世界は無数にあるようです4
アルさんとケルベロスの戦闘が始まる
ケルベロスの背中には深々と赤い剣がぶち刺さっているがそれすら気にせずに動き続ける
少しだけお灸を据える形で何もせずに見ていようかと思ったが可哀そうなのでやめにし、最後の魔術を放つために詠唱を始める
ケルベロスの背中に自身の血液で作成した剣が刺さっている時点で、準備は整っている
ルディアは一つ呼吸を置いた後に、一節一節、音を奏でるように、吟遊詩人が歌を奏でるように、はたまた国の王が民草に威厳ある言葉をかけるように詠唱を始める
「暗き世界にて、世界を創る、汝は血の世界の王なり、汝は全てを統べる王なり、汝は生と死を超えた者なり、汝は生と死の狭間に存在するものなり、汝は不死者の王なり、ならば血の世界の王は汝なり、血は民である、ならば、民は王に従う、民は王に従わせる、王は貴様なり、王は自分なり、王は自分自身なり。」
詠唱を重ねるごとに魔力は形を成していく、溢れ出した余りの魔力は風を生み、ルディアのローブは勢いよくばさりばさりと動きだす
ルディアは一つだけイメージをする、作り出す世界をイメージした
それは槍の世界、無数に槍が内包された世界、誰も住むことができない世界を…
ルディアは最後の一節をゆっくりと口から放った
「さぁ我が意志に従いたまえ、ブラッドワールド」
そして最後の一節を唱え終わりを迎え
それによって魔術は発動する
ケルベロスに深々と刺さっている剣が姿を変え、小さな世界へと変貌する
鉄が打たれたような甲高い音と共にケルベロスの至る所から赤い槍が勢いよく飛び出す、一本、二本、三本、四本と時計の針が進むごとにその数は増えていく、世界はケルベロスを食い散らかすまで止まらなかった、身体を突き破り、頭を突き破り、口を突き破り、眼球を突き破り、脳みそを突き破り、辺り一面に槍を伝って赤い血が滴り落ちていた
槍はケルベロスの身体を突き破り、何十本もの地面へと伸びた槍によって地に足が付かなくなったケルベロスは空中へと身体が浮かんだ、ケルベロスの四つの足は既に動いていなく、だらりと力なく地面へと向いていた
「うわぁ」
その光景を見てアルが一言声を漏らした
「なんですか?」
「いや、えぐいなと思って」
「綺麗じゃないですか」
「はは綺麗か、ま、赤くて綺麗だな‥‥」
ルディアの事を極力怒らせないようにしようと思うアルであった
「さてと、これで回収っと」
アルは目的の魔道具、平行世界の干渉を可能とする鏡のような魔道具を手に持った
「ここで破壊しないんですか?」
「破壊しても良いが、この摩訶不思議なだだっ広い空間が元に戻る、元の位置に戻るっていうことだからな、つまりだ、ここで魔道具を破壊したら私たちがいつも過ごしている部屋に勝手にワープするんではなく、この空間ごと移動させられる可能性があるっていう話、可能性だから、壊して目を開けてみたた次の瞬間にはいつも通りの家に戻っている可能性だってあるがな」
「は~ってことは私って結構危ないことをしたんですね、すいません、軽率な行動でした」
「いや、まぁ、うん」
アルは煮え切らない返事を返した
「‥‥?やっぱりなんかおかしいですよね、私の行動も軽率でいけませんが、そも元凶を辿ればアルさんが魔道具を暴走させなければそもそもこんなことには…」
「ははは、知らね、さ、ルディアの部屋か私の部屋に行こうぜ」
ルディアは呆れながら扉を開ける
「はぁ、ここからまた探すんですか」
ルディアの目の前に広がっている廊下には見分けが付かないほどに同じ扉が幾つも並んでいる
「そうだな………嫌になってくるな」
ルディアとアルは二人短いため息をだし、廊下に歩を進めた
ケルベロスはあくまで魔道具を守っていた番人だ、そのためにケルベロスを倒したところで、見知らぬモンスターは出てくるわけで‥‥
「わぁーー!アルさん!飛んできた液体に触れたローブの先っちょが溶けたんですけど!?」
ルディアのローブが溶かされたり…
「うわっと!あぶねぇ!頭狙ってきやがった!お前攻撃してくるんだったら宣言し…あぁ!!!!私の帽子がぁ!!!」
攻撃を避けた際にアルの帽子が犠牲になったり…
「でかいでかいでかい!近い近い!!てかキモイ!!」
「ちょっとアルさん!!!何か何か!早く!!時間を稼いで!!」
「無茶言うな!!ルディアさん!がんばって!!」
「無茶言わないでください!!アルさんがどうにかしてください!!魔法使いでしょ!?」
「魔法が使えるだけのただの乙女だよ!!」
「魔法が使えれば十分ですよ!!」
「「ひぃーー!!」」
廊下をみっちりと埋め尽くほどの漆黒の玉虫色に光る粘液状生物に追われ続けたり…
散々な目に逢いながら二人の部屋に通じる扉を探し続けた
魔道具店でルドは一人でぽつりと静かに椅子へと座る
アルから貰ったカギを使い、ルドは誰もいない店の中へと侵入し、勝手に入れた紅茶を優雅に当たり前のように飲む
ずずずと静かな音が店の中に響く
誰もいないなんて珍しいわね
ルドはくだらない事を一人心の中で思う
アルがちょくちょく店を開けること多かったが、最近になってルディアが住むようになってからは大体、どちらかはいることが多かっただが、二人とも店を空けるということはないような気がする
ずずずと一人で紅茶を飲む
なんか暇ね
長い長い人生の中でこういう暇な時間が必要なのも分かるが、それはそれとしても暇だ
時計だけが刻々と針を刻み続け、こつこつと音を奏で続ける
そんな静かな時間をゆっくりと紅茶と共に過ごしていたが…それは突如として終わる
どすん、どすん、ばふんと二階が騒がしくなる
「ん!?なに!?え!?」
ルドは確認のために、すぐさま店の二階へと向かい、音が発したであろう部屋を開けた
そこには真っ二つに裂かれた帽子であったり、ルディアが身に着けているローブには焼け焦げた跡や何かに溶かされた跡があり、ボロボロのルディアとアルがいた
「は!?へ!?どうしたの二人とも?」
ルドの口からはもう一度素っ頓狂な声がでる
「「帰ってこれたーーー」」
ぐったりと二人は床へと座り込んだ、そして二人は扉の前の人物に気付き声を掛けた
「あぁ居たんだな、いらっしゃい」
「はぁーーーー疲れたーー、あールドさん、いらしていたんですね」
「あ、はい、お邪魔してたわ…じゃないわよ、え?なんで?何があったらそんなことになるの?」
二人は顔を合わせ、声を合わせた
「「もぉーーはぁーー疲れた」」
「本当にどうしたらそんなことになるのよ…」
ルドの呆れた声と共に二人はぐったりと倒れた
漆黒の玉虫色に光る粘液状生物は「ショゴス」です




