夢を見て空を見る少女38
夢はいつか覚めるものだ、それは追いかける物かもしれない、それは睡眠時に見る物かも知れない、夢は見るからこそに素敵なものだ
夢の中にいることは幸福だろう、幸せな気分を味わえるから
夢の中にいれば現実を見なくても済むのだから、夢を追っていれば現実を見なくても済むのだから
だけどいつかは現実を見なくてはいけない
夢から覚めた子供は何を思うだろうか?
夢から覚めた子供は…現実を見て何を思うだろうか、打ちひしがれるだろうか?前を向けるのだろうか?
私は向いていて欲しいなと思うよ、前を向いていればいつかは夢が叶うと思うから、思い通りにならなくても近い所には着地できると思うから
だから私は言葉を掛けようと思う、失敗するかも知れない、響かないかも知れない、だけど言葉を掛けるよ
ルディアはぼぉーと服を着始める
私はゆっくりと待った、彼女が支度を終えるのを待った
それを見ながらしくじったと同時に思う
多分、今回の出来事に関してはすぐさま解決する問題だったのかもしれない、問題を何度も死んだところに置いていたのがそもそもの間違いだった
ていうか、あいつがそのことへのカバーをよろしくとか言わなければ・‥‥あいつめーー
言い訳しても仕方ねぇな、多分あいつだって魔法に関しては知識皆無だったはずだし、この情報を知っているのは私だけだしな‥‥
ルディアは服を着て、ぼぉーとしている
「ルディア、ちょいちょい」
ルディアを手招きして、椅子に座らせる
魔術を使用し、掌からルディアの髪に向けて暖かな、緩やかな風を送り出す、白髪の髪は綺麗に風に沿って揺れていく、右へ左へと暖かな風によって水滴を空中に飛ばしながら揺れていく
だいたいなぁ、自分たちの存在のデカさを把握しとけよ、彼女言ったぞ、死んだことなんぞどうでもいいって、どっちかっていうとお前らの方がトラウマになってるじゃねーか、全く、ソフィアが今頃泣いてるよ、無駄だったじゃねーかってな
まぁソフィアの事なんてどうでもいいか
「ほい、乾いたぞ」
「ありがとうございます」
ルディアの声には覇気が一切なく、感情も乗っていない
さてとうだうだ言ってても仕方ないしな、行動に移そうか
「ルディア、少しだけデートをしようぜ?」
アルはルディアの手を握り、外に連れ出す
まだ雨が降っているが関係ない、どーせ飛ぶんだから
アルは連続性の否定を使い、ルディアと共に空間上をジャンプする
一瞬の視界の暗転の後、すぐさま視界は晴れる
「なんで…ここなんですか」
ルディアはぽつりと呟く
飛んだ先は、オーローン、ルディア、ソフィアの三人が住んでいた…月日を重ねていた家の室内だった
手入れなんてされていないが、魔術によって保存されているために埃などは一切ない
「知ってるからだよ、400年前の出来事を」
「‥‥‥‥‥‥ここに連れてくる意味が分かりません」
「ま、ここが一番かなと思ったんだよ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「ルディア、私は答えを持っているって言ったよな、最初に答えだけを言っておくよ、”前を向いて笑顔で生きやがれ”だ」
「‥‥‥‥‥‥貴方に何が‥‥」
「あぁ、なんも分からないな、ルディアの心の傷なんて一切分からない」
「じゃあなんで!無責任に生きろって!」
「願った人がいたから、私は口にしてるんだよ…まぁ私もルディアには元気でいて欲しいとは思ってるがな」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「そう、願った人がいるんだよ、ていうか本人の口から聞いた、全く自分の口から言いやがれよな」
「笑えませんよ、何も笑いませんよ、一つも笑えません、あの二人がいない世界でどうやって笑えばいいんですか!あの二人が守った世界なんですよ!!なんで!!あの二人がいないんですか!!!」
「そうだな、いないな、オーローンとシャルルはもうこの世界にはいない」
「だから!!私が生きている意味なんて…ないんですよ」
「あるよ、生きるっていう大事な意味が……あの二人が無意識化で願ったんだから」
「‥‥‥‥‥」
「青い空っていう魔法だっけか?あれの解析を行ったんだよ、気になったからな」
「………‥‥‥‥」
「あれには三つの効果が乗っていた、一つがエニュプニオンの封印、まぁ当たり前だな、それが本筋の魔法なんだから、ただここからだ、二つ目がエニュプニオンを超える者が現れた時に魔法が解除されるっていう効果、最後にルディアを再構築する効果、オーローンの奴はあんまし効果に関しては把握していなかったようだけどね」
