世界は無数にあるようです2
「あぁぁぁぁぁ!ほんっとうに!アルさん恨みますからね!!」
「ごめんって」
ルディアは全速力で永遠と続いている廊下を走り続けた
そのすぐ後ろからは何重にも重なった羽虫のような音が聞こえてくる、それを一つ一つ細やかに聞いていくとそれは先と戦ったシャンタク鳥とやらの羽の音だった
ルディアが走っている理由としてはシャンタク鳥に追われてるからだ
ルディアは攻撃を受けないタイミングを計り、踵よく後ろを向き魔術を放つ
「白き世界!!」
ルディアの口から言葉が放たれると同時に魔術は効果をこの現実に姿を現す
それは氷の世界を作り出す魔術、凍っていない世界を凍らせ幻想的な世界を創る魔術
白き世界はシャンタク鳥を飲み込み、壁を飲み込み、床を飲み込み、ルディアの前方全てを飲み込んだ
だがそれでも限界はある、いくつかのシャンタク鳥は綺麗な彫像と化したがそれでも全てではない
魔術が届かない範囲からまたシャンタク鳥が姿を現す
「「「radaaaaaaaaaaaakaxa!?」」」
意思があるのか分からないがすりガラスをひっかくような声で啼きながら、仲間だった彫像を破壊しながらまた進軍してくる
「あぁあぁあぁキリがないですね!」
またルディアは踵を返し走り出す
壁に引っ付いている扉がすぐさま視界から外れる、窓はなく、扉が定期的に壁に引っ付いている
走り続け、何度も何度も同じような光景が続いていた
だがそれも終わる
真っすぐに続いていた廊下は真っすぐ続くのをやめて、廊下は曲がり角を見せた
後ろからは未だにしつこくシャンタク鳥が追いかけてきているために引き返すこともできない
「挟まれる事だけは勘弁してほしいですね」
ルディアはいつでも魔術を放てるように右腕を突き出しながら曲がり角からバッと姿を現し、目の前の状況を一瞬で目に入れる
曲がり角の先の廊下には二つの影があった、一つは人型、そしてその奥には形状が不安定な巨大な液体状の化け物がいた
どちらも戦闘に入る前に凍らしてしまえ、そうすれば前方の道は開く
ルディアは低い姿勢で魔術を放とうとするが違和感を感じる
人型?
もう一度目線を上げる
それは女性にだった、私よりも少しだけ背が大きくて、私よりも魔力を豊富に持っている、明るい茶色で肩を越し、ある程度の長さを持った綺麗な髪がそこにあり、いつも通りにお気に入りの帽子を被っていた
「アルさん!?」
彼女の名前を呼ぶ、間髪入れずに呼ばれた彼女は振り返る
「はっへ?ルディア?」
だが再開を喜んでいる状況ではない、後ろからは、ばさりばさりとシャンタク鳥の翼の音が鳴り響いていた
「アルさん!後ろの奴らを!」
アルもルディアが追われていることに気付いただろう、瞬時に状況を飲み込む
「だったらルディアは目の前のを対処してくれ」
「分かりました、お願いしますね!」
アルとルディアは交差するように動きだす、ルディアは身体を低くしながらアルはそれに当たらないように二人は位置を入れ替わる
入れ替わった後、ルディアの目の前には廊下を埋め尽くさんとする巨体が目に入った
その巨体には目が無く、腕が無く、足と呼べるものもない、それは時を重ねるごとに脈動していた、それは時を重ねるごとに姿かたちを液体の如く動かしていた
それを言葉で表すんだったら、子供が遊ぶようなスライムのようだった
再生能力持ちなのか、はたまた攻撃をするたびに毒を飛ばしてくるのか、それとも…
目の前の巨大なスライムがどのような物なのか思案する
めんどくさいですね、だったら!何もせずに凍らせれば!!
