ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活4
二人はとことことのんびりと歩き続ける、時間が切迫しているわけでもないために景色を堪能しながら歩き続ける
「本当にこっちであってるんですか」
「我は道しるべの神なり、さぁ我に続けぇ!!」
「貴方はどちらかというと悪魔でしょうが」
二人のさくさくと葉っぱを踏む音が二人の世界に響く、その静かな世界を二人は進んでいく
ルディアとルドの間には喋ることなんて特にないため静かにただただ歩は進んでいく、その時間が数分は続く、だがルディアにとってはこの空気間は嫌いではなかった、否定したい気持ちが山々だが、それでも感情は、思考は「居心地はそこまで悪くない」と感じてしまっていた
その感情を頭で理解するとともに苦笑いが表情にでた
「どうした?腹でも下したか?それならば‥‥どうしたもんか…草…むらか?」
「何言ってるんですか、失礼な事を言ってるとぶん殴りますよ」
言葉は荒々しいルディアだがそれでも何処か優しさを隠しきれない声色をしていた
「それにしても何でユウゼンギクの供給が止まったんでしょうね?王族なんだから何か知ってるんじゃないんですか?」
「知らん、その辺りの事はソフィアが担ってるからな、我が手腕はいざという時に輝くのだよ、分かるかねルディアくん」
「知りませんよ、という苦労人ですねソフィアさんは…」
こんな身勝手な妹がいる苦労人のソフィアの事を思い、ルディアは苦笑いを浮かべながら言葉を漏らした
それを見てリーシャは”ふっ”と一つ笑った、それはある意味同意にも見ることができる笑みであった
言葉はそこで途切れた。
「…‥‥‥‥‥なにがどうなって”あんなもの”がいるんですか」
森に無数に生えている大きく地面に生えた草木に身を隠しながら、蟻にも聞こえないほどの声でリーシャに声を伝える
「な…なんで、だろうな、いや、はや‥‥私も初めて見るわね」
リーシャの声はひどく冷静ではあったがそれでも驚愕の感情が乗っていた
二人の綺麗な目には綺麗な花畑が映っていた、山を登り、草木をわけ、たどり着いた”ユウゼンギク”群生地はそれはそれは目を見張るものがあった
そこには白色の世界が広がっていた、木々が結果を張っているかのように周りに佇み、その木々の緑色の結界で形成された城一つでも入るのではないかという開けた地面にこれでもかと自分たちの色を、白色の花たちが、ユウゼンギク達が自信を主張していた
地面の茶色、雑草の緑色、それすらも見せないほどに綺麗な白色が一面に広がっていた。
だがそこには居るはずの無いものがいた
それは大きな、巨大すぎる翼を身体に密着させながら降り立たんでいた
それは大きな体を地面へと下ろし、白色の花たちを白いベットとし扱っていた
それはこの場所の主であると証明するかのように白色の鱗で身体を構成させていた
それは透き通るような青い目を持っていた、それは花にも劣らないほどに綺麗な、綺麗すぎる生き物であった
それを見たものは口を揃えてこのように言うだろう
”ドラゴン”であると
ルディアたちの目の前には誇り高く、気高く、そして希少なドラゴンがいた
「えぇ‥‥なんでこんなところにいるんですか、ソフィアさんから何かしら聞いてないんですか?」
「知らん」
「聞いた私が馬鹿でした、頭空っぽの吸血鬼に聞いたとて帰ってくるのは三文字ですもんね」
「褒めるな、褒めるな、恥ずかしくなるだろう?」
「褒めていませんよ‥‥あーじゃあちょっと頭を揺らしてみてくださいよ」
「?こうか?」
リーシャは言われたとおりに頭をゆっくりと左右に振った
「頭の中でちっさい脳みそが転がってる音がしますね」
「おいこら」
試合のゴングが二人の脳内の間で鳴り響い、二人は拳を合わせて取っ組み合いを始める
腐っても吸血鬼のリーシャと拮抗できるようにただの人間であるルディアは瞬時に筋力上昇の魔術を発動させ、取っ組み合いに持ち込んだ
