ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活3
「さてと準備は出来ましたし、行くとしますか‥‥リーシャさんは大丈夫ですか?」
「っふ、我は天下無双、天上天下唯我独」
鎖を外され動くことを許されたルディアはリーシャに向かってキレッキレのポーズを見せながら話を返すが、そのいつも通りの意味をなしていな言葉を最後まで聞くことなくリーシャの返事にルディアは言葉を重ねる
「はいはい準備できているんですね、‥‥っとそう言えばユウゼンギクというのは何処に生えているんですか?道端とかですかね?」
「流石に道端には生えていないかな、‥‥あー、そうだな、まぁその辺りはリーシャが知ってるんじゃないか?」
「任せたまえ!あぁ任せたまえ。我に不可能なんてなーい!!」
「じゃあ行きますか‥‥あ、アルさん、夕飯ぐらいは任せますよ」
「あいよ、飯ぐらいは任せておけ、このアルさんの腕は世界一だからな」
「何言ってるんですか‥‥っとそろそろ行きましょうか、リーシャさん」
「我の翼を使う時が来たか、我の翼は天にも届く翼だからな、ふーっはっはっはっは!!」
と白色の髪の毛を持った少女と騒がしすぎる少女は店の扉を開けて消えた、そしてその後直ぐに店先が騒がしくなる、それは簡単に予測することができた、ルディアとリーシャが話し合いを始めたのだろうと、店の中にもその話し合いは聞こえてきて、その言い合いは、がやがやと少しだけうるさくなり、そして一瞬の静寂が訪れる
店の中も彼女達の会話に耳を傾けていたため、アル、ルド、アヤノの三人の声という音が一切発生しない空間が出来上がっていた
だがそれも直ぐに壊された、その皮切りになったのがルディアの悲鳴だった
外でルディアの大きすぎる悲鳴が耳に入ったと同時にその声は一瞬でどんどんと遠く離れていった。
「あの子たちも楽しそうね」
ルドが呑気に感想をこぼし、アルもそれに同意するように小さく笑いながら浮かべながら
「あぁそうだな、楽しそうで何よりだよ」
と感想を残した、そして残ったアヤノとルドに向けて「お茶でも飲むか?」と一言かけた
ルディアは扉を開け外へと出る、眩しい光が顔に当たり、暖かい日差しが身体を包み、扉の外に出たのだなと実感させられる
手で日差しを遮りながら、目を日差しに慣れていく
「眩しいですね」
「我の天敵はいつ落ちるんだろうな」
「これが普通なんですから我慢してください、てか日差しを遮ろうとしたら本当に怒りますからね」
ルディアの気配の変わりように少しだけリーシャが慄くが、それを気にしないようにまた口を開く
「はっはっは、そこまで言うんならやらないようにしてやるよ」
「本当にやらないでくださいね・‥‥てかどうしましょうかね」
「どうするって‥‥あぁそうか移動手段か?」
「そうですね、まだまだ時間がありますし、のんびりと歩いて行っても良いんですが」
「それだと日が暮れるぞ」
ばっさりと歩きという移動手段が切り捨てられる
「そうなんですね・‥そうですね・‥‥リーシャさんは飛べるんですよね?だったら」
と言い切る前にルディアの背中にリーシャが回る
「知ってるかルディア、私の翼は姉よりも立派なんだぞ」
「ちょっと待ってください、少し待ちましょう、ね?」
ルディアは極めて冷静に言葉を放っているが、顔からは少しばかりの焦りが見える
これから、このアホ吸血鬼の行動を予想したルディアの横顔に冷や汗が一つゆっくりと流れる
だがそんな様子を気にすることなくリーシャはルディアのお腹に手を回す
「考え直しましょう?一応言いますけど私も飛べますからね?‥‥飛べますからね??‥飛べますよ???ねぇリーシャさん??」
ルディアの言葉を全て左から右へと流し、自慢の太陽すらも飲み込むほどの黒き黒すぎる翼を展開する
それは身体に見合わないほどに巨大であった、具体的に言うであればリーシャの身長と同等程度の大きさをその翼は持っていた
「ふっ、我と一緒に空を蹂躙しに行こう、二人ならば空の覇者になるもの時間の問題だろう、ふーっはっはっはっは!!」
「なりませんよ!なりませんから!話してください!ってか力つっよ」
「口を開いてると舌を噛むぞ?」
