ」
すると、目の前から男が出てきた。どうやら暗殺者のようだ。真耶はそのアサシンを捨てると扉の前まで歩く。
「どこへ行く!?」
「俺はこの街を出るよ。もうこの街に用はないから。・・・行くよ、奏、ルーナ」
そう言ってルーナを囲う壁を消す。そして、真耶の掛け声に奏とルーナは近寄ってくる。真耶は2人の肩に手を置いて扉を開けようとした。
「おっと行かせねぇよ」
冒険者達が扉の前に立つ。
「いや、それ2回目だから。2回も同じ手が通用するなと思うなよ」
そう言って、普通に押し飛ばした。そして、扉を開ける。どうやら、街の人達は今の出来事に気づいて無いようだ。
「待て!最後にお前が何者か教えろ!」
冒険者の1人がそう言ってきた。
「フッ、いいぜ教えてやるよ」
そう言って振り返る。
「俺は錬金術師。ただのモブだ」
そう言い残して街を後にした。
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