ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活5
ドラゴンと戦闘ができるなんて中々面白い展開じゃない、ここに来てこんな体験ができるなんて思ってもなかったわ
「さぁ我が剣とお前の武力どちらが上か試そうじゃないか!白き龍よ!」
リーシャは低く滑空しながら吸血鬼の十八番である、深紅の刃、ブラッドソードを展開する
そしてその剣の鋭さを確かめるように二度三度振り、白き鱗に覆われた爬虫類に飛び込んでいく
剣の振り心地は最高、空気を切る音は鈴のように耳に馴染む音だ、ならば問題ないわね
「さぁ!さぁ!さぁ!さぁ!いざいざいざ尋常に参る!!」
ドラゴンは澄んだ青い瞳でリーシャの事を一瞥する、だがその眼には気迫が乗っていなかった、それは元から興味一瞬たりとも抱いていない目だった
…‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
リーシャの深紅の刃とドラゴンの前足が接触する、接触した瞬間に甲高い金属音が鳴り響くとともに、二つの間に発生したエネルギーが空中に溢れででる、それは衝撃波として空中を大いに揺らした、辺りに生えているユウゼンギクも音楽に乗るかのように右へ左へ上下に激しく揺れた
やっぱり力不足ね、でもだからといって攻撃を止めるわけないじゃない
「もう!いちど!」
リーシャはドラゴンの頭に盛大な蹴りを入れる、その蹴りは見事にドラゴンの顎へと綺麗に入り、その上がった頭をすぐさま踵落としでドラゴンの頭を地に伏せさせる、その一連の動きで白いドラゴンの体制が崩れる
そしてその頭を跳び台にしてドラゴンの頭が上がる反動を利用し、上空へと羽ばたき、そして体制を整え切り込みやすいように剣を構える
ぎりぎりぎりと強く歯を食いしばり、全身に巡っている血液を沸騰させるかのごとく自身の全てを乗せる、リーシャの瞳は血液の巡りによって赤い宝石のように色鮮やかになる
その瞳は魔術でもない、能力でもない、ただの気持ちが表にでた現象だった
だがそれは何も持たない彼女の唯一無二の武器だ、恐れを知らず、恐怖を知らず、最強に手を伸ばし続ける姿勢、それに身体が答え、それに魔術が答え、それに気持ちが答える
だからこそ瞳は色鮮やかに輝き続ける
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っ!」
体制は整った、角度も整った、剣は相変わらずに深紅の輝きを見せている、身体も熱を帯びている
リーシャは太陽の光を一心に浴びるか如く黒い翼を広げ、そしてその翼を一回だけ空気を打ち付けるように動かす
その翼の動きによってリーシャの身体は空中にいるにも関わらず異常なほどに速度が増す
それは切り付けるために発射された筒無き紅い弾丸だった
白きドラゴンも目を見張る、生物が出していい速度では無かった、生物という枠組みを超えた速度の一撃
だがそれでもドラゴンも目を見張っただけだ、多少の驚きは見せたが焦りは見せない、恐怖も見せない
二人の視線は交差する、血液が沸騰し深紅に輝かせている瞳と戦闘を意識し始めた大きな大きすぎる空に浮かぶ夜空の色の青い瞳が
そして戦闘がもう一度発生する
深紅の剣がドラゴンに迫る、切り落すために、切り殺すための深紅の一撃
身体を使い、腕を使い、最高の一撃を放った斬撃は風を斬り、音を切り裂きながら白きドラゴンに迫り、そして接触する、そのドラゴンと深紅の刃の邂逅は甲高い金属音を発生させた
「はは、嘘だろ」
自分が出すことのできる最速の一撃だった
「gurararara…‥‥‥」
ドラゴンは静かに唸った、リーシャはびくとも動かない深紅の刃に苦笑いを浮かべる、剣はドラゴンの口にある白き歯によって真剣白刃取りのように止められていた、リーシャが腕に力を入れても前にも後ろにも動く気配は見せなかった
そして剣は悲鳴を上げ始める、きりきりきりと本来の使用用途ならばならないであろう金属音がひしゃげられてれる形で音がなった
その様子を見て瞬時にリーシャはバッと手を放し、距離を取った