と一言、リーシャがルディアに向けて声を掛ける、そのルディアにとってはふざけた問いかけに対して文句を言おうとした瞬間に地面が揺れた。地面がいびきをかいたように断続的ではなくただただ一瞬だけ揺れた
ように見えた、それはリーシャが足に力を溜めこみその力の余波で揺れたのだとルディアはすぐに理解する
そしてルディアは理解する、「あぁ逃げられませんね」と諦めの境地へと至る
「ひっ」
ルディアのか細く短い悲鳴が店前の石畳の道に響く
「さぁ行くぜ?我の能力を貴様に見せつけてやるぞ」
足に溜まった大きな力を開放し目にも止まらない速度で大空へと飛び立った、より一層速度を上げるために大きな自慢な黒い翼をばさりと地面へと向けて叩きつけるように動かす
動かした瞬間にまた格段と、一段とスピードが上がる、スピードは上がり続ける
地面に設置してある物体たちがどんどんと秒数を重ねるごとに小さくなっていく
そして目に入るものすべてが横線のように一瞬だけ映り込んでは消える、目的地へと向かうため国が木々が道が変わっていく
景色は千変万化の如く変わっていくが変わらないものが一つだけある、変わらなかったものはただ一つだった
「あぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
ルディアが恐怖のあまり涙目になりながら、ただただずーっと高い悲鳴を上げていた
国中にルディアの悲鳴は鳴り響いていた
「うぷ・‥‥ひどい目に会いました」
少しだけ涙目になりながらルディアはリーシャに向かって文句を言う
「ふーっはっはっは!最高だな!我こそが最強の吸血鬼よ!!」
「人を運ぶのならばもうちょっと考えてください、スピードとか!!スピードとか、スピードを!!!!」
「っはっはっはっは!」
「こいつめ!いつか必ず魔物の餌にしてやる」
「でだ、探しに行こうか、我が子分よ」
「‥‥‥‥‥‥はぁ、もう怒る気力もありませんし、そこはもう無視しますが‥‥ユウゼンギクはあるんです?こんなところに」
ルディアとリーシャが降り立った場所は山の中腹だった、それは国から少しばかり離れた場所に存在し高く聳え立っている名もなき山である
「ユウゼンギクは高所にしか咲かない花なんだ、それに加えて魔力を蓄えている山でないと繁殖をしないという条件付きだ」
「中々面倒くさい条件下でしか育たないんですね…‥‥あ、本当だ、この山というか土に魔力が含まれていますね」
と自分の足元に存在している土を触り確かめる
その土は微量ながらも魔力を帯びていた、魔力という物は空気中には存在しているのは当たり前の事実なのだが、その魔力という物を物体が持っているのは話が別だ
魔力が入り込めるというのは別に対して珍しい事ではない、万物の物質においてほぼすべての物質は魔力を保有しているだがそれが恒久的かつ魔力をその身で感じられるほどに普遍的に保持しているかは別だ
「で?そのユウゼンギクはどこにあるんですか?」
周りを見渡してもそれらしい花は見当たらない、ルディアとリーシャの目に入るのは凸凹としている岩と道と魔力を持っているただの道と生き生きと外敵なんて物を知らずに育っている幾つもの木々だけだ
緑色と茶色で構成されている山の世界は太陽の光を浴びすくすくと育っている、耳を澄ましてみれば鳥が小さく鳴いていた、鼻で少しばかりあたりを嗅いでみると木々や雑草から得ることのできる青臭さを感じ取れる
一歩でも道を違えば迷ってしまうほどに緑色の景色が続いていた
「我は感じたのだよ、最強の一角がいるのを‥‥だからこそ魔王に挑むのならば歩いていくのが王道だろ?ふーっはっはっは!!これこそロマンよ」
「何言ってるんですか、はぁ」
いつも通りに訳が分からない言葉を掛けられたルディアはため息とともに半眼の呆れた目で見る、だがリーシャは気にする様子を一切見せずにルディアに一言掛けた
「さぁ楽しくしていこうぜ?魔術使い」
そんな不穏なことを言いながら歩き出した、道が分からないルディアはリーシャの半歩、後を歩くという選択肢しかとることができなかった
身長差が似ている小さな少女は緑色の世界をしゃくしゃくと雑草を踏む音を立てながら並んで歩いていく




