ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活9
私は一種の賭けをした。大きく振りかぶるという行為を見せる、つまり隙を見せることで、攻撃にでることで誘ったのだ。
ルディアは一瞬でも気を引いてくれれば良いと言っていたがそれでは私のプライドが許さない、それに最悪ルディアの攻撃が見切られる可能性がある
だからこそ・‥‥
リーシャは目を一瞬だけ瞑る
私はやっぱり弱い、意志ある者ではない、何かを持っている者でもない、誰にも負けない力を持っているわけでもない、力を持つ者ではない、…‥‥‥でもだからこそ面白い事は好きだ、遊ぶことも好きだ。だからこそ無駄な事を話す事も好きだ。
何も持っていないから
今はまだこんな事しかできない、だって私は主人公ではないのだから
だからといってここで何もかも投げ出すほど自分は弱いとは思えない、思いたくない、それにルディアと約束してしまったからな‥‥‥ま、これからも怪我をするかもだけれども、自分が目指す道は茨だからな、怪我をしてなんぼだもんな
だからといって故意に怪我をするわけにはいかない
失敗するわけにはいかない
情けねぇところは見せられない!もう既に一回逃げているんだから!逃げる事だけは絶対にしない!
リーシャはぎらりと力強く目を開ける、全てを逃さないために、一瞬たりとも逃さないために
まだ炎は燃えていないがいづれ燃えるであろうその眼は真っ赤に夕日に照らされて色濃く煌びやかに輝いていた
ぎらりと歯を見せる、リーシャに浮かんでいたのは恐怖などの感情ではない、それはまさしく心が躍っているようだった
「さぁ勝負だ!」
それは刹那の時間の勝負、秒数なんて数秒程度であろう、そんな短い時間の勝負
その一瞬が勝敗を決める一手だった
高速を超えた最速の一手、ドラゴンの尻尾の一撃が迫りリーシャと接触する、接触した瞬間から莫大な耳を劈くほどの金属音が鳴り響いた
リーシャは予め決めていたかの如く二本の赤い剣を大きく大きく天に向かって投げ捨て素手でドラゴンの尻尾を受け止めていた、その手のひらからは火花が散っていくと共に固形の赤い血液が空中に飛んでいく
「ぐぅぅうう!!」
歯を食いしばり、その一撃を耐え凌ぎ、そしてその一撃の威力を殺し続ける
削れて行っているならば足し続けろ!足して足して足して足して足せ!剣が一瞬でも耐えられたんだ、だったら剣を小さく小さく凝縮して手のひらで生成し続ければドラゴンの尻尾の威力ぐらいは殺せる小さな防具になる筈だろ!
ドラゴンの威力に負けないように足にぐっと力を入れる
衝突によって逃げ場を一時的に失っていた力というエネルギーが地面に向かって逃げていく、その現象によってリーシャを中心としてべこりべこりと地面が尋常ではないほどに凹み続ける
魔力を通しながら生成を繰り返しかつ尋常じゃないほどに力を入れているために腕が千切れそうに熱くなる
ドラゴンの攻撃によって身体も悲鳴を上げ始める
だがそれでも一歩も引けない
逃げ場を求めたエネルギーが地面を抉る、ばこんと地面が凹むたびにぶわりと白い花弁が空中を舞う
足が悲鳴を上げ始める
またもう一度ばこんと地面が凹む、そのたびにぶわりと白い花弁が空中を舞う
それでもリーシャの笑みは崩れなかった
どちらも引かない攻防、吸血鬼とドラゴンはどちらも諦めなかった、諦めることはなかった
だがそれでもいつかは終わりを迎える、永遠なんてものはないのだから
その終わりは目に見え始めていた、徐々に徐々にだがドラゴンの攻撃の威力は落ちていった
「糞ドラゴン!どうだ!ちっぽけな吸血鬼に止められる気分は!っはっはっは!!」
「gura!!!!」
あくまでこのドラゴンの技は単純明快、速さをつけた突きだ、当たり前だが時間が経てば経つほどに威力は段々と落ちていく、威力が落ちていることに気づいたドラゴンはいったん距離を取ろうとするがリーシャがそれを許すはずがなかった
リーシャはドラゴンの尻尾をそのまま掴み行動を制限する
「逃げるなんて言わねぇよな?」
「galararaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
ドラゴンの青い瞳が限界まで大きく開かれる、リーシャに尻尾を掴まれ動けないという驚きもあるのだろう、だがそれよりも今なすべき事を成すために、情報を得るために大きな瞳を開いた
右へ左へと目玉を回すがそれでも見つからない、白い大地を探しても彼女は何処にもいないだろう
なぜならばその人物は既に事を終えていた、その準備は既に準備を終えていた、その人物は既に空中にいた、リーシャが真上に投げていた赤い剣、二本の剣を拾っていた
ばさりばさりと自由落下によって白い髪が乱雑に舞う
超上空から自由落下をしながらルディアが剣を構える、驚異的なバランスを持ちながら一点目掛けて落下する
「ここにいますよ、そしてチェックメイトです・‥‥バースト」
ルディアは風の魔術を使用しさらなる威力向上を図った
身体を十二分に使い、余すことなく力を乗せた一撃
身体能力を向上させる魔術を自身にかけた一撃
ルディアでは作成することができない、手を届かせることができない鋭さ、硬さを持った極上一品吸血鬼の紅い剣からの一撃
最高の一撃
動くことが出来ないのであればとドラゴンが防御態勢に移行しようとしたがそれよりも早く星が地面へと落ちた
その紅い星は地面を深く深く爆音と共に抉り取った
地面に咲いていた花がぶわりと空中を舞った、それはさながら雪が降っているようだった
ひらりひらりと舞っている花びらの中、ルディアは先の攻撃で傷一つける事が無かったドラゴンに向ける
「今ので勝負は付きましたよ、ドラゴンさん」
ゆっくりとゆっくりと白きドラゴンに向けて紅い剣を向ける
お前の首は既に落としたぞと言わんばかりに
白き花弁が未だに舞っている世界で紅い剣を向けた魔術使いが終わりを告げた
「gurararara・‥‥‥」
その世界でドラゴンは唸るだけだった
「ドラゴンさん、これ以上やってもお互い痛い目見るだけですよ」
ドラゴンは大きく目を開け、先ほどまで綺麗だった地面へ、そしてそれからルディアへと視線を移した
それは先ほどルディアが攻撃を外さなければ自分はどうなっていたのかと思考を巡らしているように見えた
「賢いドラゴンさんは分かりますよね?」
「gahu--galalal」
ドラゴンは短く応じた、その低い唸り声は戦いを終了しようと言っているように聞こえた
そしてその言葉を証明するかの如くドラゴンはその場へと身体を丸めるように座り込んだ
ルディアも二本の紅い剣を地面へと深々と突き刺し戦意が無い事をドラゴンに知らせた
そうして地面へと刺され、持つ者がいなくなった紅い二本の剣は柄の部分、先の部分から空中へ自身の身体を霧散させていった
紅い剣の紅い粒子が空中に拡散するともに白い花弁が舞い落ちる中でこの夕日の戦いは幕を閉じた




