ただの吸血鬼とただの魔術使い少女の異世界生活
「‥‥‥‥‥‥どーしてですか」
眼前に広がっている背中にルディアが話しかける
「どうしてとは?」
ルディアの膝上で優雅に座っているリーシャが何事かと疑問を口にだす
「どーしてもこーしてもありませんよ、何で貴方は私の膝上に座るんですか」
「っふ、運命という名の神が…いや悪魔が私に囁きかけるのだよ、そこが貴様の運命の地、いづれ神が座る”座”であるってね」
「そのほら吹き悪魔の所在を教えてください、しばき回してそんな冗談言えない口にしてやりますよ」
「ルディアも何言ってるんだよ」
コーヒーを片手に書物に目を落としていたアルが顔をあげ、小さく笑いながらルディアの一言に突っ込みを入れる
「ふーっはっはっは、これからここが我が聖地とする、”ここ”こそが神々にふさわしい地となるだろう!!」
「いやですよ、私の太ももが神々の聖地とか誰得なんですか」
「一部の層というか、一部の神が喜びそうだな」
「アルさん、何言ってるんですか。流石に引きますよ」
ルディアはアルに向けて静かで冷ややかな目を向けていた、それを涼しい顔で肩をすくめながらアルは右から左へと流した
「それにしても王族の妹は暇なんですか?」
最近になってルディアは一つの事に気づいた、この吸血鬼は暇であるという事に
ここ数日は連続してリーシャさんはこの店に足を踏み入れては私や、アルさんとお喋りに興じ、かつ夕飯時は三人で夕食を囲んだりと何かと行動を共にしてきましたが…というか行動を共にしている時点で暇ですよね?
ソフィアさんが一切こちらに来れないというか、国でもあまり見かけないですし…この吸血鬼は何をやってるんでしょうね
「ふーはっはっはっは!!我は惰眠を貪る者!それ即ちベルフェゴールなり!」
「やっぱり、ただのニートじゃないですか」
半眼でリーシャの事を蔑むがリーシャは気にする様子がなかった
「それこそ我が定めであり、我の使命であるからな、どうこう言われても仕方がない」
当たり前だろ?やれやれと口では表現しないが顔と身体で大いに表現するようにリーシャは肩をすくめ首を横に振る
「そんな使命捨ててしまえ」
ルディアは吐き捨てるように言った
「それにしても今日はのんびりとしてるな」
アルは片手に持ったコーヒーを啜りながら言葉を漏らす、その声は言葉通りにゆったりとのんびりとしていた
それに同意をするようにルディアも気が抜けたような声で言葉を漏らした
「えぇ…そうですね~ここまで日差しが降り注いでいると温かくて眠くなりそうですね」
「吸血鬼としては今すぐにでも撃ち落としてやりたいがな!」
「ソフィアさんもリーシャさんもどちらも太陽の真下を歩いているじゃないですか」
「太陽なんかに負けるわけないだろ?」
「無駄だぞ、ルディア、ここに住んでいる吸血鬼はどこかしら狂ってやがるから」
「っは!誉め言葉として受け取っとこうじゃないか、純粋無垢少女よ」
「だ~れが純粋無垢少女だ」
そんな会話が繰り広げられるお昼時、この魔道具店に関しては悲しいことながらただただ穏やかな時間が流れていた、アルとルディア、そしてリーシャの三人が唯々、くだらない会話を続ける、実が熟すことはなく、時間だけが過ぎ去っていくだけの人生を無駄に浪費するだけの時間
だがその時間は三人にとっては居心地が良かった、何も考えることなく、会話に花を咲かせていた
そんな暖かな時間を過ごしていた。
外と店の内側を隔てる扉のドアがゆっくりと開き、この店にとっては珍しい存在、”客”がやってきたことを知らせるベルが甲高い音を立てながら、カランカランと二回ほど鳴った
そのことに気付いた、アルが扉に向かって一言”いらっしゃい”と言葉をかけようとするが、それを遮るように入ってきた人物は声を上げた
「っと?やってるわよね?」
それは三人にとって聞きなれた声だった、それほど高い声でもなく、低い声でもない、だが中世的な声というわけではなく、しっかりとした芯があるような声
その人物は森の香りを身体に纏わりつかして魔道具店へと足を踏み入れた
森の住人、ルドがそこにいた
「あー?なんだよ?一体‥‥てか、ここは居酒屋じゃねーぞ」
「あら?だったら喫茶店だったかしら?」
