幕間 アルは静かに考える
誰もいない魔道具店の店番をしながら目の前にある本のページを一つめくる
時計の音と共に紙が擦れる音が耳に入ってくる
いつも店番をしてくれているルディアは丁度、買い出しに行っている、そのために残念ながら店の中は私しかいない
誠に残念ながら客もいない
その暇な時間を使いアルは黙々と本のページをめくるが、それは本の文字を頭に入れているだけだった、言ってしまえば本を読むという行為をしているだけだ、本来の本を理解するべく思考は別の場所へと、脳みそは別の事を考えていた
一つ紅茶を口に運ぶ、味を楽しむのではなくただただ喉に潤いを与えるためだけに紅茶を口の中に放り込む
何を考えているのか?というとそれは最近の出来事についてだった
魔道具によって引き起こされた、この魔道具店の二階がはちゃめちゃな一種のダンジョンになる出来事だ
アルは一度、本を机の上へとゆっくりとおき、代わりとなるティーカップを手に持ちそしてその中にタプタプと入っている紅茶を口に運ぶ
ゆっくりとゆっくりと口に紅茶を含みながら、思考を巡らせていく、以前起こった記憶を掘り起こしながら‥‥
魔道具についてはつい先日の出来事だ
丁度朝っぱらから開発を終わらせ、さて試運転をしようか、と胸を高鳴らせながら、小躍りをしながら‥‥魔道具を使用した瞬間から暴走を始めた
まぁ色々あったが、この出来事で不幸中の幸いはシャンタク鳥やらケルベロスやらショゴスやらがこの世界に放たれなくて良かったというところだな、何かの弾みで空間を抜け出し、私の家を抜け出し、国で暴れ始めたらどうなっていたことやら、いや…十中八九、間違いなく絶対的にブチ切れたソフィアと戦うことになっていただろな
あーやだやだ鳥肌たつたつ、”また”あいつと戦う事を考えたら嫌になってくるな
アルは身震いと共に紅茶を口に含む
一人椅子に座ったアルからずずずと紅茶を啜る音が聞こえる、時計の針はその間もこつり、こつりと歩みを進めた
アルはティーカップを机に静かに置き、また思考の渦へと潜り始める
で、これは後日談がある…誰にも、というか言ったところであの場には私とルディアとルドしかいなかったために伝える必要がないから伝えなかったことだが‥‥
魔道具には”一切不備がなかった”
幾ら魔道具を点検しても、幾ら元となっている魔法を見直しても…幾ら魔道具の設計図を見直してもミスは見当たらなかった
だったら考えられるのは魔道具が動作した後が原因という事だ
つまり平行世界、並行世界の干渉がそもそもの原因であり‥‥平行世界、並行世界に干渉を行うことがそもそものタブーであったっと考えられる
だが平行世界、並行世界に干渉すること自体は問題がないはずだ、多分…
異世界人とかこの世界に入り込んでいるらしいし…こっちの世界の人間がバグなのか何なのか分からないが何処かのまた別時空…要するに平行世界へと飛ばされているらしいからな
それは言ってしまえば並行して存在している世界同士がお互いに干渉しているという事だろう…だったら私がすこーしぐらい干渉しても問題ないだろ?
だが干渉をすることによって問題になる物もある
それは同時に平行世界に干渉した場合どうなるのか?だ
例えばだが、二つの意思が一つの世界に干渉を起こした場合、何が起こりだろうか‥‥加えるだけだったらまだ良い、増えるだけだからな
だが例えばだが引く場合はどうだろうか?人物を引き抜く、つまりは自分の世界へと引っ張り込むだな、その際にまずあり得ないだろうが同じ人物をほぼ同時に引き抜いた時にはどのようなことが起こるだろうか?全く同じ人間が二つに増えるのだろうか?
まあ、勿論、並行世界、平行世界というわけだからな同じような人間はいるだろう、性格が似ていたり、容姿が似ていたり、体格が似ていたり、行動理念が似ていたり、はたまたそれを全て合わせ似ていたり……だが完全に細部まで同じような人間はいないはずだ
同じような世界でも全く同じ世界はない、世界は無数にあり、些細な事で枝分かれを続けている
だから全く同じ人間は存在しない、存在しないように世界のシステムが定めている
と…考えると先の問題、全く同じ人間が二つに増えるというものだが…私の答えはNoだ、そもそもがそのようなことが起きないようにストッパーがかかるはずだ
違うかもだけど‥‥多分あってるだろう!
で、だ、また話は戻るが先の考えを踏まえ、ストッパーっていうのは何なんだろうな?と考えると
魔道具の暴走がそれにあたるんじゃないかと思うんだよな…過干渉、この場合は二つ以上かな、二つ以上の存在が平行世界、並行世界に干渉しようとした場合においてストッパーという名の不具合が起きるのではないかと考えられるんだよな
誰かが同じ時刻、はたまた同じ日に平行世界、並行世界に干渉をしていたから魔道具が暴走したと考えると腑に落ちる
アルは紅茶を口に運ぶ、これが最後の一滴
私以外に平行世界、並行世界に干渉できる人物、それが確実にいるはずだ
私が知っている中ではいないはずだ、いや二人ほどいるが一人は最近話した故人だ、もう一人はやりそうにない、というか興味がないだろう
だから私が知らないノーマークな人間のはずだ
「さて、だったら君は一体だれなんだい」
アルの言葉は空中へと消えていった




