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[主人公たち!]  作者: 狼の野郎
前日譚 夢を見て空を見る少女 
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夢を見て空を見る少女37

ツバメさんが来た日から一週間ほどが経った


あれから症状は徐々に回復していき、外出もできるようになった


嬉しい事です、アルさんに任せっぱなしだと悪いですしね


帰った後に吐いた


食事も普通に喉は通るようになり、胃に貯めることも可能になった


美味しいものを食べると嬉しい気持ちにないますしね


食べ終えた後に吐いた


夜にはしっかりと目をつぶることができた


だけど脳はずっと起きていた、あれから夢なんてものは見れていない


いや‥‥いっその事この現実自体が夢であればいいと思った、こんな悪い夢から覚めてオーローンさんとシャルルさんと笑いながらピクニックがしたいんだ


・‥‥‥‥‥悪い夢だったら良かったな



心は渦巻き、もやもやが永遠と溜まっていく、心が晴れることなんてなく、軽くなることなんてない


最近では表情がその場の会話に合っているのかさえ自分自身で分からなくなっている


私の心は一体どこにあるんだろう


私の心は今…何を感じているんだろう、悲しい?嬉しい?楽しい?哀しい?どれが正しい気持ちなのか分からない


もう私はどうすればいい?




ルドの家でソフィアたちと話し合った日からかれこれ一週間ほどが経過した


早く行動を始めたほうが良いと思ったが、準備などをしている間に一週間が経っていた


今日は生憎の雲模様からの雨模様だ


最近になってルディアは外出ができるようになった、今日はルディアには買い出しに行ってもらっている、正確に言うと私が行こうとしたんだがルディアが譲らなかったから行って貰った


