ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活8
ざくりざくりと葉っぱを踏む音が山の中に響く、二人は目的地に向かってのんびりと歩いていく
「そうだな、何かあるか我が僕よ?」
「誰が僕ですか!…というかリーシャさんが武力交渉なんてしなければこんなことにはなっていないんですよ?」
「これが世の理という事か」
「黙ってください」
共に歩くという事は引っ張って貰う、歩幅を合わせてもらうという事であるがそれは同時にリーシャの道にも連れていかれるというわけで‥‥
「はぁ‥‥そうですね…‥‥‥‥作戦というほどのものではありませんが方針は一つだけあります」
「ふーっはっは!聞かせたえ!!聞かせたえ!我が従者よ」
リーシャの言葉に辟易しながらルディアは一つの方針を伝えた
ルディアが全て伝え終わったところでリーシャは口を開いた
「それで行けるのか?」
「行けます、知能が高いからこそ通じますね‥‥‥‥たぶん」
それは余りにもシンプルな方針だった、ルディアにとって確信がある、これが一番有効な手だという事に、だが確証があるとは思ってはいない
「良いねぇ、良いねぇ!良いねぇ~あぁ素晴らしい!」
「はいはいリーシャさん、そんな戯言どうでもいいんで行きますよ」
「よし来た」
何かを言おうとしたルディアは少しだけ固まったのち、口を開けたルディアはふいっと何もない空間を向き、リーシャと目を合わせることなく言葉を一つ絞り出した
「絶対に怪我しないでくださいね」
リーシャはそんな言葉を聞いて驚きのあまりぽかんと口を開く、そして硬直から解かれた後
リーシャは少しだけ笑みを浮かべながら無言でその言葉を肯定するようにぽんぽんとゆっくりとルディアの頭を撫でた
彼女の顔は誰にも見えないがそれでも本人が嫌がっている様子はなく、ただただ恥ずかしそうにしていたようにも感じられた
そして二人はゆっくりと目的地まで歩き始めた
二人は白き床、白き世界に足を踏み入れる、白き花たちは「また来たの?」と風に揺れながらルディアとリーシャを歓迎した
彼女たちの髪もゆっくりと右へ左へと揺れる
「さぁ来てやったぞ!糞ドラゴン!我が足元にも及ばない貴様にもう一度だけ姿を見せつけてやろうじゃないか!」
「gura…‥‥」
白きドラゴンは小さく唸る、その唸りはまた来たのかと呆れるように感じ取れるものであった
「はぁ、アホな事を言っているリーシャさんはどうでもいいですが…‥すいませんが一本ほどユウゼンギクを頂いても良いですか?」
瞳をドラゴンから離すことなく腰を下ろし一本程摘み取る動作を取る
これで戴くことができればいいんですけど‥‥‥
だがそれを許すはずなく
「garaaxaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!」
ルディアとリーシャは咄嗟に耳を塞ぐがそれでも頭がくらりとするほどの大きな大き過ぎる耳の鼓膜が破けそうになるほどの咆哮だった
「うわー、やっぱりだめですか、もう面倒くさいな」
「活きがいいのは良い事じゃないか!ふーっはっは!やる気がある奴と戦えるなんてどれだけ恵まれたことか!!!」
「どうでもいいですよ、まったく。はー‥‥すいません、ドラゴンさん少しばかり痛い目見るかもしれませんが許してくださいね」
「garaaaarara」
空間が静かになる、誰も喋ることはない
その静けさを象徴するように一つの風が通り抜ける
それが最初の始まりの合図だった
ただの吸血鬼は何もない空間から赤い剣を取り出し、ブンと鋭い音を鳴らしながら一回振り確かめる
ただの魔術使いの少女はこれまた何もない空間から魔術に使い、愛用している杖を取り出し、確かめるようにぎゅっと片手で握りしめる
