狂った少女は夜に照らされ静かな笑みを浮かべる11
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うっわ!いきなりどうしたの??」
お天道様が一番高い位置にいる日差しがぎんぎらぎんに降り注ぐ、お昼が少しばかり過ぎた道のど真ん中、ダリアの横でルディアが頭を抱えながら叫んだ
「あそこでパーを出さなければ!!勝ってたんですよ!!ていうかなんでアルさんは珍しくチョキを出すんですか、チョキとか出しにくいじゃないですか、そこは大人しくグーを出しといてくださいよ!アルさんはグーが好きそうな顔してるじゃないですか!!」
「えっと、何が何だかわからないけど、じゃんけんの手で好き嫌いはあまりないと思うんだけど…」
ダリアがそんなルディアの様子を見て苦笑いで言葉を返す
「くっそ、あの引きこもりめ、今頃悠々自適に暮らしているんですよ、あぁあぁあぁ!あの時負けてなかったら、私だってこんなくだらない事には時間使いたくありませんでしたよ」
「・‥‥‥んん?あれ?ちょっと失礼じゃない?・‥‥というか、え?なに?あたしを護衛じゃんけんで決めたの??」
ダリアの言葉を右から左へと流しながらルディアは歩を進める
「で?どこに行くんですか?こんなお昼時に」
「へ?・‥‥あぁ~そうだね、だったら…一番は事件が起こった場所でしょ!」
「じゃあ先ずはそこに行きますか」
ダリアとルディアは歩き出す、ダリアはウキウキで事件があった現場に向かい始める、その後を追いかけるようにルディアはダリアとは対極の位置にある重い足で向かった
お昼時なのにもかかわらず、少しだけ暗く、日が遮られている少しだけ狭い路地にルディアとダリアはいた
「それで何か見つかりましたか?」
ルディアは腕を組み、壁に寄りかかりながらダリアに向かって進捗を聞く、だがそのダリアは首を綺麗な動作で横に振る
「何もないかな…やっぱり時間が経ち過ぎてるのかも」
ダリアはう~んと唸りながら周りを見渡す、それでも特段見つかるものもないのか右へ左へ、うろちょろと明らかに収穫がない動き方をしていた
ルディアはその様子を退屈そうに、ぼぉーっと腕を組みながら眺めていた
時刻は刻々とゆっくりと青い空の下で進み続ける
大通りよりも幾分か細い道、ルディアたちがいる場所にその穏やかな時間を象徴するように逃げ場を求めるかのように風が路地を吹き抜けた、ルディアの銀色の髪が綺麗にゆったりと風に乗りながら風と共にゆったりと踊っているように右へ左へと揺れた
その風にルディアは気持ちよさそうに目を細めつつ、口を小さく開け小さくかみ殺すように欠伸をした
「ふぁぁあ」
それを見たダリアは殺人未遂鬼の手がかりの捜索を一旦切り上げ、ルディアのすぐ横に腰を下ろした
「眠いの?」
「あ~いえ、すいません・‥‥少しだけ気持ちよくて」
「そうだよね、こんな天気だもん、眠くなっちゃうよね‥」
「あ~大丈夫ですよ、一応、警戒を緩めているわけではないので・‥‥まぁ警戒する必要があるのかなと思うほど平和ですが」
「この国って平和だよね」
ゆっくりと柔らかい口調でダリアがルディアに向けて言葉を使う、だがダリアは目を見ずにルディアの目線よりも少しだけ低い位置にある壁にできた比較的新しい傷をぼんやりと眺めながら言葉を放っていた
穏やかな風がまた通り抜ける、火薬のにおいなんても物もなく、火の粉が舞っているにおいなんて物もない、ただただ平和な風が、平和なにおいを乗せてルディアとダリアの鼻をくすぐっていた
「えぇまぁ、欠伸がでるぐらいには現状は平和ですね」
「少しだけ疑問に思ってることがあるんだけど‥‥一つだけあなたに聞いてもいい?」
「ん?何ですか?」
欠伸を相変わらずにかみ殺しながら、気が抜けた様子でルディアは言葉に答える
「じゃあ、一つだけ質問‥‥‥‥あなたはどうしてそんなにやる気がないの?」
芳賀らかな物言いだった、怒りという感情を見せているわけではないだろう
ルディアはちらりとダリアの顔を覗くがその顔は壁を眺めているために綺麗な髪で見えることはなかった
「・‥‥‥‥‥‥」
