夢を見て空を見る少女34
三十秒経った
ルディアを二つにしようとしていた鎌はけたたましい音を立てながら、火花を散らしながら空間を揺るがしながら途中で止まった
止めたのはローブを着た少女だった、それは赤い剣だった
ルディアと鎌を隔てるようにアルが赤い剣で止めている
「ありがとな、ルディア、おかげで魔法が放てるようになったよ」
「はい…良かったです」
力なくルディアは返事を返した
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アルは気合で剣を振るい、鎌をはじき返す
エニュプニオンは瞬時に「空間の連続性の否定」を使い距離をとった
「「お前、何をする気だ」」
「てめぇを殺すだけだよ、ただそれだけだよ」
「「お前の技を奪った私を殺す?…最悪逃げるだけよ、余りいい気分ではないけどね」」
「だろうね、生物の本能に従うだけだよな、だから私一人だけの力じゃ今回はどうにもならなかったな」
「「お前らと同列に語るな、私は私だ、勝手に隣に立つな」」
「そうか、ま、お前がどんな存在なのか一ミリたりとも興味が無いが…一応最後に聞いといてやるよ」
静かにアルは問う
「てめぇがこれ以上私たちに手を出さないのであれば私は手を引いてやるよ、見逃してやる」
「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」」
エニュプニオンは狂ったように笑う、笑った
馬鹿にするように、嘲笑うかのように
「「手を引く?ハハハ!私が!?この私が!?手を引くだって!?馬鹿なの!?こんなに楽しいことから手を引けって!?私よりも弱いお前が私に!?指図するって!?」」
エニュプニオンは続けた
先ほどの雰囲気は消え、静かに言葉を続けた
「「粋がるなよ…虫けら、たかだか魔法が唱えられるだけで頂点に立ったつもりでいるのか、お前は周りが見えていない、お前は魔法しか唱えられないただの人間だ、それしか才能が無いのに私に口出しをするな、それしか能がないのになぜ口を出すことができる、口を閉じろ、私より劣っているのに口を出すな、私よりも下にいるのに口を出すな、私よりも生物として劣っているのに口を出すな、私がやりたいようにやるだけだ、無能な底辺にいるてめぇらが口をだすな」」
「そうか」
ぎょろり、ぎょろりとエニュプニオンの目玉が動く
「「お前に私を止める手段はないだろう?」」
「ないな」
「「だったら何故そこまで粋がることができる」」
「私にはできないが、できる奴がこの世界に、私の隣にいるからだよ‥‥あの言葉には魂が乗っていた、それだけで信じることができる、だから私はルディアを信じて魔法を放つだけだ」
よろり、よろりとルディアは立ちあがる、今にも倒れてしまいそうな様子だが誰の手も借りずに一人で立ちあがる
「「ルディアが私を止めるだと?氷でか?鎖でか?フフフそれは面白いな、見といてやるよ、最後の魔法を」」
「おう見とけよ、そして食らいやがれ」
アルは片手に貯めていた魔法を開放する
ぶわりぶわりと魔力が撒きあがる、魔力の風によってアルが来ているローブは暴れ、アルを中心として空中や地面に幾つもの魔法陣が展開されていく
煌びやかに、幻想的に魔法は展開していく
この世界の外に魔法は展開する
徐々に徐々に形を成していく、だが時間は掛からなかった、
魔法は数秒を満たない時間で完成した
それは目に入りきらないほどの剣であった
それは宇宙すらも飲み込んでしまうほどの剣であった
それは惑星なんかを簡単に切り裂いてしまうほどの大きな、大きすぎる剣であった
惑星すらも超え次元を斬る剣であった
「World Eater!!!」
その魔法の名を放つ
世界を喰らうもの、それがこの魔法の名前
「いくぜ?エニュプニオン?」
アルはエニュプニオンに向けて言葉を放つが、エニュプニオンはアルの言葉なんか耳に入れず、少し頬けた後に、アルとルディアに向けて言葉を残すように口を開いた
「「ふふ、良い物を見れたわ、楽しかったわアル、ルディア、またどこかで会いましょう?」」
優雅に綺麗に異形のエニュプニオンはゆっくと頭を下げた、私には関係ないと言っているように態度に出しながら
「「それじゃあね、バイバーイ」」
エニュプニオンはアルの「空間の連続性の否定」を使い空間を跳躍しようとした
だが止まる、がちんと無数の鎖で止まる
エニュプニオンの身体に幾つもの鎖が刺さっており、その鎖は地面へと繋がっていた
「「は?」」
エニュプニオンの顔は幾つもあって表情はどれが正解かは分からない、だがエニュプニオンは素っ頓狂な声をあげた
「「何処から、いや何時仕掛けやがったぁ!!!ルディア!!!!」」
ルディアの目は燃え上がっていた、最後の気力を燃やし、能力を発動させる
ぶわり、ぶわりとルディアの片目が燃え上がっている、能力がルディアを支えるように片目の炎は一生懸命に燃え上がっていた
砕け散った腕をぷらん、ぷらんと垂れ下げながらルディアは口を開く
「最初からです…アルさんと戦い始める前から仕込んどいていたんですよ」
エニュプニオンは鎌を振りつづけ鎖を引き千切り続けるが減らない
千切っても千切っても身体には鎖は纏わりつく
鎖はルディアの強い意志を反映させているように、斬られても斬られても何度も何度も何度も鎖はエニュプニオンから這い出て地面へと突き刺さる
「「何処からだ!何処から出やがる!」」
そう言いながらエニュプニオンは鎌を振り続けるが鎖はなくならない、むしろ数は増えていく
「………‥‥‥‥‥その鎖は魂からですよ」
ルディアの片目はオレンジ色により一層燃え上がる
絶対に止めて見せる、一歩もそこから動かせない!