ドラゴンは低く唸りながら四本脚に力をぐっと入れる、それだけで地面が揺れる、空気が揺れる、世界が揺れる
三人の準備が終えた、それだけで先ほどまでの言葉を放っていた空気なんてものは一切としてなくなり、ひりつく空気が辺りに充満し始める
誰も喋ることができない空気だが、それでも戦いを楽しむものは言葉を放つだろう、寧ろこの空気間を楽しんでいるだろう
だからこそ彼女は続きの始まりの合図を高らかに宣言した
「さぁ!いざもう一度勝負!!」
リーシャは高らかにそう宣言した
夕日の戦いが今まさに始まりの産声を上げた
夕日が差し込んでいる白すぎる大地に金属音、打撃音が響き渡る
リーシャがドラゴンに物理的な打撃を打ち込む、ルディアはそんな暴れまくっているリーシャと被らないように逐一位置を変えながら魔術を叩き込む
だがそれでもドラゴンは鋭い爪で全てを受け流す、口から炎を繰り出しルディアの魔術を消し飛ばす
それは傍から見れば踊っているように見えるだろう、赤い剣と白き鎧が激しく衝突し火花が飛び散る
魔術と全てを無に帰す炎が衝突し綺麗な花火が飛び散る
それは瞼を閉じれば場面が変わる、時計の針が進めば場面が変わる、止まっている時間なんてものはなく、常に戦況は変わり続ける
十秒、二十秒、三十秒と数は重ねられていく
「がぁっ!!」
リーシャが渾身の一撃を叩き込まんと声を上げ、気合を入れ、赤い剣を振り下げる
それとほぼ同時に彼女はその咄嗟の動作に合わせて魔術を放つ
「白き世界!!!!」
ルディアを中心として白い世界は広がっていく、それは花を凍らせ、地面を凍らせ、最後にはドラゴンの四つある両足を凍らせる
一瞬の隙ができたドラゴンにリーシャは剣を叩き込まんとするが
「gaxaxaaaaaaaaaa!!!!」
ドラゴンは吠えた同時に赤い剣が高らかな唸り声を上げさせられた、ドラゴンの尻尾と赤い剣がせめぎ合っていた、火花は塵、赤い剣が削れていく
赤い剣が折れるのも時間の問題だろう
だからこそリーシャはすぐさま距離を取り、既にドラゴンの攻撃範囲から離れていたルディアの隣へと足を下ろした
「満足しましたか?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥‥ふぅ‥‥あぁ身体はもう温まったな」
「息が切れ切れじゃないですか」
「これはただの息吹だ、ドラゴンの近くにいたからな、移った」
ドラゴンが動き出そうと身体をピクリと動かした瞬間にルディアは手を向ける、一歩も動かさせない意志を見せる、ドラゴンはその様子を見て大人しく動作を止める
流れを切ることなくルディアは器用に話を続ける
「は~毎度の如くアホなことを言いますね‥‥‥もう行けますね?」
「あぁへっぽこな魔術使い様、こっちの準備は万端だぜ?」
「頭の可笑しい吸血鬼様いいですか?ここから終わらせに行きますよ、三手です」
「二手は私だな?」
吸血鬼は両手に赤い剣を携える、二本の剣は夕日に照らされて真っ赤に輝く
「かっこいいところは持っていきますからね、後はあげますよ」
「ゴミくずしか残ってないな、まったく!」
リーシャは動き出した、地面を走り抜けて走り抜けてドラゴンの元へと一撃を入れ込まんとする、腕を上げ上段から剣での攻撃を叩き込こもうと動作を見せたところでまた状況が一変する
ドラゴンは既に理解していた、その紅い剣ごときでは自分の身体は傷つくことはない、今警戒するべきなのは吸血鬼ではなく、魔術使いと頭で理解していた
だからこそドラゴンが消えた、文字通りに消えた、それは速度を超えた一閃を放つために、リーシャに一閃を打ち込むために、それはリーシャの身体に穴を開けた攻撃の速度を優に超えていた。戦闘不能にするための一撃、自身のパワーの一端を見せつけるための一撃
それが攻撃態勢に入っていたリーシャに迫る




