幕間 吸血鬼の妹リーシャ 情報屋のツバメ2
「ねぇ?ツバメ?」
「はいはい、なんですか?作業にはまだ少しばかり掛かりますよ」
「貴方はこの国についてどう思う?」
ツバメは予想外の言葉を聞いてすぐさまに手を止める
「えっと、それは…」
ちらりと一瞬だけツバメはリーシャの顔を覗く、何かの冗談であれと思うツバメだがリーシャの顔はどこまでも冗談で物事を言う顔とは思えなかった。
‥‥何ですかこれ、何かの拷問でしょうか、何で国王の妹に対して言わなきゃならんのですかい、あれですか?ここでふざけて変な事でも言ったら国に対しての不敬罪にでもなるんでしょかね・‥‥いや、まぁ、はい、すでに国王に色々やらかしてるのでそんなことはあり得ませんが…
それはそれとして、やだなぁ
「え~っと、あ~っと、そう‥ですね」
「ふふ、そんな畏まらないで?素直に、ただ素直に貴方の目から通して見えているこの国に対しての感想が欲しかっただけよ、要は暇つぶし」
「暇つぶしで聞くような話題じゃないですって、はぁ、そうですね‥‥‥真面目に答えるのであれば、成長途中の国ですね」
「つまんない答え」
「え~、じゃあ、こんなのはどうですか…さっきの話の続きですけども”狂っている人間しかいない国”っていう答えはどうです?」
「ふふ、良い答えじゃない。貴方はやればできる子だってお姉さんは信じていたわ」
「そのちんちくりんな体型でそのセリフはどうかと思いますよ、でもお気に召したのであれば良かったです」
「で?どうしてそう思ったのよ」
「あー?理由も聞くんですか?もうこの話は終わりにしましょうよ」
くだらない話が始まると予感したツバメは再び情報を書いていた紙に視線を落とし、作業を再開する
「聞くに決まってるじゃない、質問をしたんだから理由を聞くのは当たり前でしょ?」
「気が狂ってるていう事を説明すればいいですかね?」
「そうね」
「一応前置きだけ置きますが、あくまで私の主観ですからね?」
「いいのよそれで、というか貴方の考えを聞きたいからこそ話題を振ったんだから」
「はぁ、さようですかい・‥‥‥そうですねぇ、先ほども言いましたが吸血鬼が国王の国に住んでいる時点で頭のネジが確実に何本か飛んでいますね」
それもそのはずだ、少数精鋭の吸血鬼が運営する国に住む、それは傍から見た場合において自身から餌になるのと同義だ
忘れがちだが吸血種というものは血を吸う者である、吸血を行うという行為、人、生物という物を餌にするという行為が行われる、行うことができる、力もあり、知性もある、それすなわち生物ピラミッドにおいて頂点の位置に座するもの
だからこそ国に住むという選択肢は気が狂っていないと押せる選択肢ではない
人間は人間に、吸血鬼は吸血鬼に、長寿族は長寿族の国に住むべきだ、何処までも同じ釜に入るべきではない、確実に亀裂は入る
「他の国から見たらそうよね」
「そうですね、客観的に見ればそれは餌箱に見えるでしょうね、この国は」
「良い例えね」
「リーシャさんから見たらそうでしょうね、・‥‥我ながら酷い例えをしましたけど」
自身もこの国に住んでいるので餌の一人なんですけどね
「ま、近しいものには何とやら何なんでしょうね、気が狂いすぎている人間がいるからこそ、寄って来るのでしょうね」
「誰の事?」
「‥‥‥大なり小なり数多の人間ですよ」
「じゃあじゃあ、一番気が狂ってるのはだ~れ?」
その幼き紅き目は何を思って聞いているのだろう、深紅の瞳はどこまでも真っ赤であった、赤く紅い瞳だった、それだけだ
ツバメは一瞬だけリーシャの瞳を覗き込んだ後、すぐさま紙に目を落とし込む
