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[主人公たち!]  作者: 狼の野郎
前日譚 夢を見て空を見る少女 
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夢を見て空を見る少女33

三十秒…普段であればこんな時間すぐに過ぎ去ってしまうでしょうね


だけど今は途轍もなく長く感じる


永遠に感じる


「「私が貴方に30秒も使うわけないじゃない」」


「使わせます!!!ブラッドソード展開!!」


ルディアが叫ぶと同時に魔力を注ぎ、自身の血液を使い、空中に真っ赤な剣を何十本もルディアを中心として現れる


「いっけ!!」


その血液は魔力によって動かされ、エニュプニオンに向かって目にも止まらない速さで飛んでいく


一つは真っすぐに飛んでいくものもあるだろう


一つは弧を描きながら飛んでいくものもあるだろう


一つは不思議な軌道を描きながら飛んでいくのもあるだろう


だが全てはエニュプニオンを突き刺すためだけに飛んでいく


六秒


「「くだらない」」


ルディアの血液を使った剣たちは狙いたがわず全てエニュプニオンに向かったが、エニュプニオンは鎌を一つ振るうだけでその全てを無に返された


鎌に触れていない剣すらも粉々に砕かれる


エニュプニオンはその後すぐに飛ぶ


飛ぶとほぼ同時刻に、エニュプニオンがルディアの目の前に現れる


「「ちょっと一片死んどきなさいな、後でちゃんと遊んであげるわ、おもちゃはおもちゃ箱へね」」


鎌が振られる、絶対的に守ることができない一撃の鎌が振られる


逃げることはできない、アルさんのように飛び回ることもできない、私にはそんな器用なものはない


それをエニュプニオンは知っているのだろう、私が避けられない位置で鎌が振りかざされた



アルさんの魔法、「アイギス」ですら守れなかった一撃、私の目から見てもアイギスの防御力は桁を外れていた、魔術を多少なりとも嗜んでいる自分ですらアイギスの理論が一切分からなかった


どのような詠唱を使い、どの魔術を使い、どのような構築をすれば、あのような盾が出来上がるんだろうと思っていた


だがそれすらも、あの防御力を超えるのが私に向かっている鎌だ


緊急防御なんて生ぬるい物を張ってしまっても結局は首と胴は離れるだけだ、結末は見えている


だからもう手は考えている


自身の中に残っている全ての魔力を注ぎ込み、魔術を使用する


詠唱なんてものは使わずに、自身の魔力という名のバケツをひっくり返す、要するに魔力を全力で使い、魔力を意図的に暴走させる


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


鎌を防ぐことはできない、攻撃を相殺させることもできない、だからエニュプニオン本体を吹っ飛ばす、いや驚かせるだけでもいい


「「っつ」」


私に力を貸してください!!!


魔力は腕を通り外の世界に顔をだす、ルディアの両腕は白色へと変化しその光は瞬間的に時間を掛けずに爆発的に風を発生させ、熱を発生させ、衝撃を発生させる


その爆発は数秒間、続く


ルディアを中心として大きな大きな爆発が起きた


それによって迫っていた鎌は風圧、爆発によって鎌の攻撃が止まった


魔術の暴走は人それぞれだがルディアの桁違いの魔力量の多さによってその爆発の威力は増す


世界を揺るがし、空間を揺るがす、アルのスターレインには少しばかり劣るが魔法に匹敵るほどの爆発であった


その瞬間に腕が魔力の量に耐え兼ね焼けるかつ爆発によって真っ黒く変色する、血管が悲鳴を上げ、ぶちりぶちりと切れて行き、腕の至る所から血液が溢れ出していた、皮膚は爛れ、血液が流れだしていた、骨すらもバキバキにヒビが入っていく


腕が焼けきれるほどの激痛と共に爆発によって発生した尋常じゃない風によって身体が吹き飛ぶ、空中を舞い、落下しごろん、ごろんと二三回転がった後、痛む腕、痛む身体、痛みを無視しすぐさま立ち上がる


エニュプニオンはぷすり、ぷすりと煙を上げているがそれでも欠けている部分などはなく、かすり傷程度しかついていない


十四秒


ルディアの眼は勇気の色の炎で揺れていた


片目からゆらり、ゆらりと勇気の色、オレンジ色の炎が揺れていた、燃えていた


エニュプニオンはまた飛ぶ動作を見せるがピタリとその動きは途中で止まる、止まると同時に鉄と鉄が重なり合う重い音が響く


それはルディアの能力である鎖が空中や地面から這い出た鎖たちがエニュプニオンの身体をこの世界に繋げていた


十七秒


だがすぐさまエニュプニオンは自身に纏わりついている鎖を高速で、細い腕を器用に使い、鎌の性能を十分に振るってすぐさま鎖を斬り壊す


「白い世界!!!」


腕が何度も何度も剣で突き刺されているような痛みを必死になって我慢しながら斬り壊したと同時に自身にある魔力を使い魔術を発動する


その魔術は地面を瞬時に伝い、エニュプニオンに向かい、エニュプニオンを食らい尽くす勢いで凍らした、それは瞬時に氷の世界を創る


二人が戦った影響なのか、どうなのか知りませんがこの辺りは魔力に満ち溢れている、そのため魔力を使った傍からあたりの魔力を取り込めば半永久的に魔術が放てます、だから使わない手はない