「だから…なんなんですか」
「魔法ってさ、作るやつによって効果が左右するんだよ、まぁ使い手が余りいないから憶測の域をでないけどな、そんなことはどうでもいいんだが、でだ、青い空っていう魔法は二つの余分な効果が乗っていた」
アルは続ける
「前者の効果がメインなんだろうけども、後者の二つの効果は普通に考えて余計だよな、封印しているんだから解く必要なんていらないしな、そも虚数空間に幽閉されているんだから解かなければ半永久的に封印されるんだよ」
アルは続ける
「だけど、オーローンは付け足したんだ、後者二つの効果を、心の奥底にあった無意識化の願いである、ルディアに青い空を見て欲しいっていう願いを込めて、これまで大変な思いをしたから未来では笑って欲しいっていう、自身の夢を乗せてな」
「だとしても、私は」
「笑えないってか……でも、だからこそさ、ルディア、一緒に笑う事をしようぜ?」
「………」
「一人で抱え込む必要なんてないし、一人で笑え、なんて言わない、一緒に笑ってやる、辛い記憶がフラッシュバックするんだったらそれを上回る楽しい出来事をしよう!そのために魔法があるんだから、楽しい記憶に塗り替えてやるなんて言わない、オーローンとシャルルに失礼だからな、だけどさ、思い出は幾らでも積み重ねてやる、この青い空の下で」
「……………」
「ルディア、二人のことを悔やんでいるんだったら笑ってやれ、意思を継いでやれ、最後の魔法の意思に沿ってやれ、生き物は生き返る事はでき無いけれども、”意思”を未来へと持っていってやる事はできるんだよ」
「…………」
「綺麗事なんてのは分かっているさ、だけど私は最強で美少女で魔法使いのアルさんだぜ?綺麗事でもなんでも叶えてやるよ!」
アルはルディアに向かって手を差し伸べる
「絶対に後悔させない未来に連れていってやる、笑える未来に連れていってやる、夢のような世界に連れていってやる、だから!笑おうぜ!笑って!笑って!笑って!笑顔になるような未来を積み重ねていこうぜ」
アルは高らかなテンションで言葉を続ける
「それでさ、次にオーローンやシャルルにあった時にさ、笑顔で楽しい人生でしたよって言ってやれ!そしたらあいつらも笑顔でどんな人生を送ってきたんだって言ってくれるよ、絶対に、だってあいつらは英雄なんだから」
だって魔法がそう言ってるんだから
「…・‥‥‥‥‥‥」
「……………‥‥‥」
「…・‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「…・‥‥‥‥‥」
ルディアは口を開く、その眼は虚空を見つめていなかった、光が宿り、アルを捉えていた
「なんでアルさんはそこまでしてくれるんですか……」
「私がルディアの事が好きだからだよ………友達だって思ってるからだよ、一緒に笑いたいって思えるからずっと手を差し伸べられるんだよ」
不本意だけど依頼もされてるからな
「何処かのタイミングで恐怖のあまり叫ぶかもしれませんよ」
「頭を撫でてやろう〜」
「また泣くかもしれませんよ」
「その時は一緒にお風呂に入ろう」
「夜、うなされて五月蝿いかもですよ」
「一晩でも二晩でも手を握っておいてやるよ、安心して寝れるように私が隣にいてやるよ」
「オーローンさんと、シャルルさんとの思い出と比べるかもしれませんよ」
「比べろ、比べろ、定期的に思い出してやれ、そしてその時の思い出をこんな事があったんですよとか言って私に教えてくれ、一緒に笑ってやるからさ」
「今から沢山泣くかもですよ」
「いーよ、いーよ、幾らでも泣けよ、私の胸を幾らでも貸してやるよ」
ルディアはアルの手を取る
アルはそっとゆっくりと乗せられた手を自身に向けて引き、ルディアを抱き寄せる
ぽんぽんとルディアの頭を撫でた
ゆっくりとゆっくりとルディアの頭を撫で続けた
ぽろぽろとルディアの目から涙が溢れ出してくる
「あぁあぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあ」
溜め込んでいたものが溢れ出す、ぐちゃぐちゃになっていた感情が口から溢れ出していく
止めどなく、止めることなく泣き続ける
泣くことによって、壊れていった心は埋まっていく、泣くことによって心は正常に戻っていく
合えない人との暫しのお別れを含みながら、涙を流した
ルディアは声が枯れるまで泣き続けた
外の雨は少しだけ収まりを見せていた




