ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活7
その昔話は悲惨な物のように感じられた、いや悲惨という言葉がぴったりと当てはまるような昔話だった
勇者を倒し、魔王を倒し、終焉の龍を殺し、最後に自身の両親を殺した、友を失い、仲間を失い、誰もいない地に飛ばされ
殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて…‥‥‥殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて…‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
…
エニュプニオンのそれは拷問と何ら変わらないのではないか?見えないトンネルを、苦痛という名の一歩も前に進みたくないトンネルを永遠と歩かされる、人生という道においてそれほどまでに苦痛を味わう事はないだろう
「…‥‥‥‥‥‥‥。」
「ね?面白くもないお話でしょ」
「…‥‥‥‥‥。」
「糞ったれな主人公がのうのうと生き残っている物語なんですよ…‥‥。糞ったれで面白さなんて物なんてなく、ただ人が死んでいく物語、それが私の人生なんですよ」
吐き捨てるようにルディアは言葉を放った
「‥‥‥‥それでいいの?本当に」
リーシャは思う、それでいいのかと・‥‥彼女自身が既に悲惨な目に合っているのにも関わらず、それでも仲間が死んでいるために自身に向けて槍をさす…‥‥そんな生き様は良いのかと思った。
「それでいいってなんですか?」
「そんな人生でいいのかなって‥‥‥‥‥‥‥ここは糞ったれな世界だよね、欺瞞があり、騙しがあり、殺しがあり、死がある。人に殺されて、人を殺して‥‥‥そんな糞みたいな世界なんだよ。だから知っている人が死ぬかもしれない、仲間が死ぬかもしれない、友人が死ぬかもしれない、家族が死ぬかもしれない、死んで死んで、そのたびにお前は自分を責めるのか?」
「‥‥‥‥えぇ、私は自分を責めますよ、生き残るたびに私は自分の事を責めるでしょうね、人が死んでいくたびに私は自分の事を責めますよ」
「心が壊れてダメになっていくかもしれなくても?戦闘ができないほど、身体が震えるほどに既に摩耗しているのに?仮初の心で覆ってもいつかは確実に壊れるよ」
「じゃあどうすればいいんですか。…‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥私にはもうわかりません。」
絞りだしたような声がルディアの口からでた。それは今にも潰れてしまいそうな声だった。
つらい、悲しい、でもそれでも道が見つからない、助けだして欲しいと懇願するルディアがそこにいた。
枕にされて表情は見えないがそれでも声色だけで落ち込んでいる様子が手に取るようにわかる
狂った人間は好きだが‥‥壊れた人間は嫌いだ、壊れた人間は何も生み出さない、壊れた人間はそれはもうガラクタと同義だ。
だからこそ私は彼女に手を指し伸ばす
リーシャはそんなルディアの様子を手に取り、そんな彼女に合わせるように優しく言葉を切り出す
「もう一度言うよ、ルディア‥‥‥‥私は力はないんだ、前をひたすらに歩き続ける勇気もない、前を歩く技術も、力もない、けれども友達の横を歩く足はある」
言葉を紡ごう
「それに加えてさ、私には腕が二本あるんだ、一本はお姉ちゃんたちの分、お姉ちゃんやヒイロとか私の家族の分、それでね、もう一本はまだ決まって無かったんだ、これまで生きてきた中で」
言葉を紡ごう
リーシャはぎゅっと目の前のルディアを抱きしめる
「私の一本をルディアに使いたいと思ってるんだ、こんな弱い自分でも…‥‥勝ち星なんてものは無いけれども、私は私ができる最善の手を使ってルディアを助けたいと思う」