二度三度白き花畑を荒らしながら小さなステップを刻み距離を取り、前を向く、それと同時に赤い剣は粉々に砕かれドラゴンの栄養素になるために全てがドラゴンの腹の中へと納まった
その様子を見て、リーシャは苛立ちを含めた舌打ちを小さく奏でる
…‥‥‥‥‥‥‥‥自分の力が情けなく思える
…‥‥‥‥‥‥他と比べて情けなく思える
‥‥‥‥‥何も持っていない自分が情けなく思える
・‥‥何もできない自分が情けなく思えてくる
自分ではやはり力不足ね
瞬時に手をいくつか考えてみるが、誇り高く偉大であり種族上に頂点に立っているドラゴンには太刀打ちできない結果が脳裏から帰ってくる
脳裏で考え事を始めたせいかリーシャの沸騰直前まで茹っていた頭は急速に冷えていき視野が広くなっていく
見えなかったことが見えてくる
ここまでの間、短時間とは戦闘に絡んでこないのは何かしらの理由があるのかと頭の片隅に疑問が浮かぶ
ルディアはどうしている?という疑問が一つ浮かんだ
リーシャはちらりと自身がでてきた草むらの方角を見る
そこには足を小鹿のように震わせ茫然に突っ立ているルディアがいた、一歩も動くことはなく、一歩も動ける様子すらなく、ただただドラゴンの瞳を覗いている少女がいた
リーシャの意識は一瞬だけ、ほんの一瞬だけルディアへ向いてしまった。
異常性があるのならば個人差はあるだろが警戒をしていても生物というものはそちらへと意識を向けてしまうものだ、普遍的に動いているシーンであるがゆえに異常性という物は夜空に浮かぶ月のように目を奪ってしまう
だが拮抗していたはずの試合で”それ”を一瞬でやってしまうと崩れる、油断という甘い蜜を相手に与えてしまうのだから
ドラゴンは見逃さなかった
決して興味が無い相手だとしても危害を加える相手に永遠と後手後手に回り続ける道理はない、筋合いはない、そんな試合運びもない
ドラゴンは決して優しい存在ではない
瞬間目を見張る速さで白きドラゴンは動いた、いや目を見張る時間すらないだろう、瞬きを入れればドラゴンはその場から消えていたのだから
そして目を開けるころにはドラゴンはリーシャが立って居た場所に鎮座していた、ドラゴンの周りに咲いている白き花は所々赤く咲いた、ドラゴンの静かな動きによって作られた風によって右へ左へとゆーっくりとゆーっくりと揺れていた
白きドラゴンは色を嫌ったためかブンと禍々しい音を立てながら自身の尻尾を振り、汚れた付着物を空中へと投げ捨てる、同時に血液も空中を舞った
それと同時に重々しい音、バンという衝撃音、木に何かした打ち付けられた音が鳴った
凄まじい衝撃と共にリーシャは驚きのあまり目を見張った、自身の悲惨な状態に、自身が置かれた状態に、目から情報が入ってくる、それはぽっかりと穴が開いていた、そこにある筈のものが一切そこには無かった、穴を覗いくと強引に削られた臓物とともに後ろの景色が見えた、木の幹である茶色の鱗を覗くことができた
どろりどろりと自身の命の源である物が身体の外へと流れ出ていく
途中から強引に力によって千切れた赤く染まっている臓物が穴の先からずるりと地面へと落ちる
千切れそうになっている自身の肌を伝い、足を赤色にゆっくりと染め上げ、膝へ、足首へ、足元へと粘性があるものが地面へと滴り落ちていく
白色の絨毯が真っ赤に染まっていく
染まっていく範囲は広がっていく、広がって、広がって
「…‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥うぷ、あがぁ」
腹から逆流してきたのかそれとも衝撃によって口の中が盛大に切れたのかは分からない、だが結果として口からも盛大にだが静かに血液が飛び出た
声を発することはできない、声すらもでない
ずるりずるりと木を背もたれし落ちていく、力が入らなかった
力を入れることができなかった
今にも糸のようにしか繋がっていない、千切れそうな身体がずるりと地面へと落ちた
血だまりとなったそこにリーシャは力なく横たわる、粘性のある水の中にべしゃりと物体が落ちる身の毛もよだつ音が一つだけなった
「リ・‥‥‥リーシャさん!!!!!」
彼女の声が聞こえた、彼女の走る姿が見えた