そのふざけた格好のまま二人の話は進む
「ど、どーするんですか、こんなことしてても…ユウゼンギク…取れませんよ!」
ルディアは力を振り絞っているために声を震わす
「そんなもん…ぱっと取ればいいじゃねぇか」
リーシャも筋力の拮抗によって苦笑いを浮かべながら声を震わせていた
「駄目ですよ、あの…ドラゴンに関しては‥‥寝てるなら、と・も・か・く‥‥起きて…ますから、ドラゴンは縄張り意識が…非常に高いんですよ!」
リーシャは飽きたためか、それとも埒が明かないと判断したためかパっとルディアの手を放す
当然の事ながらルディアは力を逃がす場所を失ったため「うわ」と一つ短い驚きの声を残しながら地面へと突っ込んだ
そんなルディアを横目で見ながらリーシャは話を続ける
「じゃあどうするべきだよ」
ルディアは恨めしそうな目で見ながらも服に付いた泥を払う
「そうですね、交渉ができればいいんですが」
「交渉?」
「そうです、交渉です、一応ドラゴンにも人間と同等の知恵は付いているはずなので言葉を話せなくてもどうにかして意思疎通を取れればユウゼンギクの一本ぐらいは譲ってくるのではと思います」
「ふーむ、交渉か…それにしても知恵の神である我よりドラゴンの生態にやけに詳しいんだな」
ルディアは懐かしいように、懐かしむように呼吸を置いた、そこには悲観のようなものは無かった、ただただ昔の懐かしい記憶を思い出していただけだった
「‥‥‥‥‥‥少しだけ昔、友達に教えてもらっただけですよ、単純に‥‥で?どうしましょうかね?吸血鬼の異能的なものでリーシャさんはドラゴンと意思疎通を取れますか?」
「吸血鬼にそんなものは付いて無い、というかついているんだったら姉がすぐさまに解決しているだろうさ」
「それもそうですよ‥‥だったらそうですね…本当にどうしたもんでしょうか」
「交渉か‥‥交渉、交渉‥‥‥‥‥あ、そっか、我に相応しい交渉術があるじゃないか」
「リーシャさんに相応しい?…‥‥‥‥は?ちょ、ちょっと待ってください、少しだけ待ってください!」
「止められるから待たないね、我は最強の軍神なり!我は天上天下の武人なり!交渉は武力に限る!」
そう言い残し、リーシャは身を潜めていた草むらから自慢の黒い翼を使い低く滑空しながらドラゴンへと急接近する
白いユウゼンギクが滑空で発生した風によって右へ左へ揺れ続ける
ルディアも数秒遅れて草むらからユウゼンギクの花畑へと飛び出す、ルディアは状況を把握するために辺り一帯に目を配る
リーシャは加速を続け接敵するまで後数秒とも掛からないだろう
ドラゴンも既に私たちの存在を認知し戦闘態勢に入っている、戦闘態勢に入る速さから草むらに隠れている時点で私たちの存在は見抜かれて警戒をしていたことのだろうことが容易に予想ができる
これからの戦闘をより円滑に進めるためにルディアはもう一度だけドラゴンの特徴を把握するために目を向けた
だがそこでルディアの瞳と青い瞳と目が合わさる、真っすぐとした青い瞳、だがその瞳の奥には明確な殺意、全てを無に帰す殺意が乗っていた
似たような目を見たことがあった
ケルベロスやリーシャと戦った比のものじゃない、意志が乗っていない目やどこか遊び感覚でもない、あれは、あれは…‥あれは
最悪の敵のような目であった‥‥あの目であった
リーシャがもう接敵する、覚悟を決めないと。
私が動かないと…‥私が動かないと!また友人が死ぬかもしれない‥‥また友人を失う、失ってしまう、何回も何回も何回も何回も、だから、だから、だから、動かないと‥‥‥‥
動けない
痛い思いをするかもしれない、死ぬ恐怖を味わうかもしれない、また何回も何回も殺されるかもしれない、また内臓が、血液が空中を舞うかもしれない
動けなかった
動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け…‥‥‥‥‥動いてよ。
だがその意志に反して身体はピクリとも動かなかった、動けなかった




