夜空の星空に捧げる五重奏9
ソフィアの剣、二刀の剣は誰にも阻まれることなく我が道を進んだ、だがそれは力があったからだ、力さえあったのならば誰にも止めることはできない
爆発にも似た音が鳴り響き、アヤノが地面へ向けて凄まじい速度で吹っ飛ぶ
アヤノは二転三転ごろごろと地面を跳ねながら転がり続けた、だが途中で姿勢を正し鎌を地面に突き刺し速度を強引に落としていく、それによって綺麗に舗装がなされていた地面ががりがりと地面は抉れていった
アヤノは数十の長さを持って停止することができた、その強引にも見える止め方でも止まらない様子だけであの一閃の、ソフィアの威力が伺える
そんな斬撃を放ったソフィア自身は黒い翼を使い、音を立てずにゆっくりと軽い羽根のように地面へと降り立った、だが降り立ったソフィアの顔はあまり良いとは言える顔ではなかった
ルディアはその様子を横から顔を覗かせる
「どうしたんですか?顔をそんなしかめて、美少女が台無しですよ」
「うるせぇな、あーくっそ、あんまり入ってないじゃねーか見切るんじゃねーよ、てかどうやって見切ったんだ?」
完璧に入ったと思った、どこからどう見ても誰が見てもだった、だがそれでも一瞬だけただ一瞬だけソフィアの剣は止められた
詰まるところアヤノはどこからそんな反射神経が生まれたのか鎌でソフィアの攻撃を防いだという事だ
「この状況を予測でもしてねぇとあの攻撃は防げねぇだろ…。」
ぼそりとソフィアは呟く、その呟きには驚きという感情が大多数を占めていた
どういうことだ?なんで防がれた?まぐれか?…それとも野生の勘?いや勘だとしてもそれは知覚していなければ勘なんてものは感じられないはずだ、だから何かしら感じているはずだが…それはどうなんだ?
戦況を把握して既に予測を立てていた?‥‥‥だったらありえるが…ありえるのか?そんな冷静なのか?
目の前の人物はそこまで見えているのか?
そんな様々な思考に埋もれ、顎に手を当てて考え込んでしまっているソフィアの横にいつの間にかいつも通りの血液の剣、紅い剣を握りしめたルディアが隣から話をかける
「何考え込んでいるのか知りませんがあんまり時間はないですよ?」
ルディアは言葉を放ちながらアヤノを見る、吹っ飛ばされて三半規管が異常をきたしたてめか知らないが顔に手を当てながらふらつきを抑えている様子が伺えた
だがそれも収まってきているようでまた戦闘が始まるのも時間の問題だと捉えることもできた
「もう一度言いますね、時間はあまり残されていませんよ?戦闘がもう一度再開したら会話をする余裕なんてないと思いますが」
「何が言いたいんだ」
「あの子どうするんですか、見る限り年相応の動きをしていませんよ」
「憑りつかれているまたは操られているって言いたいのか」
「えぇまぁ…そうですね…。裏に何がいるのか分かりませんが、まー私は余り思い入れもないですし、助ける義理もあまりないのでどっちに転んでもいいんですが」
「助けるに決まってんだろ、当たり前だろ?」
当たり前の事を聞いてどうすると言わんばかりにきょとんとしながらソフィアはそんな事を言った
「あんな攻撃を放っておいてよくそんな言葉が口から出てきますね」
「しょうがないだろ、何をするにしたって落ち着いてもらう必要があるんだから」
「それもそうですね」
ルディアの隣に佇む少女は目の前の闇の中でふらつく少女を見つめていた、吸血鬼らしからぬ思考で吸血鬼らしくない目で
今まで合ってきた人が少ない自分でも感じ取ることができる異質さ、吸血鬼という種族でありながら吸血鬼という枠組みを外れた人物、そんな人物を見ていると一つだけ当てはまる物を見つけた
「吸血鬼らしくないですね、どっちかというと…」
その後のルディアの声は最後まで世界に響くことは無かった、意識を向ける必要性がある人間が喋りだしたからだった
静かにルディアとソフィアは声の主の方向へと向き直る
「ごちゃごちゃ話しているところ悪いんだがそろそろ始めようぜ?退屈してるんだよ」
「威勢のいいこった、眩暈はもう治ったか」
「お陰様でな…じゃあ第二ラウンドといこうじゃねーか、さて変身中の攻撃はなしだぜ」
「あぁ?何言って…」
「ソフィアさん、ソフィアさん!これさっさと終わらしたほうがいいかもしれません!てか私の中の何かが言ってるんです!これはあれです!あれなんですよ!」
強者の余裕なのかそれとも強者としての闘争本能なのかという
それはもうわかっていた、同じような胸騒ぎを幾つも体験したことがあるからこそ、感じ取れる展開だからこそこんな言葉が口から放つことができた
これはあれだアルさんに引っ掻き回されたときみたいな感覚だ、これは不味い、ただただ不味い、めんどくさい事にしかならない
だからここで止めないと!夕飯が!