腕が壊れようが、脳が焼き切れようが使わないと止められない


アルさんの魔力効率がいいのか、この世界の性質なのか分からないが使えるものは使わない手はありません


十九秒


すぐさま氷像となっていたエニュプニオンは動き出す


エニュプニオンは氷が砕け散ると同時にまた飛ぶ


同時に自身の背後にエニュプニオンが現れる


それを予想していた私はもう一度同じように魔力を暴走させ、爆発を引き起こす


黒くなった両腕はより一層黒くなり、爆発の威力をもろに受ける腕は二度目の暴走によって粉々になり、皮膚はより一層爛れ、見るも無残な腕と化す


爆発の威力によってルディアはまた空中を舞う


二十五秒


「「何度も同じ技食らうわけないじゃない」」


ルディアは空中に放り出されながらエニュプニオンの前にアイギスの盾が展開しているのが目に入った


エニュプニオンはアイギスによって無傷だった、一つの傷もなかった


ルディアは痛む身体を懸命に無視をしながら空中で飛ばされながら能力を使用する、能力を使用するのと同調する形で目の炎が勢いを増す


能力は正常に作動し、空中や地面の至る場所から鎖が出現し、エニュプニオンに高速に向かって行く


だがエニュプニオンは鎌を目にも見えぬ速さで振るう、その瞬間、エニュプニオンに向かっていた鎖は全て断ち切られる


あぁ…


ルディアは力なく落下する、ばたりと力なく、立ちあがる様子すらなくルディアは落下した


片目の炎は消える


二十七秒


エニュプニオンは飛んだ


後三秒足りない


三秒なんて一瞬なのに、一瞬で届く場所にあるのに、今は程遠い場所に三秒がある


私の頭上にエニュプニオンが現れる


足りなかった


間に合わなかった


鎌が無慈悲に振り下ろされた


身体は動かなかった、避けなければと思うが立ち上がるための腕がもう動かなかった


真っ二つになる未来が見えた



ふっと気づく、私の傍に誰かが経っていることに、いや傍じゃないのかもしれない、だけどきっと近くに私の近くに二人がいる


「やらせねぇ!!」


ずーっと昔の私の大事な大事な仲間、吸血鬼の、愛おしい少女の声が聞こえてきたような気がした


姿は見えなかった


どこから飛んできたのか分からないが、降り降ろされている鎌とルディアの間に赤い剣が割って入った


ルディアは魔術を発動していなかった、だがそれはルディアが先ほど使ったブラッドソードと酷似していた


だが鎌と血液の剣は一秒だけ拮抗を見せた後に折られる


二十八秒


それでも鎌は止まらずにルディアに迫る


「まだ俺がいる!」


私の仲間であった…私の魔術の師で大事な大事な仲間、私にとっての勇者の声が聞こえて気がする


姿は見えなかった


ルディアは魔術を発動していなかったが、何処から飛んできたのか分からないがルディアと鎌を隔てるように青い炎が飛んでくる


それすらも一秒程の拮抗を見せた後に斬られる


二十九秒


だがあと一秒足りない


まだ一秒足りない


長い長い長すぎる一秒だ、一人で手を伸ばしても絶対に届かない、届くはずのない彼方にその一秒が存在している


無理だ


私じゃ届かない


腕が痛くて上がらない


身体が居たくて立ち上がれない


心がもう諦めようと語り掛けてくる


届きようがない


心が囁きかけてくる、もうあれを使ってしまおうか?だがあれを使ってしまったら私たちの負けは確定する


だが死ぬよりもいいんじゃない?


そうやって弱い自分は語り掛けてくる


痛いのを我慢するぐらいだったら逃げちゃおうよ?痛いのを一瞬でも消せるんだよ、あれを使っちゃおうよ?


弱い自分がまた語り掛けてくる


そのとき声がきこえた、弱い自分から放たれる声をかき消すように


鼓舞するように、支えるような声が聞こえた


「「ルディア!!」」


私の名前だった


私の名前を二人は言った気がした


二人の大事な大事な仲間の声が聞こえた気がした、シャルルとオーローンの声が聞こえた気がした


その声には、その音色には頑張れ!と諦めるな!やってみろ!と伝えたい全てが詰まっている音色だった


諦められない‥‥


ここで私が挫けてどうする…


私が三十秒稼ぐって言ったんだ!



勇気が湧いてくる、力が湧いてくる


私の両肩に二人の手が乗る、頑張れと!とぎゅっと掴んでくる


痛さはあった、腕なんてものは既に感覚はなかった、腕を少しでも動かせばそれだけで激痛が身体中を回る、身体を動かせば悲鳴を至る所から聞く羽目になる


だけど二人の手が乗った瞬間、全てを忘れることができた


二人の手は暖かかった


魔力を回す、無理やりにでも瞬時に音を超え、光を超え、時間さえ超えるほどの速さで魔術を回した


ルディア達は最後の魔術を放った


「「「白い世界!!!」」」


ぶわりと氷の世界が展開される


ルディアの魔力、オーローンの魔力、シャルルの魔力を使った400年前の仲間たちの最後の魔術、最後に彼らは氷の世界を創りだした


氷の草は生い茂り、氷の花を咲かせ、氷の地表を作り出した


彼らの、彼女の最後の魔術


その世界はエニュプニオンを取り込み、見事なまでに凍らせる


エニュプニオンは固まるが一秒だけ止まったのちに瞬時に砕かれまた鎌が動き出す


三十秒


三十秒ルディアは命を繋いだ、二十七秒間ルディアはエニュプニオンを足止めした、400年前の仲間で三秒間エニュプニオンを止めた


それによって


物語は終幕へと向かった



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