言葉を続ける
「ルディアが戦闘が怖いというならば私が隣に立って一緒に戦ってやる、死ぬまで戦ってやる、自分のせいで人が死ぬと感じているんならば私がルディアと一緒に救ってやる‥‥‥‥‥ルディアが仲間が殺される呪いでも自身に付いていると感じていて、私が死ぬかもしれないと感じているんならば‥‥それはお角違いだ、だって私は吸血鬼だ。それだけで十分だろ?」
言葉を続ける
「こんな証明無き言葉しか並べられないけども、こんな暴言だけれども…‥‥信じてくれないか。この吸血鬼を‥‥‥‥ほんの少しばかり信じてくれない?」
私が成りたかった、目指すべき人物が折れそうならば手を指し伸ばしたい。だから言葉を紡いだ
リーシャはにやりと不敵に笑う
その様子を見て、ルディアは自身を顧みて、情けなく思う
助けられるばっかりの人生だなと、助けられ続けられているなと
「‥‥‥‥‥‥‥‥どうしてそこまで優しくしてくれるんですか。」
「友達だからかな」
「‥‥‥‥‥‥‥友達でもそこまではしませんよ」
「ルディアだって仲間のために心を殺してるだろうに」
「それとこれとは違いますよ‥‥‥‥‥はぁ~自分の言っている意味わかってますか?」
「理解し、分かってるから口から言葉が出てきているのだよルディアくん」
「その屁理屈しかでない口、本当に縫いますよ」
ルディアの言葉を皮切りにし二人は笑いあった、小さく少女らしく笑いあった。
時刻は夕暮れ時に差し掛かっている、洞窟内にも少しずつだが日の傾きによって日差しが差し込み始めていた
リーシャの傷口も完璧とは言えずとも目で認識できないほどにはは癒えてきていた
「流石吸血鬼ですね」
「ふーっはっはっは!!そうだろう!!そうだろう!!我は吸血鬼だからな!!傷跡が治るのも早かろうに!」
「はいはい」
「これぞ!!我が最強たる所以よ、我こそが最強の吸血鬼よ!」
「ソフィアさんがいるでしょうに・‥‥もう大丈夫そうですね…‥‥‥ではそろそろ帰、どうしたんですか?」
リーシャがルディアの言葉を全て聞き終わる前に立ち上がり、ゆっくりと一歩二歩、三歩と進み洞窟の出口へと進んでいき、くるりと身体をターンさせてルディアの方へと身体を向かせた
そしてルディアに向けて手を出す
その吸血鬼はあったかな日差しを背に手を出していた
その吸血姫はオレンジ色の太陽を背景にして手を出していた
その吸血鬼が一つ優しく言葉を吐いた
「じゃあ行こうか?」
夕暮れの日差しを背にしリーシャはそんなことを口にした
何がとは言わない、何処にとは言わない、何をしに行くかなんてものは言わない
だけどそのぎらついた楽しそうな目は物語っていた、そのぎらついた八重歯は物語っていた、その身体は物語っていた
諦める気はないと、負けたままでは終わるわけがないよなぁ?と
ルディアは一つ思う
あそこまで拒絶し、話、悪態をついたのにも関わらず、彼女は宣言通りに隣を歩いてくれようとしている。
ルディアの心の一つが共鳴するかのように熱くなる。
あぁここで手と取らなかったら人として情けない、ここで取らねば私は一生死ぬ…‥‥歩いてくると宣言してくれた、手を繋いでくれると宣言してくれた。
私はそこまでされて立ち上がらない人間ではない
ルディアはゆっくりと立ち上がる。そしてゆっくりとリーシャの隣へと歩を進める
「リーシャさん、貴方が私に約束してくれたことしっかりと覚えてますか」
「‥‥‥‥‥さぁな」
「おちょくりやがって‥‥はぁ、どうするんですか?」
「な~んにも考えていない!」
「だと思いました、ま、行きながら考えれば良いですよね、さ、て、と、行きましょうか、リーシャさん」
「さ~てお礼参りじゃ!」
二人は夕日に向かって歩き出した
リーシャはちらりと横目ルディアの事を見る
彼女の心は今だに灰色だがそれでも白色に近い灰色だった。淀んでいた色は無くなっていた。




