狂った少女は夜に照らされ静かな笑みを浮かべる2
ルディアとアルは店の戸締りをし、店前の扉にぶら下がっている看板をcloseにし、店を後にした
店前から離れて、アルとルディアはゆっくりと歩き始める
「何処に行くか決めてるんですか?」
「どーこに行こうかね」
「決めてないんですか」
「風のように、タンポポのようにぶらりぶらりとふらりふらり道を歩くのだって楽しいだろ?」
「楽しいですけど…はぁ、じゃあソフィア地区でも行きますか?」
「良いな、それ‥‥それにしたって名前がダサいな」
「可哀そうな事を言わないでください」
アルとルディアが住んでいる地区は狭いわけではない、むしろ広く広く戦闘をおこなえるほどには道は広く作られていた
だがそれ以上の広さを持つソフィア地区というのがある、ソフィア地区には雑貨屋に食事処、市場に冒険者協会やら、ありとあらゆるものが詰め込み作られた大通りだ、観光の名所とも取れる場所だ
最近まで吸血鬼のお膝元なんて呼ばれていましたが、ヒイロさんがごり押しでソフィア地区に改名したそうです、どんな方法を使ったのか知りたくもありませんが…それで名称の変更の当時は住んでいる住人の反対の声も幾分か上がったようですが、賛成の声の方が圧倒的に多かったようです
まぁ吸血鬼の国に住んでいる時点で良い意味で頭のおかしな人たちが多いのかも知れませんね
ソフィア地区に足を運び入れると、目の前に広がった光景は余りにも雑多に溢れていた、様々な種族に溢れており、様々な店に溢れており、様々な人たちで溢れていた、右を向けば声が聞こえてきて、左を向けばまた声が聞こえてくる、声、声、声、この市場が盛り上がってることが良くわかる
「いやー流石に人が多いですね」
「人がゴミのようだ!フハハハハハ」
「何言ってるんですか‥‥そうだ、アルさん、アルさん、ローブとか帽子とか買いに行きませんか?誰かのせいでボロボロですし」
「はは、聞こえない、聞こえない、聞こえないけどもローブとか帽子とかも必要だし、服を売っている所でも行こうか」
「聞こえてないんだったら、その設定を貫いてくださいよ」
ルディアとアルは人混みを縫うように進んだ、すれ違う生き物、または目に入る生き物には獣人、ウサギ耳、犬耳、馬の耳。獣人よりの人間やら、人間よりの獣人やら、ハーフやら、魚人やら、人間やら、吸血鬼がいた
‥‥‥吸血鬼がいた
ルディアの目にその吸血鬼の姿かたちがすぅーと入る、吸血鬼も静かにルディアの目を覗いていた
その子は普通の人間と姿形は変わらなかった、だがオーラが違う、圧倒的な存在感、周りの人間は気づいていないが‥‥視線を向けられているためにその存在感を否応なく感じ取らされる
だから気づけた、人間ではなく、吸血鬼だ、ということに
その吸血鬼は140後半あるルディアの身長よりも小さく、白色に近い金色の髪の毛に、後頭部には可愛らしいポニーテール、可愛らしい目には赤い目が太陽に照らされて宝石の如く輝いていた
その赤い目でルディアの事を見ていた
「アルさん、アルさん」
前をどんどんと進んでいくアルの手を握り、その歩を強引に止める
「んぁ?どうしたんだよ」
「えーと、あれ」
ルディアはこちらを見ている可愛らしい吸血鬼を指差す
「んー?あ、珍し、外に出てるなんて」
ちょいちょいとアルはその吸血鬼に向けて手を招いた、吸血鬼もそれに気づいたのかトコトコと人を縫って近くに寄ってくる
「よーよー久しぶりだな〜お前が出てくるなんて珍しいこともあるもんだな」
「ふっ、これぞ運命!我が宿敵よ!此方も会えて嬉しいよ」
可愛らしい見た目とは反し、口から漏れ出る言葉の羅列は何とも言い難い”あれ”だった
ギャップがすごいですね
道の端へと寄った私たちは再び話し出す
「えーと、どちら様でしょうか?店とかにも来ていませんよね?」
「そうだな店には来てないな‥‥あー、こいつはソフィアの妹、リーシャだな」
「紹介に預かった吸血鬼、リーシャだ、以後お見知りおきを」
「はぁ、よろしくお願いします?」
「相変わらずに変な喋り方だな」
けらけらとアルが笑いながら話した、その受け答えにリーシャはぷんすかと可愛らしく怒りながら返事を返す
「何を言う!!この言語はかの畏怖される尊厳ある神々しいかの地から伝わるカリスマ性が溢れ出る冷厳ある言語よ!」
「と、このように頭がトチ狂ってる奴なんだ、ただまぁ悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれ」
「はぁ」
「それにしたってどうして引き篭もり気味のお前が一人で外に出てるんだ?」
「‥‥目に余るほどの力を感じ取ったから、並々ならぬ力を感じ取ったから外に出た」
アルは気づかないがリーシャの目はルディアを捉えていた、赤い目はルディアの事を捉えていた
「なんだ、暇だったから外に出たのか」
「ふっ」
「リーシャさんが何を言ってるのか分かるんですか?私にはさっぱり…」
「さぁ?何となくで感じ取って何となくで翻訳してるだけだな、つまりだ、私にも分からん」
「分からんくて良い、感じ取れ、その凡庸な心で感じ取ったものが私の言葉だ、ふはははは」
「そ、そうですか」
二人の距離感が分からずに二歩、三歩と距離を取る
「でだ、我の目に全てを刻むべく我が宿敵が出ている時間より、外界へと我が足を運んだわけだが…」
リーシャが言葉を区切る、そして次の瞬間にはリーシャの片腕には真っ赤な剣が握られており、振り下ろしながらルディアに向かって動きだしていた
「っつ!」
ルディアも一瞬で作り出した氷でできた剣で瞬時に攻撃を受け止める、剣と剣がぶつかり合った瞬間に辺り一帯に甲高い金属音が鳴り響く
その剣を皮切りにソフィア地区の五月蠅すぎる声は一瞬にして静まり返った
「いきなり何なんですか!」
「ふふ、先も言ったろう?我は全てを見る者だ、それすなわち私が戦闘を起こすことによって得られるものだ!!だからこそ私は戦闘を起こす、お前と命の取り合いをしようではないか!」
「本当に何言ってるんですか!」
ルディアとリーシャの攻防は激しく続く、リーシャが一手二手三手と重ねていくごとにルディアも一手二手、三手と剣で剣を防いでいく、防ぐごとに剣と剣が重なり合い甲高い音が鳴り響いていく
ルディアとリーシャを中心として人ごみが掃けていく、だがその人々の顔には恐怖は浮かんでいなかった、いや、恐怖で叫んで逃げ出している人もいたが多くは「またか」とうんざりしている様な表情を、はたまた「これこれ!」と楽しそうな表所を浮かべている人もいる
一瞬の隙をついてルディアは大きく一歩、二歩、三歩と大きく飛び退きアルの隣に立ち訴えた
「ちょっと!!アルさん!?どうにかして止められませんか!?」
「ちょーと無理かな~まぁ周りの被害は押さえておくからさ」
「変な所に気を回す余裕があるんだったら止めてください!!」
「今宵始まる、酔いしれるほどの舞踏会、私と一緒に踊りましょ?」
「今宵でもないですし!踊りたくないですよ!」
吸血鬼である彼女は吸血鬼特有の黒い翼を大きく広げた