先まで思案していたものを全て棄て、魔力を瞬時に練り、一つの魔獣を放った
「白き世界!!」
ぴしりと世界が凍る、世界が凍り、廊下が凍り、床が凍り、目的だった巨体のスライムも凍る、全体が凍ったために時を重ねるごとに脈動し続けていた身体は一ミリたりとも動くことは無かった
「はい、終わりですね、一体一だったら困らないんですけどね」
「ほい、お疲れ様‥‥殴らないでね」
いつの間にかシャンタク鳥の翼の音は聞こえなくなっていた
「殴りませんよ、殴って欲しいんでしたら遠慮なく一発腹にぶち込みますがね」
「やめて、本当に痛そうだからやめて」
アルとルディアは扉を開ける
そこは部屋だった、見たことのない部屋だった、いつもの魔道具店にある部屋ではなく、本当に知らない部屋が目の前にあった
「ここは?」
「さぁ?何処なんだろうね‥‥ここにはないな」
ゆっくりと扉を閉め、アルはまた歩き出す、ルディアもその後を追うようにゆっくりと歩き出す
歩きながらルディアは一つアルに尋ねる
「アルさん、今回の騒動を起こしている魔道具って何なんですか?」
「ん?なんだ、興味があるのか?」
「興味はまぁ一応ありますね、私も魔術師の端くれなので」
「そうか、そうだな…今回の魔道具は平行世界の干渉を可能とするものだな」
「平行世界?」
「そう、平行世界、あらゆる可能性、私達とはかけ離れている世界、はたまたあり得た世界だな」
「あり得た世界‥‥」
”あり得た世界”、その言葉を聞いただけでルディアの心はざわめきだす
なぜその言葉が心の平穏を崩したのかは分からない、なぜここまで心が乱れているのかが分からない
心臓の鼓動が早くなっていく、どくん、どくん、どくんと刻むごとに早くなっていった
ルディアは落ち着かせるために一つ静かに深呼吸をした
幾つかの戦闘を行い、幾つかの扉を開けながら来たがことごとく外れた
そして今、また同じようにアルは扉を開けようとした、だがアルはその手を一度止める
ルディアの顔も険しくなる
扉から漏れ出た空気には身を引き締めるほどの緊張感が漂ってきた
同時に今まで感じたことが無かった魔力を感じ取る
「ビンゴ、ここだ」
「ここですね…いやな雰囲気がぴんぴんしますね」
「ぴんぴんって緊張感が抜けるなぁ」
「なーんーでーすーかーー」
「可愛らしいなっと、ルディア?準備はいいか?」
「私はいつでもいいですよ」
「よーし、おーけー、じゃあ行くか」
扉を開け、アルが瞬時に部屋の中へと飛び込む、ルディアもアルに続いて部屋の中へと飛び込む
その空間は余りにも大きかった、やはりというか、いつも通りに普段住んでいる家の中にある部屋ではなく、知らない空間に繋がっていた
その空間の床の材質は土のようだった、現に砂が所々に散らばっている
その空間は全体的に暗かった、だが幾つもの柱に蝋燭が立てかけられており、ほのかな光を放っていた
ほのかな明かりに照らされて、ルディアとアルの対面にいる存在が目に入る
それは頭が三つあった、頭の一つ、一つは凶悪な犬の形をしていた、それは四足歩行の獣だった、それに加え尻尾は意思を持っているような素振りを見せる蛇であり、その大きさは優に大の大人が縦に三人ほど積んだ大きさを持っていた
その化け物はアルとルディアを眺めていた
「冥府の入り口の番犬か…」
「番犬?」
「ケルベロスだな、はぁ…なんでこんなもんが平行世界から来るかねぇ」
「ケルベロスっていうんですね……ケルベロスさん、何もしてきませんね」
ケルベロスは涎を垂らして地面を濡らしているだけだった
「何もしてこないっていうか、警戒してるんだろうな、なんでか知らないが後ろにある魔道具を守っているし」
ルディアはケルベロスの後ろに注視する、そこには綺麗に装飾が施されている一つの鏡があった
「あれが平行世界の干渉を可能にする魔道具ですか?」
「そう、そう、あれ」
「そうですか……そい!」
ルディアはいつの間にか作っていた真っ赤な深紅の色をした赤い剣を魔道具に向けて高速で投げつける
ケルベロスはその剣を尻尾の蛇で地面へと撃ち落す
「garaadddddddaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
そしてその行為を敵対行為と認識したのかケルベロスは大きな前足を力強く前へ踏み込み、大きな大きな口を開け叫び声を放った
「ちょっと!?ルディアさん!?」
「あれ、だめでしたね」
叫び声をあげていたケルベロスの頭の一つが動き出す
その頭の口は大きく開き、口の奥がまぶしいほどに光り輝きはじめ、一瞬光っていた光よりも大きく光り輝いたのに、ケルベロスの頭から大きな大きな炎で構成された光線が飛びだした




