幕間 誰にも語られることがない二人の魔法使いのお話
これはエニュプニオンとの戦闘が終わった間際の時のお話
誰にも語ることはなく、誰にも伝えられることはない、二人の魔法使いの会話の記録
エニュプニオンとの戦闘が終わり、風が私たちに吹いたと思ったら、目の前の場面が変わっていた
そこは真っ白な世界だった、崩壊を始めていた虚数空間に存在した世界ではなく、本当に真っ白な世界
「よ、アル、実際に会うのは初めましてだな、エニュプニオンの戦闘見てたぜ?」
そこには私よりも頭一個分ほど大きい男性が目の前にいた、イケメンというわけでもなく、ガタイが良いわけでもない、パッとしない男性、だけれども取っつきやすい雰囲気を感じ取る
「誰だ?さっき結構な量の魔力を使ったから戦闘とかならもうやめて欲しいんだが」
「ま、落ち着けって、別にお前の事を取って喰おうなんて思っちゃいねえよ」
「あー?そうやってパックリ食うんだろ?私知ってる」
男は微妙な、苦虫を食ったような顔をする
「なーんで、こんな奴が魔法なんて代物使っているんだがね」
魔法という言葉を聞き、アルは態度を改める
「…‥お前、一体何もんだ?」
アルの威圧で空気が一瞬だけピリつく、苛つきではなく警戒の威圧だ
私が魔法を使える事を知ってる奴なんて限られているぞ?
だが男はそんな威圧感を気にする事なく返事を返した
「何もんも何も、ただのルディアの仲間だよ」
「ルディア?の仲間?‥‥。‥‥あぁ、お前がオーローンか」
「あ、わりぃ、名前を伝えてなかったな、そう、俺の名前は!」
「いらん、いらん、知ってる」
「ちょ!最後まで聞いてくれてもいいだろ?」
「いらん情報を増やしたってしょうがないだろ」
「いらん情報って言うな、いらん情報って、まぁいいや、よっこらせ」
オーローンは床に腰を下ろす
「アル、ありがとうな‥‥ルディアを助けてくれて…‥ルディアを救ってくれて」
そしてオーローンは頭を膝に手をつけ頭を下げた
「…気にすんな、私が助けたいと思ったから助けただけだよ」
「それでもお礼を言いたいんだ、ありがとう」
「少しばかり照れるな」
アルは照れ隠しをするようにぽりぽりと頬を掻いた
アルとオーローンはお互いに座りながら話を続ける
「で、ここは?」
「そうだな、言ってしまえば、一種の精神世界だな、お前と俺だけが喋るためだけの空間だよ」
「はーなるほど…まぁ先人の魔法使いと私も喋りたいんだが、ルディアの状態が余りよろしくないからな…そんな喋れないぜ?」
「言葉を選ばなければ気にすんなだな、ここで過ごしても現実…虚数空間か、虚数空間の時間は一ミリたちとも進すまないようにできてるからな、ま、ルディアが心配だろうがちょっとばかしゆっくりしてけ」
アルはきょろきょろと辺りを見渡して状況を把握する
「あ、本当にそうなんだな、こいつ嘘ついてねぇのか、つまんね、エニュプニオンの最後のすかしっぺかと思ったんだけどな」
「すかしっぺとか言うなよ…疑うのはいいけどさ」
「というか本当に優秀なんだな、奇跡的に魔法を唱えただけの奴かと思ったけど、ちゃんと魔術も開発してやがる」
「‥‥?分かるのか?俺が魔法を唱えたのが…」
「分かるさ、本当に時たまだけど偶然、奇跡的に、想いの力、願いの力で魔法を唱える奴がいるんだが、その魔法はやっぱり個人個人の独特なにおい?気配?みたいのがあるんだよ、で、エニュプニオンの空間に訪れた時ににその独特なものを感じ取ってな」
「はーそんなもんがあるのか、知らなかったな、俺たちの時代でさえ魔法なんてものはお伽噺に出てくるものつぅ認識で、現実には存在しないものだったからな」
「だろうな、ま、だけどさっきも言ったが人間、というか生き物が認知していないだけで魔法って結構発動しているもんだぜ?」
「そんなもんなのか」
「そんなもん、お前の魔法も…勝手だが、ある意味偶然にできた産物だと思ってる」
「だろうな、俺もあの時は必至で魔法を放ったからな…‥それにお前みたいにポンポン魔法を放てるわけじゃないからな、論理的には組み上げることは出来るんだがやっぱりどうしても何かしらの破綻がでるんだよぁ」
「論理的に組み上げているだけでも凄いと思うぜ、そこまで上り詰めている魔術師も中々いないし、お前、自分が唱えた魔法についても認識してるだろ?」
「してるが、それがなんだ?」
「魔法を使用したっていう認識があるだけでも凄い事だぜ、その偶然の産物の魔法は大体は認識されずに消えていくからな」
「そうなのか…ただまぁもう放てないがな」
「偶然でも放てたんだ、しかもそれを認識もしてるんだったらもう一度…っとそんなわけにもいかないのか」
オーローンはアルの前に掌を差し出す、アルの身体ははっきりとしているが、オーローンの身体は薄くほんの薄く透けていた
「ま、この世に身体が無いっていうのと、その魔法の触媒に俺の身体とルディアの身体を使い、最後にソフィアっていう最強の吸血鬼の血をふんだんに使って放ったものだからな、再現なんて叶わないな」
「そっか、大変だったな」
「大変か…そうだな大変だったな、でもまぁそれ以上に楽しかったし、唯一残した悔いもない、エニュプニオンはいなくなったし、世界は綺麗に青く今日も回ってるしな」
