ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活2
「はぁ…それでか‥‥てかどうなんだ?ルド?」
「あ~ん~、・‥‥‥あるとは思うけどねぇ」
茶色いロングヘアーの女の子アヤノはある一つの依頼をした、それは花を一つ採取してきて欲しいとのことだった
その花は決して珍しいものではない。その花は決して希少なものではない、繁殖率も悪くはない、ただ一つだけ欠点を上げるのであれば一定の範囲にしか生えておらず。その環境下しか育たない、ただそれだけだ。
そしてその花の利点を挙げるのであれば花の香りを嗅ぐことで微々たるものだが身体的な体調の向上と気力の回復を見込めるものだ
その花の名前は「ユウゼンギク」
その花を使い体調が悪い母親の調子を整えて欲しいという物が依頼だった
「う~ん…体調の度合いにもよるけどね~気持ち的には楽になるんじゃない?」
「回復魔術は‥‥あんまりか、あれは身体的な回復を行うだけだもんな」
「そう、だからこそこの子はその花が必要なんでしょ?まーあれに関しては気休め程度だけどね‥‥でもあれよね、ユウゼンギクって街の方にも流通しているわよね?それを何でこんなポンコツに依頼するの?街で勝った方が安いわよ?絶対」
「‥‥なかったの‥‥どこにも売ってなかった…んです」
彼女から発せられる発音はやはり舌足らずだった、それでも先ほども記したようにその声からは舌足らずの中でも悲壮感が感じ取れた
「売ってない?‥‥ふぅむ何か理由は聞いた?」
「…聞いていない…です」
「そっかーう~ん、なんでだろ」
「何かしらの理由はあるんだろ?私も知らないが‥‥。」
アルの声を皮切りにこの空間は静寂という名前の言葉に占領された、誰も喋ることはなく、リーシャや自分を落ち着かせるためかアヤノがお茶を啜る静かな音だけが魔道具店の中で響き渡る
その瞬間からアルは一つ考え込む
これは‥‥。
アルは瞬時に周りを見渡し、ルド、リーシャ、ルディア、三人の人物の様子を頭に叩き込む
これは戦いだ、負けられない戦いだ。
ルドはユウゼンギクについて、リーシャは‥‥‥顔色を窺っても相変わらずに何を考えているかは分からない、てか考えても分からなそうだから排除していいだろう、てか排除するしかない
現状一番の敵は彼女だ。そうルディアだけだ
ルディアの様子を見るが彼女はすました顔であった、普段と変わらずに、普段通りに生活をしている顔であった、顔だけの色を覗いても深く考えている様子にはみえない、だが顔の裏は思考という名の宇宙を広げているのだろう
何故わかるだって?それは私と彼女は比較的に似通っているからだ。
だからこそアルは瞬時に頭を回し始める
この少女はぱっと見る限りだと金銭面を持っているようには思えない、それに加えここにいる吸血鬼の妹が出会った最初に余り反応をしていないところを見るに貴族系列でもないのだろう…‥‥だったら報酬は見込めないこと容易にはわかる、断るという選択肢も勿論あるが、だがまぁうーん、切実そうに訴えかけられている依頼を断るのも自身の心が締め付けられる
だから”断る”という選択肢がなくなる
だったら次に起こるのは”誰が”この依頼を引き受けるかだ
ルドはまぁ経験上何かしらの理由をつけて断るだろう、それは仕方がない、どうしようもないな
リーシャに関しては…‥‥わからん、いやでも一つだけはあるな
そして押し付けるのであればそう、ルディアだ、このメンツに関してはルディアが一番だ、てか私を除いた場合、ルディアが適任だろう
とここまで思考してみてみたが…そんなふうに考えているけど、ルディアもほぼ同じような思考をしているんだろうな
アルはちらりともう一度、ルディアの顔を一瞬だけ見る、それとほぼ同時にルディアもアルの様子をちらりと見る
二人の視線は交差する、それは刹那の時間だった、それは一秒にも満たない時間だった、だがそれだけの時間だけで二人、ルディアとアルにとっては十分だった、お互いに考えている事が絶対的なものに変わる
そうお互いが相手にどのようにこの明らかに面倒くさそうな依頼を押し付けるかを思考していることが…
ここは先手必勝!
古典的な方法かつルディアが一度引っかかった罠だ、だがこれはまだバレていないだろう、だからこそ使う、使えるもんは使うしかないだろ!
