夜空の星空に捧げる五重奏8
アヤノの開戦の合図と同時にソフィアとルディアに向けて右へ左へ壁を伝い突っ込んでくる、右へ走り、左の壁を走る、獣のように目を煌びやかにその少女の目は光っていた
先ず狙うはただ一人、近接戦闘が苦手な魔術師
アヤノは鎌を構える
私はソフィアさんの動きなんてものは分からない、だけど記憶にはある
ウィルフレッドから助けて貰ったときにその姿は見ている、二刀の剣で華麗に捌き切る動きを、だから私はソフィアさんの動きは見ない
動きを見たところで差し込める気がしない
「ふぅーーーーーーーーーーー。っく!」
ルディアは深く息を吸う、それに呼応して肺は大きく動いた感じ取ることができた
身体はいつもよりも少しばかり疲れが出ているようですが…でも肺は動く、手も動く、足もまだ動く…。だからいつも通りに、普段通りにやりましょう、やることなんぞ後で考えればいいんですよ
壁を伝い、地面を伝っていたアヤノが狙いを定めて高速で迫ってくる、その目は色はついてはいないが獲物を刈り取りに来ている本気の眼であった
これが国をある程度騒がした鎌ですか………。
鎌が届くまであと一尺ほど、その距離でアヤノは全力で一撃を振るうために攻撃を行う姿勢へと移行する
「一撃目!!!!!!!」
渾身の声と共にアヤノが振りかぶった鎌が異様な音を立てながら迫りくる、ルディアはその攻撃を慌てる様子もなくただただいつも通りに相棒を使用する
「鎖」
ルディアが一言声を掛け、能力の発動を促す、能力はそのルディアの声に応じて華麗な鉄の音を奏でながら姿を現す
ルディアとアヤノの中間点、その地点で壁を作るように無造作にされど通す気なんてさらさらないぞというほどの量の鎖が展開される
「知るか!!」
アヤノは目の前に出てきた鎖に驚く様子すらなくむしろそれに強気にでた、振り上げた鎌を下げることなく、前にでた身体を捻りより強力に鎌を振る体制に入り、そして小柄な身体からは想像もできないほどに研ぎ澄まされた一撃が繰り出された
鎖もある程度は耐久力があると思いますが…。
鎖と全てを壊すために振り下ろされた禍々しい鎌が一瞬の攻防を見せた、いや見えるだけだった
がきゃと鉄がひしゃげたような、無理やり千切られた音が響き渡る
同時に粉々に飛び散った鎖のかけらが空中へと舞い、役目を果たせずに霧散していく
やっぱりだめか
そんな感想を持ったルディアは苦虫を嚙み砕いたような顔をした、だがそんな余裕を持った時間はない、アヤノは空中でそのまま回転を重ねてもう一度攻撃に移行できる体制へと変えた
その時、その瞬間に鎌の隙間から目と目があった気がした、アヤノの目は力強く次に狙う部位に目を定めていた、いわば獣の目だ
操られているわけではなく、憑依されている?虚ろな目をしていた人たちとは違う…。目に力が宿っている?そんなことを考えている場合じゃないですね
アヤノはもう一度攻撃を繰り出す、ルディアとアヤノの距離は既になかった
ぎりりと歯を食いしばる顔がそこにあった、小柄な身体を大きく大きく使い最大限の力を出そうとしている姿がそこにあった
「くら……っ!」
獣が鳴くだがそれを遮るように、ルディアは地面へと片足をつける、それは湖の中心に浮かぶ白鳥のようだったそしていつも通りの範囲殲滅魔術を使用する
「白き世界」
その言葉を放てば魔術は発動する、ルディアの足先から魔術は世界へと飛び出していく、その速度は誰にも抜かれることはない
氷の魔術師は世界の温度が下がった中で白い息を一つだけ吐いた
凍る世界は広がり続け、アヤノが鎌を振り出した場合その瞬間に問答無用に成すすべなく凍ることだろう
「やっば!」
そんな予感を感じとったのか大きな鎌を地面に突き立て強引に魔術を大きく距離を取るように回避した、だがそれはルディアの目から見たら苦し紛れの突発的な行動であると感じ取れた
だからこそ今まで行動を取っていない化け物に言葉をかける
「ソフィアさん浮きましたよ」
「言われなくても!」
ソフィアが黒い羽根を大きく広げ低く滑空しながら瞬間的に詰める、一歩地面を踏み蹴り上げる、速度は上昇する、二歩目で速度を殺すことなく全ての速度を身体に乗せたまま地面を効率よく蹴る、速度が上昇する
最後の一歩でもう一度だけ地面を蹴り、黒い翼で速度を尚上げる
名前なんてものはなく、ただ技術だけの剣技
一歩、二歩、三歩と跳躍を重ね、眼前に広がるは敵一人、距離は十分、剣を振るうには最適な距離
「ーーーーーーーっ!!!!」
歯を食いしばると同時にソフィアの声が漏れただがそれは言葉ではなくただの気合だ、気迫だ、いわば気持ちだ
喰らいやがれ
ソフィアの口からは声には出さないが鋭い目がそう物語っていた
一挙一動無駄な動作がなく、挙動すべてが二本の剣を振るうために行われた儀式、全ては一人の人間を喰らうために剣を振るう
吸血鬼という本分を捨て、剣技だけで最強の名を持つ彼女の一撃
その一撃に音は無かった、空気を切り裂き、空間をも切り裂く、だからこそ音さえも切り裂く
「な!」
アヤノの驚きの短い声が響き渡った
素直に真っ直ぐ立ていれば、全てが見通せていていればある程度対応もできただろう、だが今は無理な姿勢だ、ソフィアが迫ってきていることだけは気づくことはできただろう、だが認知できる点なんてそれだけだった
だから防御できるはずもなく、回避できるはずもなかった
それは当たり前だ、当たり前でしかない事象だった
ソフィアの一撃は空気を揺るがした、だがそれと同時に甲高い音が鳴り響き渡った