余り今の状態で外に出て欲しくはないのだが、ルディアの意思を尊重するしかない、私に彼女を縛り付ける権利はない‥‥‥‥


だけど心配は心配だ、彼女の心は今ひどく不安定な状態だ、何もなければいいのだが・‥‥


でもなぁ止めれば良かったかな〜


無理してでも止めるべきだったかなぁ〜


アルが黙々と悩んでいる間も雨がぽつりぽつりと勢いよく地面を濡らしていく


「傘、持ったかなぁ」


ぽつりとアルは誰に聞かれるわけでもなく、ぼぉーと机に肘を付けながら気怠そうに呟いた


ふっと窓に目を向ける


外の景色は太陽なんてものは一切見せずにただただ灰色の曇と雨と、人々が生活している暖かな光で景色が構成されていた


彼女が守った世界は回っている


世界は刻々と過ぎていく、時間が刻々と過ぎていく


ルディアは雨の中未だに帰ってこない




あれから数時間が経った


だがルディアは帰ってこなかった


いつもならばそこまで時間を掛けずに帰ってくる彼女が未だに帰ってこない


「…‥‥‥‥」


アルは傘を持ち外に出る


ばっと勢いよく外にでたアルは周りを見渡す、ルディアがどちらにいったのを考えながら行く方向をある程度決める


走りだそうとしたところで目に情報が入ってくる


いた


彼女が店の前の道にいた


雨に打たれながらぽつりと立っていた


彼女はアルに気付く、そして平然に、何事も無かったかのように口を開いた


「あれ?アルさんどうしたんですか?」


「どうしたって…」


彼女の髪は完全に濡れ、髪は頬にべっとりとくっついている


彼女の服はびっしょりと濡れ、下着は透け、体のラインがくっきりと見えるほどにぴっしりと引っ付いていた


それだけでこの雨の中に長時間いたことが窺い知れる


買い物袋は水が溢れ続けている、買ってきたものは雨水でおぼれているのが容易に想像がつく


アルに話し掛けられたがそれでも彼女、ルディアの目にはアルは移り込んでいなかった、彼女は虚空を見つめていた


「ルディアが帰ってこなかったから…‥」


「私が?心配を掛けちゃいましたね」


にっこりと笑顔で笑いかけてくる


今の状況は笑う場面ではない、笑える場面ではない


彼女の目は濁る


「…‥寒くないのか?」


「寒いってなんですか?」


「いや、雨が…」


「あぁ‥‥‥雨降っていたんですね」


ルディアは手を天に向けて雨が降ってきている感覚を確かめる、だがその確かめるという行為が必要が無いぐらいに瞬間的に雨は手に溜まる


雨は目に映るほどに大量に降っているのだから


ざーざーと耳にも雨の音は入り込んでくる


「あ、本当に降ってた」


「私が嘘をついていたってか」


「そうですね、アルさんってすぐ適当な嘘をつくじゃないですか」


「流石にここまで面白くもない冗談は吐かねぇよ……‥」


話している間も雨は降り続ける


「なんだか、分からなくなっちゃいました」


「‥‥‥‥‥‥‥」


「夢と現実の区別って一体何なんでしょうね?今なら現実夢想教がはやる理由がわかりますね、皆、夢を見たいんですよね、幸せな夢を…‥‥」


アルはゆっくりと近づき傘の中にルディアを入れた


「今、私が幸せの夢を見たらきっと、そこにはオーローンさんがいて、シャルルさんがいるんですよ、それで平和な国でみんなでピクニックをしているんです、青い空の下で‥‥」


「そこに私はいないのか?」


「ふふふ、そうですね、アルさんとルドさん、ヒイロさん、ツバメさん、ソフィアさんもいますよ、きっと」


「そうか‥‥ま、こんなところで立ち話も何だし、ルディア、一回家に帰えってお風呂に入ろう」


「お風呂ですか…お風呂に入ったら何か変わりますか、この悪夢は終わりますか??」


「悪夢‥‥」


「そう、悪夢です、この世界は悪夢です、あははは!そうですよ!オーローンさん、ソフィアさんが守った世界なのにあの二人はいないんです!!訳が分からない!!なんで!!!なんで!!!!私が!!!生きてるんですか‥‥なんであの二人は生きていないんですか……‥なんで私だけが‥‥」


アルは何も呟かなかった


雨だけが降り続いていた、雨だけが二人の会話を引き続けていた


雨は一際強くなる一方だ


アルはルディアの手をぎゅっと握った、その手は異様に冷たかった


アルの行為に驚くなどの様子など見せずに。ルディアの目は虚空を見つめ、その眼は死んでいた、ルディアは表情を取り繕わなかった


アルは優しくルディアを家の中へと引っ張った






暖かな湯気が風呂の中から湧き上がっていた


アルとルディアの二人は暖かな湯の中で肩を沈める、決して広くはないお風呂に二人が身を寄せ合って入っているためにお湯は外へと溢れ出た


ちゃぽんと水の音が跳ねた、アルの目の前にはルディアの肌色の肩と白髪の頭が見える


お互い決して目を合わさなかった、顔を合わせなかった


家に帰ってから二人の間に会話はなかった


アルから話し掛けることもなく、ルディアから話し掛けるわけでもない


どちらも唯々静かにお風呂の中に一緒に入っていた


水の音が二三回聞こえた後に唐突にルディアは声を発する


「フラッシュバックするんです」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「死んだときの記憶がふとした瞬間にフラッシュバックして‥‥虚数空間の記憶が掘り起こされるんです‥‥」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


アルは静かに聞く


「死んだときの記憶なんて事が既に過ぎたことですからどうでもいいんですよ‥‥・‥だけどその度に虚数空間でオーローンさんとシャルルさんに助けられた記憶も思い出すんです」


「…‥‥‥‥‥‥‥‥」


ちゃぽんと水がなる、その音は髪から滴る水がお湯に落ちることによって発生した音だったのだろうか


はたまた、ルディアの瞳から流れ落ちた水滴がお湯に落ちて、発生した音だったのだろうか


表情が見えないから分からない


「それに伴って400年前の思い出もどんどんと溢れてくるんです、楽しかった記憶が…‥‥‥」


「‥‥‥‥‥」


「忘れようとしても‥‥忘れられない‥‥‥思い出す、その度に私が今生きている理由が分からなくなる」


「‥‥・‥‥‥」


「あの二人が今生きていないのに・‥‥私だけが生きている」


「………‥‥‥」


「私という存在に反吐が出る、弱い自分に反吐がでる」


「…‥‥‥‥」


「なんで私だけが生きているんでしょうね‥‥」


静かに静かに水面がゆっくりと波紋を立てる


アルはルディアの事を後ろからぎゅっと優しく抱きしめる


互いが服を一切着ていない裸の為か心臓の鼓動が良く聞こえてくる、とくんとくんと鼓動のリズムが流れてくる


ルディアの鼓動がなり、アルの鼓動がなる、一定間隔のためにお互いの鼓動は一生重ならない


アルはルディアを落ち着かせるためにゆっくりとゆっくりと長い時間抱きしめていた


そうしてようやくアルは一言声を発した


「ルディア、その答えを私は持っているよ」

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