「そか…‥‥‥‥ていうかそうなると、今のお前の存在って何なの?」
「さぁ?精神体って体よく言ったが…幽霊に近い存在かもな」
「ちょーっと近づかないで貰えますか?うつりそうなので」
「幽霊を菌みたいな扱いをするんじゃねぇよ、うつんねぇよ、むしろお前のアホさが俺に感染しそうだよ」
「お、より一層頭がよくなるじゃねーか、おめでとう、君もこれで立派な魔法使いだ」
「こいつめ、自分がポンポンと魔法を撃てるからって」
「ははは!ま!あ!この世界、いや、この時空最強は!私だからな!」
「一生お前の後ろに背後霊としてついて、一日に一回、足の小指をぶつける呪いをかけるぞ」
「地味にきついのでやめてください」
素直に率直に土下座をアルは披露した
「‥‥‥というかお前エニュプニオンにやられそうになってたじゃねーか」
「仕方ないだろ!?あいつが私の魔法を使ってくるなんて予想外過ぎたんだよ、というかあいつ何なんだよ?」
「…‥知らない、と言うしかないな、俺たちも突発的に飛ばされて突発的に戦う羽目になっただけだからな、あいつに関しての情報なんて一切ないな、素性やら目的やら全く分からん」
「一体何なんだよ、本当に何がしたかったんだ?」
「さぁな、俺はただの人間だから分からねぇな」
「まぁ最強に強くて無敵で美少女な魔法使いの私でも分からないんだ、当然だな」
「うぜー」
「おいやめろ、一言で片づけるな、ルディアだったらころころと笑ってるぞ」
先ほどまでの明るい雰囲気がゆっくりと瓦解していく
「‥‥‥‥‥‥ルディアの事を頼んだぞ」
「頼まれるも、何も、あの子は一人でも歩けるほど強いだろ?まぁ?うちの看板娘だから早々に逃すことはないけど」
「いや、衣食住の心配じゃなくてな、心だな」
「心?」
「そう、心…そうだな最初から話した方がいいかもな」
オーローンは一から虚数空間で起こったことを話し始めた、エニュプニオンとの戦闘で殺され続けたこと、何十時間にも渡って身体をぐちゃぐちゃにされ続けたこと、文字通り死に続けた事をアルに説明をした
「…‥‥‥‥‥。」
「乗り越えられると信じていても酷な事をさせたとは思っている、だからどうか心を癒してほしいんだ、お願いだ、頭を下げるしかできないが、それでも救ってほしい」
「さっきも言ったろ?うちの看板娘だ、ってていうか私がそんな卑劣な奴に見えるか?そんぐらい頼まれなくてもやるよ」
「すまない」
「おうおう、人間、謝られるよりも感謝される方がいいんだぜ?」
「はは、だったらありがとうだな、ありがとう、アル…お前がルディアを救ってくれて本当に良かった」
「おうとも!…‥‥‥ただ…お前がいなけりゃ、私が生まれてなかったかも知れないんだぜ?寧ろこっちが感謝する側だよ、先代の魔法使い」
「魔法使いって言われるとこそばゆいな」
「一回でも魔法を使えば、それは立派な魔法使いだよ…‥‥お前と肩を並べて冒険がしたかったな」
「はは、アルと冒険なんて骨が折れそうだ」
「あー?こんな美少女と冒険できるんだからいいだろ?」
「なーに言ってんだ、苦労の方が絶対堪えないな」
「その方が楽しいだろ?」
「違いねぇな」
その後はアルとオーローンは楽しそうに魔術の話やら、今の世界についてやら、お互いの仲間についてやら、オーローンの家の場所やら、雑談に話を咲かせた
その話もオーローンの一言でピシリと終わる
「おっと、もう時間か」
「なんだ?時間?」
「あぁ、俺は一応、死人だからな、時間制限付きでこの世に生きるお前に会うことが出来てるってもんだ」
「…………ルディアと会わなくていいのか?」
「………わかるだろ?会ったらさ、会ったらさ……お互い悔いが残りそうだからな、それにルディアの中で俺の魂は生き続けてる、だからさ、大丈夫だよ、ま、お前だって男の涙なんて見たくないだろ?」
「‥‥ルディアの仲間だった奴の涙だったら見たいかな、男泣きっていうのを見てさ、それでさ、ルディアと一緒に笑うんだよ、ルディアはさ、きっと「何泣いているんですか、オーローンさん」とか言って一緒になって涙を零すんだ、それを私は笑顔で見続けるんだ」
「はは、そりゃあ楽しそうだな、あぁ本当に楽しそうだな、シャルルとソフィアを合わせてやりたいし、どーせ勇者と魔王は生きてるからそいつらにも会いたいな、綺麗な青い空の下でさ、楽しい冒険だってしたい、あぁ本当に楽しそうだな…だけど、だけどさ、それは叶わない願いだよな」
オーローンは楽しそうに、嬉しそうに話した、されど言葉を続ける毎に声のトーンは落ちていった
「そうだな、叶わない願いだな」
「……………。」
「だけどさ、いつかきっと会えると思うんだよ、会って笑っていっぱい話せる日が来ると思うんだよ」
「はは、そうだな、俺もそう思いたいな‥‥…ルディアの事を任せたぜ?最強の魔法使い」
「あぁ任されたぜ、またな、最初の魔法使い」
二人は拳を突き出し、軽くコツンと合わせた
その瞬間に意識は虚数空間へと戻っていく、意識が飛んだ時間に戻っていく
風がアルの隣を抜けた
アルはひっそりと笑った
これにて夢を見て空を見る少女で語ることは全て語り終えました