「白き世界!」
ルディアは地面に赤い剣を突き立て魔術を展開する、魔術はいつも通りに展開し白き息吹はアヤノに向かって伸びていく、それを形容するならば白き蛇のように思えただろう
白き蛇はアヤノを飲み込もうとする直前に魔術は完全に停止した、否それは停止に見えるだけで何かに止められていた、魔術がアヤノを中心として半円を描くようにびたりと止まっていた
「言わなかったか?変身中の攻撃は無しだって………やるなぁ」
「聞き取れませんでしたね」
ルディアはアヤノからの返答をどうにかして返した、だがその顔は苦笑いもとい明らかに引きつっていた
間に合わないと感じとってしまったから
そんなやり取りの後アヤノの身体はぼこぼこと膨らんでいく、腕は肥大化し黒く変色していく、足もぼこぼこと黒く染まり巨大な樹木のように膨らんでいく、着ていた服装は身体の膨張に耐えられずにみちみちと嫌な音を立てながらぼろ雑巾のようにゆっくりと破けていく
虫が蛹となりやがて羽化し変態していくように徐々に人間の姿を捨てて新たな生物へと進化していった、秒数を重ねるごとにその姿は禍々しい姿へと変貌してく、だがこれは暴走や新たな物へと昇華しているわけではないと直感で理解できた、これは本来の姿を取り戻しているように変化していっている、これが彼女の、いや彼女に憑いている者の本来の姿なんだと感じとれた
それは真っ黒い影を纏った悪魔だった、それは黒い牛であっただがその牛というのも家畜化された牛ではなく野生で鍛え抜かれた生存本能が前面に出ている磨き抜かれた身体と共に全ての野を駆け巡るためにある筋肉質な足で構成されていた、そしてその背中には折りたたまれているが今からでも天に飛び立つことができるであろうと思える翼が生えていた
そして一番の特質すべき点は仁王立ちで立っていた、腕を組みルディアとソフィアを睨みつけるように立っていた
全てが終わった彼は待って頂いていた演奏者達に言葉をかけた
「一応この身体で話すのは初めてなので自己紹介から参りましょうか」
「やけに物腰が柔らかくなりやがったじゃないか、なんだ?悪いもんでも落ちたか?」
「ふふふ、そうですね、落ちたというよりかは剥がれたと言ったほうが良いかも知れません、人格というものは身体に寄りますからね…」
「?どういうことですか?」
「すいません、ルディア様それは今はあまり関係のないお話なのでまたの機会で」
その牛は華麗に身体の隅々まで整えられているような所作で頭をゆっくりと下げて非礼を詫び、そうして十分な時間を使用したのに頭を上げ、また言葉を紡げる
「では改めまして、私は悪魔の国を治めることに努めている名前をサガンと申します、以後お見知りおきよ」
そういって牛の悪魔はまたもう一度あいさつ代わりに頭を下げた
序奏は終わりを迎えた