ここで終わらせる!
400年前の物語はここで!私で終わらせる!
オーローンさんが頑張った!シャルルさんが頑張った!
アルさんが決めてくれる!!
だから!!!
私は!!
私ができる最善の手を打って!この悪夢のようなお話を終わらすんだ!!!
「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
「エニュプニオン、さよならだ」
アルは持っていた赤い剣を空中へと放り投げたと同時にアルはルディアに手を触れ「空間の連続性の否定」を使用する
飛ぶのは少しだけ未来、全てが終わった先
その瞬間から巨大な全体像が見えないほどの剣が動き出す
剣が地面に近づけば近ずくほどの空間は火花を散らしながら斬れていった、隕石が振ってくるかのように炎を纏いながら剣は地面へと近づいた
「「くそが!!!くそが!!!くそが!!!」」
そのひと振りは天を切り裂いた、地を切り裂いた、空間を切り裂いた
エニュプニオンは逃げられずにアイギスを展開する
「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあァ離れやがれ!!!!!!」」
だが触れずともアイギスは粉々に吹き飛ぶ
もう一度エニュプニオンはアイギスを展開するがまた粉々に吹き飛ぶ
「「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
剣の速度はアイギスで止められた程度では止まらない
自動で動く鋭利な一撃
エニュプニオンを中心に捉えながら剣は地面と接触する、その魔法は全てを切り裂いた、轟音がなり、凄まじいほどの熱量が辺り一面に広がる、空気は暴れ、風も暴れ、物質は砕け散った
長かった、長すぎる戦闘は案外あっけなかった、400年も続いた勝負は今最期を迎えた
砕かれた惑星は虚数空間へとバラバラに飛んでいく
地面は大きく、大きく真っ二つにされ
「「あ…なん…で……く‥‥そ・‥‥が」」
エニュプニオンはただ一人で粉々になりながらも恨みを言葉に漏らす
回復が始まらない身体がちりちりと燃えカスのように空中へと霧散していく
空間は維持できなくなり、虚数空間に喰われていく、ぼろりぼろりと地表が壊れていく
エニュプニオンの近くに二人の着地音が聞こえてくる
「どうだ?最強の魔法を喰らった気持ちは?」
エニュプニオンは喋らない
「喋らないか、つまらない奴だな」
「「お前…は…一体…何者‥‥だ‥‥」」
ぼろりぼろりと砕け散るながら、ゆっくりとゆっくりと声を発する
「私は‥‥前にも言ったが天才で美少女で、ま、今回は最強じゃなかったが…最強の魔法使いのただの人間、アルストロメリアだよ」
「「覚えたぞ‥‥‥次は‥‥‥‥負けない・‥‥」」
エニュプニオン、白い天使である彼女は細々としたかけらとなり空間へと散っていった
「次があったらな」
アルは静かに消えゆくエニュプニオンに声をかけた、彼女が散っていた方角を眺めながら…
同時に魔法による風がアルとルディアを祝福する様に吹いた
アルとルディアのローブがゆっくりと揺れる
「‥‥‥‥‥‥はは」
アルは一瞬だけおどろき目を丸くするがすぐさま面白そうに笑った
「面白いな全く……」
オーローン、私の他にも魔法を唱えた奴がいるなんて思いもしなかったよ……
一度現実で会ってみたかったな。
がたがたがたと大きく空間が揺れ始める、この虚数空間に存在している世界は殺され、主もいなくなったため急激に崩壊が進んだようだ
アルが立っている横からパタリと音がした
ルディアは限界だったのかかくんと膝から崩れ落ち地面へと倒れ伏したようだった
「ありゃま」
仕方がなくアルはルディアを静かにおぶった、ここで治療を始めていたら私たちも虚数空間に飲み込まれてしまう
「さてと、帰るか…しっかりと治療もしてやりたいしな」
ルディアをおぶり、空間の連続性の否定を使い吸血鬼の国へ帰ろうとした矢先
刺さった、視線が刺さった、見られている
何処からか見られている、全てが見られている
何処だ?
探し出すために、きょろきょろと首を回す
何処からだ
右へ左へとくるくる回すがそこには崩壊し続けている空間しかない
んー?何処なんだ?周りには誰もいないな…
最後に上を見る、空間をきょろきょろと見る、そこで目に入ってくる、World Eaterで斬られている空間の裂け目があった
World Eaterは世界を斬るだけではなく空間すらも一部斬ったようだ
そこに目を凝らすとぎょっとした
虚数空間のその先、私はその先の名前を知らないがその先の空間に誰かがいた
目と目があった
空間の裂け目から目だけが覗いていた、それは巨大な巨大すぎる機械仕掛けな目だった、感情なんてものはなく、その眼は唯々私たちを見て居るだけだった、人間が虫を観察しているように、その機会仕掛けの目は唯々私たちを見ていた
気色が悪い
あれはなんだ?誰の目だ?いやそれよりもあの先の空間はなんだ?宇宙?いや違う
一発魔法をぶち込んでやろうと思ったがすぐさまやめる、ルディアを抱えながら戦闘なんて起こせない
「はぁーなんなんだよ」
私は計算を始め、空間の連続性の否定の準備を始める
空間の裂け目から覗いている目は何もしてこなかった
そんな目を気にしながらも準備は完了する
「お前は一体何なんだよ…」
アルは一言だけ漏らし、空間の連続性の否定を使用した、次の瞬間音もなくアルとルディアは消えた
アルとルディアが居なくなった空間はなおも崩壊を続けている、その崩壊をぼーっと機械仕掛けの目は裂けた空間から眺めていた




