第105話 終結
「ガウェイン、モルドレッド、こいつは貰っていくよ」
真耶はそう言って振り返った。すると、暗幕の中からガウェインとモルドレッドが出てくる。
「させるわけないだろ」
「殺す」
2人は静かにそうとだけ言う。しかし、既に体中怪我しておりもう限界のようだ。恐らく、もう一度俺が攻撃すれば死ぬだろう。
だが、殺しはしない。今回だけはな。楽しかった一時があった。もしかしたら分かり合えるかもしれない。
「俺には俺の考えがある」
真耶はそう言って小さなシャイニングフェニックスを作り出した。そして、投げつける。
シャイニングフェニックスはガウェインとモルドレッドの前に来ると、とてつもない光
放ち始めた。そして、その光は一瞬で止まり、その場には静寂と闇だけが残る。
そして、いつの間にか真耶は消えていた。それも、ヴィヴィアンを連れて。
「そうか……俺達は敵だぞ。なぁ……月城」
ガウェインはそう呟いてモルドレッドと一緒に闇の中に消えていった。
━━それから5分が経った。真耶はヴィヴィアンを連れて奏達の元まで戻った。その間ヴィヴィアンは泣きながら自分の胸元に手を当てていた。
真耶はそれを見て静かにヴィヴィアンの涙を手で拭う。そして、優眼を使って少しだけ痛みを取る。
「あの時の約束を果たすときが来たようだ」
真耶はヴィヴィアンにも聞かれないような小さな声でそう呟いた。
━━そして、奏のところに戻ってきた。
「ま、まーくん……その人って……」
「あぁ、ラウンズの1人だ。捕まえた」
平然と真耶はそんなことを言う。そのせいで奏達は言葉を失った。そして、その数秒後にとてつもない恐怖心が襲ってくる。
いつ襲われるかも分からない。ヴィヴィアンというラウンズの1人を連れ去ることで、他のラウンズが攻めてくるかもしれない。
一瞬でそんな考えが頭を過ぎる。
「ま、ま、ま、まーくん!や、やばいんじゃないの!?」
「マヤさんはいつも考え無しに行動しすぎです!」
「マヤさん!もし私たちに何かあったらマヤさんのせいですよ!」
皆は口々にそう言ってくる。どうやらかなり怒っているようだ。
さすがにそこまで言うことは無いだろう。めちゃめちゃギャイギャイ言ってくる。以下に真耶の精神が強いと言えど、こんなに言われれば辛いし耐えきれない。
そもそも、孤独に耐えきれずにモブを脱却したかったんだ。精神は本来弱いんだ。
「……分かった。じゃあ、封印しておくよ」
真耶は少し落ち込んで奏達にそう言うと、ヴィヴィアンの胸元を引き裂いた。そして、魔法で筆を作り出す。
『摂理を求めし者に祝福を……』
一言そう呟く。聞いたこともない。真耶が詠唱するなんて。だから、その魔法が普段の魔法より格段にやばいということがすぐにわかった。
『摂理を犯す者に制裁を……』
たんたんと詠唱をしていく。やはり、真耶からは嫌な予感しかしない。だが、そんなことよりももっと嫌なものがある。それは、真耶がずっと暗い顔をしているのだ。
まるで、辛いことが起こりすぎて泣いてるかのようだ。死にそうで、苦しそうで、もう諦めて泣いて欲しい。
そう思えるくらい辛そうな顔をしていた。
『其は摂理の番人なり……』
『最悪を変えるものなり……』
よく聞けば、その呪文も辛そうだ。それを見ていると、自然と涙がこぼれてくる。
「まーくん!」
そして、思わず詠唱をする真耶に背中から抱きついて止めてしまった。
「ごめんね!まーくん!傷つけるつもりはなかったんだ!ごめんね!」
奏はそう言って大泣きする。嗚咽を堪えながら真耶に抱きつく。真耶の背中は涙でびしょびしょになる。
鼻水が垂れてベトベト、涙で濡れてびしょびしょ、ヨダレも垂れてネチョネチョ、真耶は奏に抱きつかれながら不快な気持ちになるようなものを散々服になすり付けられた。
しかし、今の真耶はそんなことは思わない。元々、ちょっとした冗談のつもりで暗い顔をしただけだ。
傷ついたのは本当だが、それでもそれくらいに対抗する耐性は着いている。多分、そんな嘘をついた罰なのだろう。だとしたら、今の状況もこれまでにいっぱい嘘をついた罰なのかもしれない。
「そう言えば、あの時ガウェインも同じこと言ってたな。仲間を大切にしろ、だったっけ……」
真耶はそんなことを小さく呟いて奏の頭に手を乗っけた。そして、優しく撫でながら優しい声で言う。
「冗談だよ。そんなに泣かないで」
その言葉で奏は涙が止まる。別に怒りとか失望とかじゃなく、真耶が悲しんでいるわけじゃなかったという喜びに似た気持ちで、言葉を失う。
「なぁ、奏はさ、俺のことどうおもう?好き?それとも嫌い?それとも、別の何かしらの感情を抱いている?」
真耶の唐突な質問にことばが詰まる。そんなこと簡単だ。好き、と言えば良い。だが、いざ言おうとすると、恥ずかしくて言えない。もしこれが2人きりだったとしても言えない。
「なんでだろう?いつもは簡単に言えるのに、今日はなかなか言えないなー」
「え?何が?」
「むかっ、なんでそんな無関心に聞けるかなぁ?」
「フフ、冗談だよ。そう怒るなよ。奏の気持ちは分かったよ。当然ルーナ達の気持ちもな。ヴィヴィアンのことは悪かったと思う。だから、”絶対に俺達に危害を加えない”という誓約をかけておく」
「まーくん魔法使えないのに?」
「これは魔法じゃない。ただの約束だ。ちょっと大掛かりのな」
真耶はそう言ってヴィヴィアンの胸元に書いた陣を書き換える。そして、また新しい詠唱を始めた。
そして、ポッケからある魔道具を取り出す。
「あ、それって……」
「そう。ルーナの魔法、誓約鎖だ」
「でもそれって……」
「そう、お察しの通り陣を書かないといけない。さらに、陣の性質を1秒に1回変化させていかなければいけない」
「陣の性質を変えるということは、陣の形、色、魔力の質を変化させるということ」
「だから、それらを変化させ続けなければならない。これは、普通の魔法なら常時起きている事だ。恐らく皆はこれを意識せずに行っている。だが、俺の魔法ではそんな事しなくてもいい」
「陣無いですしね」
「そう、だから、俺は普通は出来ないんだ。だが、神眼を使って陣自体に干渉できるようにすれば陣の書き換えもできるわけだ」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべる。そして、その目は黄色く光っていた。
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