「魔道具店だ!‥‥はぁちょっと待ってろ、茶を入れてくるから」
「ん~と、それはありがたいんだけど、ちょっと少しだけ待ってて、あ!誰も動かないで頂戴ね」
「は?」
アルが素っ頓狂な声を上げている間にルドは店の外へと足を動かしていた、何故と聞くころには既に店の中にはいなかった
「アルさんの周りって適当な人が多いですよね」
「お前の周りでもあるんだぞ、どうにかしろ」
「あれですよね、周りの人間は自分に似通うとかなんとやら」
「あー?そんなわけないだろ、私は全人類の人間よりも性格が良いと思ってるぜ?」
「・‥‥‥はぁ」
「そのため息でボケを処理するのはやめて」
それから数十秒も立たないうちに扉のドアが開く、ドアが開くと同時にやはりからんからんと扉のベルはなる
そこには当たり前だが何かしらの用事があると外に出て行ったルドが立っており、その後ろに伸びている影の後ろには小さな女の子がいた
小さな女の子は文字通りに小さく、この場にいる四人の中で一番低い身長のルディアとリーシャと比べるとその二人よりも一回り、二回りほど小さい女の子だった
その女の子はルドの後ろに隠れているが瞳からは何処かしら凛とするものを感じ、長く伸びた茶色のロングヘアーは心に芯を一本持ち合わせている雰囲気をその髪に表しているようだった
「あ?お前何しに‥‥ってどこの子だ?‥‥お前まさか、おめで」
「んなわけないでしょ、この子はこのぼろ店の前でうろちょろしてたから事情を聴いてね、それで迷ってたから連れてきたというわけよ」
「あー?なるほど?それはわかったが‥‥自分で言うのも泣けてくるんだがここには面白いもんはないぞ」
「本当に悲しいですね」
「そうね」
「がやどもがうるせぇな…で?」
アルは少女へとぶっきらぼうに話を振る、少々強引だがその中には優しさを含んでいる聞き方だった、子供だから、話が通じないから態度を変えるなどはなく、ただただその少女に要件を聞く、聞いてやるという姿勢を見せていた。
そして話を振られたほんの少しだけおずおずと皆の前に少女は姿を現し口を開く
「えっと、こんにちわ、初めまして。私の名前はアヤノ…です。えっと‥‥‥助けて欲しいんです。」
その声は切実であった、その声は悲壮に満ちていた、その声は悲しみに溢れていた、この場にいる全員はその声を聞きそのように感じ取れた
そのぐらいにその少女、茶色い髪のロングヘアーの女の子であるアヤノの表情はいたたまれない物であった
その様子を見てアルは一つ頭を掻きながら立ち上がり
「はぁ仕方がねぇ、皆のお茶を入れるから待ってろ」
と言い残し面倒くさそうにアルは立ち上がり、お茶を入れにいった
四人が席に座り三人だけがお茶を啜る、相変わらずにルディアの上にリーシャが座っているために飲むことができないでいる
「‥‥‥お茶が飲めないんですが」
「っふ、我がお茶を飲む姿を見れているだけで腹が膨れてるだろう?それが我の能力、グレート・グラト二ーだ」
これまで静かだったリーシャだったが口を開けばいつも通りの言葉が返ってくる。そしてその言葉を聞いたルディアは呆れと怒りが同時にやってくる
「そい!」
ルディアは一つこの狭い空間内でも瞬間的に能力を行使する、現状一番腹立つ相手を絡み取るために、飲めない自分と同じ立場へと引きずり下ろすために
それは刹那の時間だった、誰にも止められない速度であった、そのために何か行動を起こす前に鎖はリーシャを確実に絡めとった
「んな!っちょ」
「さてと話を続けましょ?」
「ルディア?ルディアぁ?なぁルディアこの手に持ったお茶はどうすればいいんだぁ?この一切動けない状況で」
「??だから話を続けましょ?」
「ルディアぁ!私が悪かったからぁ」
アルはそんな二人を苦笑いで見つつ、彼女に会話を振る、何をしにここに来たのか、何を依頼するつもりなのか
「ま…まぁあの二人の事は気にしないでくれ、それで?」
ルディアやリーシャがわちゃわちゃと動いている中、依頼主、幼い少女は落ち着いているようにも思えるほど静かであった、少女の視線から見たら大人の人に囲われているようにも錯覚できる現状にそれでも自分を見失うことなく静かに待っていた、良くできた人間だ。
「えっと、えっと、わかりました」
少女は話を始める




