夜空の星空に捧げる五重奏12
「ソフィアさん!後五分ほど耐えてください!今から本気で考えます!ただ前回の借りはこれでチャラですからね!!」
そんな言葉が耳に入ってきた、私の口から自然と笑みが零れた
ソフィアは目の前の戦闘に重きを置きながら思考の海へと潜っていく
ルディアがこちらに手を貸してくれることが不安事項だった、彼女が何を考えているのか分からないがそれでもわかることはある、戦いづらい相手だなということだ
もし目の前にいる人物が極悪人で非道な人物だったら私もあの子も心置きなく拳を振るうことができただろう
だが私も彼女もどこまで行っても心がある生物だからこそ生物として庇護するべき少女が盾にされ、人質に取られて、状況は面倒くさい方向へと転がり続けている、だからこの勝負からいつか降りるのではないのではないかと思っていた、アルの周りにいる奴だ、降りたとて驚くことはなかった
だが手を貸してくれるのだったら何倍も心強い、そもそもこれは私のエゴでもあるからな付き合ってくれるだけありがたいことだ
全人類救いたいなんていう傲慢な願いは流石に持っていないが、それでも私の目が届く範囲の生物は救いたい、私の手が届く範囲の生物だけは救い続けたいという願いは持っている
救えるのであれば救う、それが難しい条件だったとしても、それの救い方が不明だとしても
何故?何て問われても明確な理由を挙げるのは多分できない、もし何故と聞かれたのならば救いたいと思うから救うだけだという曖昧な答えしか出せないだろう
自分の人生なんて曖昧で、明確な軸なんてなくて、戦いたいから戦って、剣を振るいたいから剣を振るって、助言したいから助言をして、救いたいから救う、そんな人生だ
だがそんな自分も悪くない
くだらない思考を捨てて現実世界に目を向ける
剣を振るい重い斧を弾き返す、これで何度目だろうか、攻撃に出れないのがここまで辛いとは思わなかった
目の前で剣と斧がぶつかり合い、黄色の火花が飛び散る
その斧を力尽くに剣を振り引き剝がした
「っく!らぁ!!」
剝がされると同時にサガンは巨大な身体ながら軽い動作で距離を取った
「あと五分…。ルディア様でしたら何かしらの打開策を打ち出すのでしょうね」
「さぁな、私はルディアを余り知らないからな、何をするのか楽しみで仕方がないな」
「そのような思考で良く「頼んだ」とか言えましたね」
「はは、私は信じているからな」
「それはそれは高貴な心をお持ちで」
剣をぽんぽんと肩に当てながらソフィアはもう一度口を開く
「あーなんだ、敵に塩を送るわけじゃないがあと五分しかないぜ?」
「はて、何をおっしゃりたいんですか?」
「全力で来いよ、最後まで後五分しかないんだぞ?お前も消化不良で終わりたくないよなぁ?だからこそこれから本気だ」
「本気でやっていないとでも言いたいんですか?」
「いーや、そんなことは一つも思っていないが、ただ、ただまだ出せる、何度か打ち合わせたから分かるがお前はまだ隠している」
少女を助けたいのは本心ではあるがそれはそれとして今目の前にいる悪魔の底を見てみたいという欲求に口が勝手に動いていた
そうに違いない、自分の口が悪い
「本気ですよ、本気でやって、本気で挑んで、まだ手が届かないなんて思いもしなかったです、流石に足ぐらいには手が届くとは思っていましたがそれすらも叶わない、悪魔ですら届かない位置にいる貴方は一体何者なんですか?」
「ただの吸血鬼だぞ?」
「嘘こけ‥‥‥…失礼、お話をしていても時間が過ぎ去るだけですね…本気のその先があるのかは分かりませんが、では…行かせて頂きます」
サガンはもう一本、斧を虚空から呼び出し、大きな手に握った、二本の斧を持った牛の悪魔はやはりもう一度、見たことがあるように天へと叫んだ
業務詰めで身体が血を求めていたところだ、あと五分は全力で楽しもうじゃないか!
「さぁやろうじゃねーか!後五分間の演奏をよぉ!!」




