幕間 メイドと魔法使いと英雄と魔法使いのお友達による森の中のお茶会
「ずずず、あ、これ美味しいですね」
森の中央でルディアが紅茶を飲みながら言葉を発する
私たちは今ルドの家の前、空のもとで緑色の景色に囲まれながら白いテーブルに集まって紅茶を飲む
涼しい風が頬を撫で、心地いい風が身体を揺さぶる
外で紅茶を飲むのには良い気候だ
「ずずず、相変わらずに上手いな」
「まだまだね」
ここにはいないソフィアのメイド、ヒイロがお茶を飲みながら感想を残す
「あんた、頭から紅茶をぶちまかれたいの?」
「やれるもんならやってみなさいよ」
ルドとヒイロは火花を散らしながらにらみ合いを続ける
「やめんか、やめんか、なんで主従揃ってお前らは血の気が多いんだよ」
「私が!ソフィア様と似てるって!?アル!!なんて素晴らしい事を言うのよ!!」
「言ってないです、ヒイロさん、アルさんは一言もそんなことは言ってないです」
冷静にルディアはヒイロに言葉を返す
「ていうか、なんでここにヒイロがいるのよ、とうとう首になったの?」
「あぁ?物理的に首を飛ばされたいのかしら?私がソフィア様のメイドを首にされるわけないじゃない、というか首にされたところで絶対にメイド、というか主従関係は強引に続けるわ」
「もう、それは亡霊の類ですね」
「亡霊…いい案ね、あれ、本当にいい案ね、何処へでも着いていけて‥‥私が入れない、トイレ…お風呂…添い寝‥‥ふふふふふ、ルディア!あなた天才ね!」
「ヒイロさん、落ち着いてください」
「あぁ、あぁ、あぁ、素晴らしいわ」
ヒイロは見せられない顔になっている
「変態、やべぇな」
「そうね、ちょっと離れて欲しいかも」
「ははは」
ルディアは乾いた笑いを返した
「そういえば、ルディア、あなたに伝えないといけない事があったわ」
唐突にヒイロは妄想の世界から帰ってくる
「は、え?な、なんですか?何かやりましたか?」
「そんな身構えないで頂戴、別に変なことを言おうとはしてないから」
「おいおいうちのルディアにちょっかい掛けないでくれますか~~」
「そうよ、この可愛らしい生き物になにか文句があるの、可愛らしくない生き物」
「この馬鹿二人に構ってると全然話が進まなくなるわね」
「「誰が馬鹿だ!」」
「あんたら以外に誰がいるのよ、馬鹿だから分からないか!っは!」
「…‥ヒイロさん、話ってなんですか」
話が永遠と始まらなさそうであったためにルディアはおずおずと三人の話を切る
「そうね、馬鹿二人に構ってた私が馬鹿だったわ、ウィルフレッドについてなんだけどね…」
それからヒイロは今、現状のウィルフレッドについて、ウィルフレッドの処遇について話し始めた
「なるほど、ウィルフレッドさんは今そんなことになっているんですね」
ルディアは頭のなかで簡単に整理を始める
私たちと戦っていた記憶がウィルフレッドには無い事
それどころか、ここ一か月あたりの記憶が無いらしい、これに関してはエニュプニオンに操られていたことが容易に分かる
そのためにウィルフレッドの対処において困っており、結局この国の王のソフィアに放り投げられたようだった
ソフィアもソフィアで記憶がない人物をどう罰するかで頭を悩ませているらしく、結局判断をぶん投げ、ルディアに罰を与えるか与えないかの判断を任せたいという有無の話だった
この情報に加え、ウィルフレッドの被害に関しては私たち以外からは報告が上がっていないらしく、結局のところ私たちしか被害を受けていないらしい
「判断ですか…」
「そう、ま、私たちにしか被害を被っていないからできる判断だけどね」
「正直私はどっちでもいいです、ツバメさん、ヒイロさんとかに任せますよ」
「…えぇ、そうなの?貴方結構手ひどくやられていたんじゃない?」
「そうですね、やられましたが…ウィルフレッドさんは現状その時の記憶が無いんですよね、だったらその人に罰を与えたって仕方がありませんよ、それに幸い誰も現状大きな怪我をしていませんからね、だからこそどっちでもいいです」
「そう、うーん困ったわね、ツバメもどうでもいいですよーとかほざいてるし、どうしましょう」
「あ、そういえばツバメさんいないですね」