「じゃん」
と提案したところでルディアが待ったをかけた
「じゃんけんは駄目ですよ、アルさん、以前のじゃんけんでズルしましたよね?」
「・‥‥‥‥‥‥‥なんのことだろうな」
不意を突かれてアルの返事はワンテンポ遅れた、それが致命的だった、ルディアにとっては十分の時間だった
「あー!絶対なにかやってたじゃないですか!」
「あー?こいつ、カマかけやがったな!このやろ、バレてなかったのか」
以前のじゃんけんでは魔術使いのルディアにバレないように高度の魔力操作によって魔力が外に溢れ出ないように調節し、なおかつ無詠唱かつ魔術が運用できるごくわずかな魔力で「身体能力の向上(ただし目のみ)」という普段使いしている魔術よりも部位を限定的にすることによって極限まで気づかれないように工夫をした
そこまですることによってインビジブルな魔術というものを完成させた
我ながらほんとうに無駄な事だな
「ズルしてまで勝って嬉しいんですか!?あれですか!?アルさんの身体はズルでできているんですか!?‥‥‥‥‥・はぁ。というかあれですよ、今回のお願いごとに関してはアルさんが適任ですよ、私はユウゼンギクの存在を知りませんし」
「ワタシダッテシラナイヨ」
「ほら吹きの口には魔術がお似合いですよ?」
「あー?口から炎吐いてやろうか」
「突っ込んでやると言ってるんですよ、ドラゴンみたいになってどうするんですか、ちょっとかっこいいんじゃないですか!」
アルとルディアがしょうもない言い合いをしている途中で、おずおずとアヤノのが口を開く
「えっと…えっと、取ってきてくれるん…ですか?」
「ん?あーまーそうだな」
「えーっと、はい、まぁこの中で誰かは取ってきますよ」
ルディアはそんな人任せの言葉を横目でアルの顔を見ながら言ってくる
「良いん‥ですか、本当に」
「ま、いいぜ?断るのも可哀そうだしな‥‥何かしらの報酬を払いたいんだったら、そうだな・‥親子の笑顔でいいぜ?」
「本当にそんなのでいいの?」
幼い少女、アヤノは不思議そうに、だが少しだけ元気に聞いてくる、「そんな簡単なことでいいのか」「依頼を受けてくるのか」と、それを見たアルは一つの笑顔を見せながら幼い少女の頭を優しく撫でながら口を開いた
「いいんだよ、幼い子供のお願いを聞きそれを叶えるのが先を行く者の義務なんだからさ、それにここには暇な奴らがごろごろいるからな、幾らでも使うべきなんだよ」
「一番暇そうな人がいうと説得力が違いますね」
「あー?お前も同類だぞ?自覚した方がいいのではないですか?ルディアさん?」
「あんたら、話が進まないからちゃっちゃと決めちゃいなさいな」
とまた言い合いが始まりそうなところにルドが言葉を放ちストップをかける、そしてアルに自然に今まで考えていた公平であり不公平な一つの案を提案する
全てはアルの手のひらの上だった
「そーだな‥‥‥‥だったらこの依頼者に誰が行くか決めて貰おうぜ?」
そう極めて自然に、ただただ自然に一つの提案をした。
「あーそれはいいわね、それだったら公平なんじゃない?知らないけど」
「んーまぁ、それだったらいいですかね、アヤノさんもそれでいいですか?」
「選んでいいの?」
「まぁどーせ決まりませんし、どうぞ、ぺっと決めちゃってください・‥。まぁアルさんがこの中では適正だと思いますがね」
アヤノはすでに決めていたようにここにいる一人に指を指す、その人物は白色の髪を持った少女だった、そうそれはルディアだった
「私ですか?てか私でいいんですか?アルさんとかではなく?」
ルディアはその解答を見て不思議そうに言葉を返した、何故私なのだ?と、年齢的、身長的に見てもアルやルドが選ばれても不思議じゃないのにも関わらず、悩む素振りを見せることなく一瞬で決めたからこそ、その疑問は当然だった
それに答えるようにアヤノは言葉を返した
「うん、お姉ちゃんがいいの、お姉ちゃんだったらちゃんとやってくれそうだもの」
「うぅ、そんな事言われたた行くしかないじゃないですか。はぁ、じゃあちょっと待っててくださいね、アヤノさん」
とルディアが店の奥に立てかけている自身の杖を持ち、準備を始めたところで未だにルディアの鎖に縛られている人物が声を上げた
「っふ、我を連れていくが良い!この私が!この我が!貴様の腕として働いてやらんこともないぞ!!」
少しの沈黙、それはリーシャに対しての呆れなのかはたまた私について来てくれるのかという一種の驚きなのか、それともその両方だったのか、その感情によってルディアはリーシャの言葉に対して反応が遅れた
「・‥‥普通に「一緒に行きたいの」という言葉が出せないんですかね、全く。良いですよ、ついて来ることを許可してあげますよ」
ルディア返事には少しだけ嫌味が含まれていた、だがそんなルディアだったが彼女の顔には確かに本人は表には出していないだろうが嬉しさという感情が滲み
出ていた




