夜空の星空に捧げる五重奏2
重体の人を運ぶのは文字通り骨が折れそうだった、気を失っている人間は非常に重い
運ぶのだけでも汗がでてくる
ルディアは血だらけのリーシャを背負いながら元来た道を戻るために歩き続ける
「ほんと、重いですね」
飛んで運ぶという手も勿論考えた、だがこの怪我の状態だ、どの部位がダメージを受けているのか、どの部位が折れているのかが分からない
医療技術があるわけでもなければ、触診もできるわけでもない、医者のように目視で確認できるわけでもない
勿論回復魔術という物もある、だけども私には人を回復させるという技能はない、才能も無かった、人並みにはできるが人並程度でしかない
だからこそ回復魔術を使用してもリーシャを回復させるのに時間がかかる、それも秒単位や分単位では収まらないぐらいだ
のんびりとその場で回復をしても良かったがもしあの場に戦っていた片割れが戻ってきた場合面倒くさいことになる
…守りながら戦うのは苦手ですからね、責任も取れませんし……それにしてもこのままだと日が昇りますね、こっちのほうもあんまし芳しくないですからね、どうしたもんか…。
このままだと本当に日が昇ってきてしまうとそんな施行を持ちながら、ルディアは足を止める
飛ぶ選択肢を入れるしかないんでしょうか?……。でもここまで瀕死の人を…。じゃあどうすれば…。じゃあ…
ルディアの思考は結果を出すために反復する、結果を出すために可能なことを挙げては自身で否定する、それだと届かない、それだと伝えられないと
やばいですね。
案が出ないのもあるが、それ以上に自身の中にある勘が言っている「ここから離れろと」そんな嫌な勘が胸の中に広がっていく
これはあれだ、追ってきているのか
足音は聞こえない、気配も感じ取れない、魔力の残滓もない
だがそれでも確実に確実に獲れていない獲物を刈り取りに来ていると確信できる何かがあった
顔から一つ汗が垂れる、高鳴っていく心臓と反比例するようにゆっくりとゆっくりと顔を伝い顎に到達し、地面に向けて落下していく
その汗は地面に到着すると同時に吸収され目には見えなくなった、その汗の挙動がルディアの目に煌びやかに映っていた
ルディアは一言ぽそっと呟いた
「……あー、これならやれる?…いや一番現実味があるような気がしますね」
相も変わらずリーシャの息は小さかった
リーシャを背中におぶりながらルディアは用意を始める
基礎は全て頭の中に入っている、一から作るのはあまり慣れていないがそれでもやれるだけやってみよう、一度は成功しているのだから二度三度同じことができるであろう
失敗したら…まぁ戦闘が起こるでしょうね
十分に予測できる未来だ、だがそんなことを考えてどうする
ルディアは今やっていることに集中するために目をつむる
真っ黒のなか思考する
効率なんて度外視、自身の魔力量で補えるのなら補ってしまえ、近隣の住民に迷惑をかけてしまうがそんなものはどうでもいい、一瞬だけ起きるだけだあとはまた寝てくれ、魔術の基礎は頭の中に入っているんだから余すことなくふんだんに使え
バチバチとルディアの手が光りだす、赤色、オレンジ色、黄色と様々な色の火花を手の中に押さえつけているようだった
その火花は時間が立つにつれ今か今かと放たれるのを待っているかのように光の大きさは増していく
大きさは国全体に見えるぐらいにいきましょう、色は入れられるだけ入れましょう、魔力をふんだんに使って複製を重ねましょうか…
ルディアの手のひらに留まっていた魔術は完成したことを知らせるように眩い光を発生させた、その後、その魔術はルディアの手で待機状態を維持するために光を抑えつつ手の中で小さな光を放っていた
「さぁ気づいてくださいね、アルさん」
ルディアは腕を星空に天高く上げる、星に響かせるために、夜空に広げるために、今できる最善の手のために手のひらを空に向けた
さていつか見た、どこかで見た夜空に浮かぶ綺麗な夜景、それは何処だったでしょうか、三人でいつか見た景色?それともここで皆と見た景色?…本で見た知識なんですかね
そんなことはどうでもいいですね
魔術は完成した、術式は問題ないはずです、イメージも問題ない、魔力の流れも問題ない。
さぁ行きましょう
ルディアはゆっくりと目を瞑った
「……。「空高く舞う蝶達」」
静かに綺麗に相応しい言葉を述べた、そしてその言葉に共鳴して手に収まっていた光を発動する、手のひらから発された光は勢い良く夜空に飛んでいく
それはオレンジの色だったかもしれない、それは真っ赤な色だったのかもしれない、それは青色だったのかもしれない、それは白色だったかもしれない
一、二、三。
三秒、ルディアは三秒だけ心の中で数えた、そしてルディアはゆっくりと目を開ける
その瞬間に目の前が真っ白に光った、その瞬間にびっくりするぐらいの爆音が鳴り響いた、だがそれは不快な音では無かった…それはいつかどこかで見た「花火」だった
ルディアの綺麗な瞳に映る
それは暗い暗い薄暗い青色の空に、そんな空に咲いた火花で生成された火花だった、花が咲き、音がなる、もう一度花が咲き、また音が鳴る、大きな花が咲いたら、大きな音がなる、終わりなき連鎖によってそれは咲き誇った
それは青色だった、白色だった、オレンジ色だった、赤色だった、形は不揃いでぶきっちょでぐちゃぐちゃだった、ある人が見たらそれは蝶だったと言うだろう、それは花だというだろう、それは形を持たない芸術的なものだというだろう
だがそんな不揃いな花火でも綺麗だった………綺麗だった
「見せたかったなぁ」
ぽつりと一つ呟いた
人が住んでいる地域に明かりがつき始める、遠方から騒ぎを聞きつけた人が自身の外を眺めることができる窓から顔を覗かせている、光は次第に増えていく
だがそれでもこの辺りには光が付かない、やはりこの辺りには人がいないらしい
だからだろうか、いやだからこそだろうか
憎悪が迫ってきている…違う、これは憎悪ではない?狂気?狂喜?そんな何かが迫ってきている…気がする
注視して迫ってきているであろう方向を覗く、それは暗い路地だった
あぁ迫ってきていた、奥が見えない路地から、真っ暗で見えない路地からそれが迫ってきていた、やはりこれは時間勝負になるか
想像はできていた、今私はリーシャを背負っている、リーシャという弱弱しいがそれでも大きな気配を放っている存在を背負っているんだ、相手はすでに粗方の場所は掴んでいたのだろう、それにダメ押しで花火だ
場所なんて簡単に割れてしまうだろう
だからこれは一種の賭けなんだ、コインは既に投げた、裏がでたら戦闘、表がでたら何事もなく帰れるだけのただの簡単な賭け
どっちが早いか、どっちの到着が早いのか、これは速さと気づきの速さの勝負
そんなことを考えていたルディアはもう一度目を瞑る、動くことはできない、ここで動いたらアルさんが訳が分からなくなりますからね
ルディアの頭上には未だに煌びやかな花火が打ちあがり続けていた
三十という秒数を数えた所だった、とんと軽い足音が聞こえた
これはどっちだろうか、裏か表か、まぁどっちかというと表のほうがいいですね
ルディアは音の方向へと顔を向ける
そこにはいつも通りの帽子に、いつも通りの服装を纏った、いつも通りの彼女がいた、彼女は不思議そうな顔で聞いてくる
「これはどういう騒ぎだ?ルディアさん」
私が投げたコインは表だった