「誘ったんだがな、なんかあいつ今日はやめときますーって言ってたな」
「自由ですね」
「そうねーあの子は結構自由よね、まぁそこが良いんだけど」
「自由過ぎて困るのよ‥‥はぁどうするのよ、私もウィルフレッドに関してはどうでもいいのよね」
ヒイロがため息一つ言葉を漏らした
「どうでもいいんじゃないんですか?どーせこれ以上悪さなんてできないんですから」
「ま、ルディアがこう言ってるんだ、お咎め無しでも良いんじゃねぇか?」
「考えすぎると禿げるわよ」
「それもそうよね、その辺の有無はソフィア様に伝えておくわ」
話が一区切り終える
ルディアとヒイロ、ルドにアルは紅茶を同時に飲む、暖かな空気が四人の口の中で膨らみ紅茶の風味が口いっぱいに広がる
その味を楽しむように静かな時間を楽しんだ
時計がこつりこつり、こつりと針を進めていく、一秒、二秒と三秒と刻々と時間が過ぎていった
ルディアが口を開く
「そういえば、このお茶会って定期的にやってるんですか?」
「そうねぇ、なんか集まろうってときにやってるかしら」
「適当過ぎるのよ、あんたらわ」
「それは違いない」
「‥‥ソフィアさんもくれば楽しかったでしょうね」
「そうねぇソフィア様もここに連れてきたかったわ」
「うるさいのが一つ増えるだけでしょ」
「はは、違いねぇな」
「ま、あんたら庶民に時間を使えるほどソフィア様は暇じゃないの、ぐーたら生活しているあんたらと違ってね、それに最近なんて本当に忙しいんだから」
「何かあるんですか?」
「何かあるっていうか、事後処理ね、つい数日前かしら?なぜかは知らないんだけど国の近くにいきなり大規模な花畑が出現してね、それによって集まってきた植物型のモンスターやら、昆虫型のモンスターやらの討伐依頼や、花畑の調査やらで冒険者協会との取り決めとかで忙しそうにしてるわ、はぁ超常現象なのか…はたまた誰かの陰謀なのか分からないけど本当に大変そうだったわ」
「あら、花畑なんて素晴らしいじゃない、見たかったわ」
「そうね、綺麗だったわ、色とりどりの花が咲いてて見てるだけで心を奪われたわ、ほんとなーんであんなところに花なんて咲いのかしら?」
「‥‥‥あぁだからね、今、あなたがこのお茶会に参加できている理由はそれね」
「正解、私は事務仕事なんてものは流石に手が出せないからお暇を貰ったわ、ま、他の所でサポートはするけどね」
「あんたのサポートなんて紙ほど役に立たなそうね」
「っは、紅茶もまともに入れられない貴方に言われたくないわね!」
「…………………………」
「……………………‥‥」
アルは全力でヒイロから目をそらし、ルディアは苦笑いを浮かべていた
「ま、そうだな、そろそろ紅茶も無くなったしなそろそろ私たちは帰ろうかな、な!ルディア!」
「え…あぁそうですね、丁度いいかもですね」
「あら、もういいの?お湯を沸かせばおかわりもあるわよ」
「いや、いい、お腹いっぱい、口から水をいれたら目から水が出るくらいにお腹いっぱい、ルディアのお腹もお腹いっぱいだよって囁いているからな、アルさん分かるんだよ、だから帰るわ」
「ははは」
ルディアは乾いた笑いしかでなかった
「あ、待ちなさい、アル」
「…なんだい、ヒイロさん、私は止められても帰るよ?最悪、魔術を使ってでも家に帰るからな、もしくは全てのほとぼりが過ぎるまでルディアとルドを連れて逃避行を決め込むからな」
「何言ってるのか分からないけど、そんなことよりもルディアを探したときに使った端末あるじゃない」
「え?あぁ?これか?」
アルはポケットから魔道具の一つである”人捜し機を取り出してヒイロに見せる
「それよそれ」
「これがどうしたんだよ、欲しくてもあげねぇぞ?これを悪用されたら堪ったもんじゃないしな」
「別にいらないわよ、それよりもそこから私の情報を今すぐに消しなさい」
アルは少しだけ悩むそぶりを見せたが、悩む素振りと見せたかっただけなのかアルはすぐさま口を開く
「い・や・だ」
アルの声と同時に何処からともなく剣がアルに向かって飛んでいった、全ての音を置き去りに、もしくは光すらも置き去りに‥‥そこまでの速度は出てないが、風を纏いながらそれはアルの端末を壊すべく、狙いたがわずに端末に向かった
