夜空の星空に捧げる五重奏3
「で?こんな大それたことして何がしたかったんだ?」
「これですよ、これ」
おぶっている人を示すために少しだけ肩を揺らす、それともう一つ、少女からもげた肘からの腕を見せる
かとぉ揺らした際のリーシャはぐでりと揺らされるだけで反応は薄い、だが息はまだある
「うぇ!?っとん?は?どういうことだ?」
「どーもこーもないですよ、見ての通り、見たまんまの状況です」
「全く状況を呑み込めないんだが……飲み込まなくても良いんだよな、きっと」
「そーですね、そーですよ、アルさんは何も考えずにただ単に家まで送り返してくれればいいですよ、そのために呼んだんですから」
「ちょ、ちょいとちょいちょいルディアさん、ルディアさん?最近ちーとばかし扱い雑すぎませんかね?」
「気のせいですよ、最近何度も吹っ掛けられている私の不運を差し上げようとかは特に考えていませんよ」
「いらない、いらないからな」
「遠慮しないでくださいよ、今日は安売りしているんですよ…いえ今回は特別価格でアルさんだけに…ほかのみんなには内緒ですよ?…アルさんにだけは今回だけはタダで差し上げますよ」
「そんな厄介な物タダでもいらんわ、一人で食ってろ」
「いやですよ、てかこの不運のトリガーは大体がアルさんなんですから、私にお金を払ってでも受け取るべきなんですよ」
「拒否します」
「拒否しないでくださいよ……だったらこうしましょう、私とリーシャさんを送り届けることで代金を受け取ったことにしてあげますよ」
「それはそれ、これはこれだろ」
「ぶん殴りますよ!?」
「ルディアの殴りは痛そうだよな、魔術とかで上乗せしてきそうだもん」
「本当にしますよ…はぁどーでもいいので飛ばしてください、この子の息もあんまりよろしくないので」
「ん?あぁそうだな、戯言を積み重ねておいても仕方がねぇしな」
「そーですよ、だからお願いしますね」
ルディアはいつも通りに自分たちを飛ばしてくれと言わんばかりに手を差し出した、アルはその手をなんの躊躇いなく握る
その瞬間からアルの魔術が発動し始める
何かしらの変化なんてものはなく、付近の魔力量が著しく落ちることもなく自身の魔力だけで完結させる魔術、どれだけ学を学んでも、どれだけ魔術を把握しても手が届かない魔術…。
「…………………。」
「どったんだ?」
「いーえ、別にただぼーっとしてただけですよ」
「そうか、まぁいいや……さぁ行くぜ?少しだけ眩暈あるだろうけどもそれは我慢してな」
「はいはい……流石にぎゃーぎゃー言ってれば気づかれますか」
「ん?」
「は・や・く」
「へいへい」
アルは適当に返事をし終え会話を終え魔術を発動する
ルディアとリーシャの目の前の景色がぐにゃりと歪む、だが彼女は歪んでいる情景でも目をつむることは無かった、その目は真っ暗な路地を見ていた、そこには何も映ってはいない闇の世界だった、だがその世界に一つだけ気配があった
その気配に警告を促すように、「これ以上来たら手加減できませんよ」という文言を伝えるためにルディアは目を離さなかった
「ほい到着、ってえぇルディアさん、一体全体どうしたんだよ」
アルの目の前には顔を少しだけ青くし、口を押さえていたルディアがいた
「うぷり、酔いました」
「そんな酷かったか?てか前にも飛んだ…いやあの時は短距離だったからか?うーむ」
「いやまぁあれです、お腹が減っててなんとやらです、減ってるときは酔いやすいんですかね」
「ん~どうなんだろうな、酔ったことがないからなぁ」
「まー適当そうですもんね、全てにおいて」
「その枕詞絶対いらんかったろ」
「必要ありませんでしたか、欲しかったと思っていたんですけどね」
「おめぇは私のことをなんだと思ってるんだよ」
「え?そりゃ頼りになる、頼りにしている自慢のお姉ちゃんとかですかね」
「こいつめ」
「というかお腹が減っている理由としては未だにアルさんの料理ができていないからなんですからね?」
「いやなルディアさんよ、料理というのは時間が掛かってだな?材料を確認してどんなもんにするかを考えてとか材料を切ってとかやってると滅茶苦茶時間がかかってだな」
「そんなこと知ってますよ、いつもいつも作ってるのは私なんですから、感謝して欲しいですね」
「すいません、大変感謝させていただいておりやす」
アルはルディアのことを神に祈りを捧げるように、神に願いを叶えてもらう際の所作のように手を合わせ拝んでいた、ルディアはそんなアルの行動に呆れたように半眼を向けていた
「……ぐ」
リーシャが小さくルディアの背中の上で呻く
忘れていた
「っとアルさん、料理のことは今はどーでもいいのでリーシャさんのことを頼むことはできますか?」
「任された、てかそれはルディアでもできるんじゃないか?」
「…………疲れるからいやですね」
「おぉい私だって無尽蔵の体力があるわけでもないんだぞ!?」
「まぁあれですよ……こほん、お姉ちゃん、一つ助けて?」
ルディアは咳払いの後、普段確実に絶対にださない渾身の猫撫で声をだした、その声を聞いてアルは黙った黙るしかなかった、黙らないと奇妙な声が気色が悪いような笑みが零れてしまいそうだったから
一種の凶器だな
アルは気持ちが落ち着くまでほんの数秒だけ余すことなく使い気持ちを完全に落ち着かせる、そしてまたルディアに指示を出しながら会話を続ける
右へ左へ、床が汚れるから布を引いた机の上にリーシャを乗せろと指差しで伝え、それを汲み取りルディアもその指示に従い手際よくリーシャを回復させる準備を始める
そんな通常からかけ離れた以上の中でもひりつく気配なんてものはなく表面上はいつも通りの二人がそこにいた
通常過ぎる二人がいた