「あっとね、別段怒るつもりとかはないの!ルディアさんは私がほぼ無理を言って付き合ってくれているからね、ルディアさんには感謝しかないんだけど‥‥何て言えばいいのかな…そうだね、うん、なんでルディアさんはそこまで落ち着いているの?かな?」
「私が?落ち着いている?どういう事ですか?」
「うん、落ち着いている。だってさ、今している仕事って解決したら多くの人が救われる仕事なんだよ?それなのに、護衛っていう仕事だけを全うしていて私の事に興味ないじゃない」
「まぁ、私は探偵の仕事なんて分かりませんからね」
「それでも国を救うっていう仕事なんだよ?英雄になれる可能性がある、多くの人を笑顔にできる・‥‥今その可能性があることをやっているんだよ?‥‥‥‥普通の人間ならワクワクするところ、あなたは平然と落ち着いていてね。それで疑問に思って休憩がてら聞いてみたんだ」
攻めているわけではない、口調は最初から最後まで穏やかだった、声だけ聴いていればそれはただただ疑問を投げられただけだった
職業病…探偵だからでしょうか?・‥‥ここではぐらかす必要性もありませんし、真面目に答えるべきですね
「そうですね‥‥私は英雄なんてものはどうでもいいですし、私の知らない人がどうなったってどうでもいいんです、助ける義理なんてありませんし、助けようとも思わない‥‥‥‥言ってしまえば私は冷たい人間なのかもしれませんね」
寂しそうにルディアは笑みを浮かべる
表の感情では勇者みたいになってみたい、ヒーローみたいになってみたいと心の表面上では助けたいと思っても、裏の感情にある糞みたいな感情が永遠と覗いてくる、心の裏側が存在している‥‥‥心の裏側には助けた場合のメリット、助けなかった場合のデメリット、貰えるもの、助けた相手からの感情というパラメーター、その他諸々。それを勘定してしまう‥‥・
その打算的な思考がどこまでいっても引っ付きまわってくる
だったら最初から救わなければいいじゃないか
そんな感情に襲われるから最初から助けなければいい、助けるにしても私の目の届く範囲で助けるべきだ、それならばメリット、デメリットを考えずに済む…それだったら、それならば、この糞みたいな感情と向き合わずに済む
それに私は人を救えるほどの力は持ち合わせていませんし‥‥もっと力があったのならば‥‥
そこでルディア思考を止めた、これ以上考えても仕方がないと割り切り、思考を現実へと戻す
「‥‥‥‥‥だからですね、だからこそ落ち着いているんですよ‥‥どうでもいいから‥‥‥‥‥‥あっとでもあれですよ、護衛はしっかりやりますよ、任せといてください!」
ダリアは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ笑みを浮かべた気がした
顔は相変わらずにしっかりとは見えない、だからその表情は偽りだったのではないかと思えた
ダリアは体を少しだけ動かし顔を見上げる形でルディアに笑顔を向ける
「‥‥そっか、ごめんね、変な事を聞いちゃって、うん、うん、頼りにしてるよルディアさん!」
「任せといてください」
ルディアも笑顔を見せながら頷いた
穏やかな時間が少しばかり流れる、ルディアとダリアは他愛のないことをあれこれ話した、吸血鬼の国ではこんな食べ物があるだの、特産品はこんなものがあるだの、本当に他愛のないことだった
二人の会話は途絶えることを知らなかった
その会話は感覚的には長く感じられるほどの量であったが、時間的量はあまりにも少量のものだった
話している時間も10分は経っていないだろう
「さてとそろそろ休憩は終わりにするかな」
「もう始めるんですか?」
「そうだね!時間は有限、証拠も有限、やることやっちゃわないとね」
ダリアはお尻についた砂をパッっパと払いながら立ったその瞬間にタイミングよく空中から声がしてきた
「おやおや~最近良く出会いますね~ルディアさん?」
空から声がしたと同時に砂煙一つ立たせることなく地面へと一人の少女が降り立つ
その少女は少しだけ大きめな茶色の帽子を被り、腰に綺麗な鳥の装飾がなされている剣を携えている女性だった
ルディアとダリアの前には情報屋のツバメが降り立っていた
最近はナヒーダのガチャを引きまくっておりました