「………‥‥私が関わってる人間は特に気が狂っていると感じています」
「気が狂っていると感じているのに、気が狂っていると考えられているのに、どうして貴方はそれでも関わっているの?」
「はぁ‥‥‥‥‥‥‥‥その方が情報収集しやすいんですよ」
「表でしょ?」
彼女は正解を知っているのだろう、瞳には疑問のぎの文字すら浮かんでいないのだろう、一文字たりとも浮かんでいないのだろう
だがそれでも彼女はツバメに言葉を投げかける
純粋無垢な少女の真似事をするように、純粋無垢とは程遠い位置に存在している彼女が皮を被りながら下らない事を聞いてくる
「………………………………………‥‥楽しいからですよ、楽しくて、楽しくて、楽しくて、楽しくて、楽しいのがやめられないからこそ、楽しいからですよ」
「良いねぇ、良いわねぇ。好きだわ、やっぱり貴方の事が」
「はいはい」
ツバメはさらりと聞き流す
それと同時に全ての記載を終え、最後の一文字を書き終え、子気味良い音を奏でながらペンを置いた
「はい、終わりましたよ。どーぞこれを、あらかたの情報を書いています」
ツバメは一つの紙をリーシャに手渡した、リーシャは一つ紙を受け取り一通り目を通したのち自身のポケットに入れる
「ありがとう、ふふふ、これで楽しみが一つ増えたわ」
「さいですかい」
「これで全部?」
「何故にそんな事を聞くんですかい、情報屋なんですよ?」
「ふ~ん、ま、どうでもいいか、でこれには何が書かれているの?」
「それは見れば分かりますよ」
夜は明けることを今は知らないが、それでも時間は進む、夜明けまではまだ長いがそれでもこの情報屋と吸血鬼の妹の会話は終わりを迎える
月明かりは今なお光り続けていた
「さてとそろそろ時間が良いころ合いなのでお暇しますね」
ツバメは丁寧な仕草でランタンをしまい、帰り支度を済ませる
「えぇ、そうね、時間も頃合いも良い時間帯ね、ふふ、楽しい夜をありがとう」
「吸血鬼に夜を褒められると何か笑えて来ますね‥‥‥‥では」
ツバメは一つ言葉を残して飛び立とうとするが寸前の所でリーシャが強引に止める
「ぐぇ!?」
「待ちなさいよ」
「ちょっと!?強引に止めないでくださいよ!?声を掛けてくれれば止まりますから!」
「ねぇツバメ、最後に一つ、ルディアとの接触はこれからも続けていいのよね?」
「ん?え?あぁはい、別にそこはどうでもいいですよ・‥‥あ!でもあれですよ、私がリーシャさんを吹っかけたという事だけは内緒にしといてくださいね?
本当に土に埋められそうなので」
「一辺どこかのタイミングで埋められれば良いんじゃないかしら?‥‥わかったわ、ありがとう‥‥‥‥さようなら、小鳥さん」
「はいはい、またいつか‥‥‥‥ではでは~」
ツバメは飛んでいく、夜の空を華麗に綺麗に、彼女の意思で風を操り、五感全てで夜の空を浴び続け夜の空へと溶け込んでいく
リーシャはその姿をその深紅の目で姿を見送った
赤い目はツバメが消えるまで目で追い続けた、追い続けて、追い続けて、追い続けた
今回の楽しかった夜は幕を閉じる
だが夜はまた必ず訪れる
楽しい夜はまた訪れる
赤い目の少女、最強に近いが最強では決してない少女はポケットに入れた紙をもう一度月明かりの下、目を通した
けらり、けらりと少女は月の明りの下、笑った
一人で笑った、少女は笑った、吸血鬼は笑った、理性的に、知性的に、聞き分けよく、感情を抑制しながら、楽しい日々を思い浮かべながら、誰にも聞かれる事がなく笑った
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