夜空の星空に捧げる五重奏11
咆哮と同時に二本の剣をもう一度構え直しソフィアが飛び出す
「ルディア!私が止めている間に考えろ!」
その言葉を残してソフィアとサガリが戦闘を始める、斧の重い一撃とソフィアの二刀の剣が重なり空気が震えた、一撃が終えればまたもう一度空気が震えるほどの一撃の音が鳴る
剣と斧のぶつかり合い、一撃一撃が命を天秤にかけているかのような行為、その攻防を眺めつつルディアは頭をかいた
「考えろと言われましても」
……どうしろというんですかまったく、ソフィアさんの腹の内があまり知りませんが…ソフィアさんは元からこの攻防であまり傷つけるつもりはないんでしょうね、いやある程度は回復魔術があるからどうにかなるとか考えていたのでしょうけど
サガリは甘い攻撃じゃ潰れませんし、悪魔が気絶するか怪しいところでもありますからね、だから私に頼んだそれは分かります、だけどだからどうしろということなんですよ
今知った法則、今見ている法則、その法則を破って少女一人救えという難題、考えても答えがでるのか怪しい問題を突きつけられている
本当にどうしろと…
この考えている時間ですら戦況は刻々と進んでいっている
ソフィアがサガリの一刀一刀をいなしているがそれでも余り状況が良いとは言えない、全ての攻撃を打ち落としはじき落としているがそれでもこの形は長くは保つことができないだろう
今のソフィアにとっては選択肢なんて一つしかなかった、つまるところ隙を見せることなくただただ防戦一方の形を取っている
彼女だって端から防戦だけで済まそうなんて思っていなかったのだろう、ウィルフレッドみたいに記憶を失うみたいな感じの洗脳またはそれに準ずるものであると考えていたのだろう、だからこそ多少なりとも怪我をさせても問題はないと踏んでいた、だがそれが今はもう通用しない
だからこそ彼女は下手に攻撃に出ていないのだろう
あの攻防がいつまで続くかは不明ですが、あまり長くは保たないでしょうね…攻撃に出るならまだしも防衛だけだとやはり攻め手に欠けますから相手も動きやすいでしょうね
だから彼女の実力が格上でも悪魔に勝機が見えてしまっている
今でもソフィアの身体を軽く超えている斧と二刀の剣がせめぎ合いが続き凄まじい轟音とそれに伴う空気の振動が発生し、ソフィアの額から一つの汗が流れ落ち、その流れ落ちた顔の表情は苦悶に満ちていた
一刀、一刀と時計の針が進むたびに状況は悪化していく
空気が揺れ、地面が揺れ、斧が揺れ、剣が揺れ、吸血鬼の身体が揺れ、牛の悪魔が揺れる
そんな彼女を見ていたルディアの脳内にふとこんな緊迫している状況で一つの無駄な思考が思い浮かんだ
彼女は今何を考えて身体を動かしているのだろう?と
何を思って、何を考えて、どんな筋をもって行動しているのでしょうか、………きっと最初の行動原理はきっと妹、リーシャさんなんでしょうけど、今は違うのでしょうね
私には良くわからない考え、手を伸ばしたとて届くことができない思考の領域…いいえ多分これは原点であり、人と人が永遠と理解しあえない原因ですよね……ある程度、読み取ることはできるがそれが正解だとは思わない、思えないもの、そんなものに彼女は今突き動かされているのだろう
人類愛なんて言葉があるがそれを吸血鬼が持っているのも案外面白い話ですね
だがその先の言葉を背負っている彼女の背中はひどく輝いて見えた、眩しいくらいに見えた、目を瞑りたいほどに輝かしかった
それは見たことがない背中だった、アルさんでもなくヒイロさんやルドさんでもない、ツバメさんでもない、これまでの人生で見たことがない背中の生き様、だけど既視感がある生き様、それが誰だかは分からない、記憶にない人物なのかはたまた架空の人物、物語の人物の生き様だったかもしれないがそれでも思い当たる節はなかった
そんな奇妙な既視感をもった背中は今もまだ戦い続けていた
ルディアはゆっくりと顔を伏せる
覚悟を決める前準備だ、言葉にしてしまったら引くことが難しくなるからだから覚悟を決める
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…………
……そんな姿を見せられたら
そんな姿を見せつけられたら、そんな必死そうな姿を見てしまったのならば、そこで目を伏せてしまったらのならば自分が自分でなくなる気がする
あぁもう!
顔を上げ彼女は叫んだ
「ソフィアさん!後五分ほど耐えてください!今から本気で考えます!ただ前回の借りはこれでチャラですからね!!」
ルディアがソフィアに向けて必死に叫んだ、ソフィアはその言葉を聞いて何か返事をしたわけでもなくただただその言葉を聞いて笑みを浮かべまた剣を振るう
夜に聞かせる本気の旋律が一つ加わった