だがアルは剣が当たる寸前の所で空間の連続性の否定で剣を回避する
そのため剣はそのまま突き進み、アルの背後にあった、立派に育った木にかーんという甲高い音と共に突き刺さった
「あら?当たらなかったわね」
「おい!当たったたら大惨事だろ!」
「一回痛い目を見ればいいんじゃないかしら?」
「あー!たかだか位置情報だけで剣投げる必要ないだろ!」
「貴方に見張られているって思うと腹立たしいのよ!!」
ヒイロから何本もの剣がマジックのように空中から飛び出しては全てがアルに向かって一切の狂いなく飛んでいく
アルもアルで空間の連続性の否定を連続して使用し器用に飛んでくる全ての剣を華麗によけ続ける
その度にかーん、かーんとかーんと甲高い音と共に木々に鋭い剣が突き刺さっていく
「おい!?今の剣!!最悪わき腹が吹っ飛んでいたぞ!?」
「ざーんねん」
一発でも当たれば致命傷になりかねない攻撃をくり出したり、避けたりしながらぎゃいぎゃいと騒いでいる
その姿をのんびりとルディアとアルは眺めていた
ルディアは一つ紅茶を口に運び、飲み込んだ後にルドに話し掛ける
「あれ止めなくていいのですか?」
「まぁ家に被害が出なければいいわよ、止めるの流石にめんどくさいし」
「そうですか、そうですよね」
かーんと甲高い音が耳に入ってくる
「……ルディア、私は貴方に謝らなければならないわ、ごめんなさい」
「え!?い、いきなりどうしたんですか?ルドさんに謝られることなんて何一つもありませんよ??」
アルとヒイロの攻防によって鋭い風が頬を撫でた
「‥‥あなたが大変だった時に私が一切、力を貸せなかったことが申し訳なく思っているのよ…最初に関わっていたにも関わらずに…」
ルドは紅茶に視線を落とす、ルディアからはルドの表情は見えなくなる、だが声は明らかに落ち込んでいた
ルディアはしっかりとルドに視線を向けながら言葉を紡ぎ始めた
「ちょ!ひ…」
自身の本心を伝えるために、伝わらないかもしれないが、だけど、自身の嘘偽りのない本心を伝えるために
「ルドさん…今、私が元気に生きてるのは貴方のおかげなんですよ、貴方に助けなければ私は死んでただけなんです、今の私は貴方にただただ感謝しかないんですよ‥‥だけど、負い目を感じてしまうんでしたら、そうですね‥‥じゃあ一つだけ私のささやかな願いを叶えてくれませんか?」
何度でも木々は剣が突き刺さり音を奏でる
「あんたねぇ!なんでそんな避けるのよ!!」
「えぇ、えぇ、私にできる事だったらなんでも叶えるわよ、そうねぇ、この国の王様を倒してルディアを王様に仕立て上げるぐらいのレベルぐらいだったら叶えられるわ」
リズミカル良く甲高い音が木々によって奏でられた、
「ヒイロさん!?まじでそろそろ刺さるよ!?」
「何処の魔王なんですかそれは、まぁ少しだけ興味がありますがそんな大それたことじゃなくて、私とお友達になってください、そしてまたこうしてお茶を飲んでくれませんか?今度は二人で」
「そんな簡単なことでいいの?」
かーんと木々に剣が何十本と突き刺さる
「刺さる様に投げているもの、どーせ致命傷喰らっても問題ないでしょ?」
「私にとっては大事な事ですので」
ルディアはにっこりと笑う
「痛いもんは痛いからね!?」
「そうね、だったら今度は二人でお洒落なカフェにでも行きましょうか!」
「いいですね!楽しみにしています!!」
ルディアとルドはお互いに笑い合った、未来の楽しい出来事に思いを馳せながらにっこちと朗らかに笑った
彼女たちの顔には曇りなんて無かった、年相応の笑顔を二人は浮かべていた
「ほんッとうにうるさいわね」
「ははは、まぁ元気ですよね」
ルドとルディアは最後の一滴の紅茶を口に入れた、騒がしい人たちとは対照的に落ち着いた様子でアルとヒイロの様子を眺めていた
「へい!二人ともヘルプ!助けて私の大事な友人!!ちょ!あーーーーーーーーーーー!」
それとは裏腹にアルの悲痛すぎる、切羽詰まった声が聞こえてきた
ルディアは苦笑いを浮かべ、ルドは呆れた顔を浮かべていた
四人のお茶会は森にアルの叫び声を響かせて終わりを迎えた




