夢を見て空を見る少女31
アルは淡々と述べていく
アルは剣と鎌の打ち合いをやめ、一旦距離を取りながら話を続ける
「さて、もう一度聞こうかなお前の能力は具現化する能力なんだろ?」
「……」
「それによって黒い鎌や黒い化け物を作ってるんだろ?」
「…………」
エニュプニオンは言葉を発さない
「でだ、此処からが私達の本題なんだが、お前の回復能力はその具現化を応用しているだろ?」
「‥‥‥‥」
「自分自身を具現化し続けている…破損した部分から自分自身のテクスチャを切り貼りしてるんだろ?」
「だとしたら?」
「ま、お前を倒すためにはその能力を上回るほどの攻撃を加えなければならないっていうことは変わらないがな」
「は!やってみろよ」
赤い剣を右に振り、左に振り、暇を見て余すようにブンブンと振るう
紅い剣が空気を切り裂く音だけがこの世界の音を奏でた
アルは一言も発さずに
エニュプニオンはそもそも話す素振りすら見せずに
ルディアはその二人の戦闘を一言も発さずに見ていた
誰一人として動かない、小さな世界
紅い剣だけがブンブンと楽しそうに音を鳴らしていた
先の戦いの騒がしさと比べると、静かすぎた
どちらも一歩も動かなかった
ルディアにとっては達人の間合いだと感じた、動きだせば決着がつく、どちらかが動き出すまでどちらも動くことができない、そんな静かな時間だと感じていた
アルはふふと笑う
ルディアが感じていた時間を崩すように、笑った
アルが付けている魔法使い特有のとんがり帽子からアルの目が光る、アルの目はギラリと射貫く、確信を着くように、確信を持っているようにエニュプニオンを青い目で射貫いた
アルはぎらりと笑う
「とでも言うと思ったか?」
アルはエニュプニオンの言葉を待たずに言葉を続ける
「私は馬鹿だが馬鹿すぎるわけでもない、洞察力とかはそこそこあるほうなんだぜ?」
ふふん、とアルは鼻を自慢げにこすった
アルは言葉を続ける
自慢げな表情を止め、アルは真面目に、真面目な声で、真面目な目で言葉を紡ぐ
「私の魔法もだが今のルディアだったらお前の身体を全て吹っ飛ばしているだろな、かけらも残さずにだ、だから私は考えた、お前も作られた存在だと」
アルは魔法を用意しながら続ける、魔力を回しながら話を続ける
「じゃあ、お前の本体は何処なのだろうなって考えたわけだ」
魔力が辺りを風のように飛び回る
煌びやかに、魔法は作られていく
魔法は徐々に徐々に完成していく、詠唱をせずに魔力だけで作り上げる、とっておきの一つの魔法を作り始める
先の、詠唱が確実に必要な魔術とは違い、コントロールや押さえつける必要が無い魔法のため魔力を存分に注ぎ込むだけでできる魔法だった、だがその分魔力はごっそりと持っていかれる
「ここだろ?」
アルは足でとんとんと足元を鳴らす
この立っている世界がエニュプニオンの本体なんだろ?
「何故そう思う、私は私だ」
「だろうね、お前はお前なんだろうさ、別にお前が本体では無いとは言ってないだろ?お前も作られた側だけど本体であり、この作られた世界も本体ってだけだ」
魔法は完成する
魔法はアルの手の中で暴れまわる、今か今かとこの世界の空気に触れたいと、暴れまわる
アルの手元は魔法に茶色く、黄土色の色が溢れ出す
いつでも放つ事はできる
と同時に一つの考えがアルの頭をよぎる
だが‥‥懸念事項は勿論ある、多分だが‥‥予想でしか無いが世界と彼女、エニュプニオンを同時に倒さないと回復される、どちらも本物、本体であるため、具現化の能力はどちらにも有しているのだろう、お互いをお互いが傷を負ったら具現化で傷を修復し合う、だから彼女は全てが吹っ飛んでも死ぬことが無く回復を始めることができる
そしてこんな訳の分からない虚数空間に身を置いている点を踏まえると私と同じく空間を飛ぶ技術すらも持っているだろうとも考えれる・‥‥いや、持っていないかも知れないが
だが、具現化の能力で空間を跳躍する道具も作れるんじゃ無いか?と考える事もできる
さてどうしたものか
氷で固めるか?もしくは時間を止めるか?それとも……それとも……
アルの思考はぐるぐると回る、対策を考え、欠陥を見つけ破棄する、それを何度も何度も繰り返し答えを探す
だが見つからない、どのようにしてエニュプニオンを確実に止めるか模索するが見つからなかった
そんな思考を回していたところ、エニュプニオンの態度が変わったようにも感じられた
「ねぇ、貴方こそ何者なの?私は貴方に興味が湧いたわ、貴方に貴方に私の全てを見せた上げたい、あんな銀髪の雑魚よりも、貴方に興味が湧いたわ、あんな中途半端な吸血鬼よりもあなたに興味が湧いたわ、あんな勇者の腰巾着よりも貴方に興味が湧いたわ、勇者よりも興味が湧いたわ!」
「モテモテだな、ま、お前にモテたところで何一つも嬉しくないんだがな」
「ふふふ、私!今!運が向いているじゃない!つまらない物だと思ったけどここまで面白いことが起きるとワクワクするわね!!!フフフ!!ごめんなさいね、テンションが上がってきちゃって、口が回るわ~先までの態度はごめんなさいね、だってこの世界の人間はだーれも私に敵う奴なんていなかったもの、まぁ?そこのルディアとオーローン、シャルル辺りはすこーしだけ骨があったけどね‥‥でもでも貴方ほどじゃなかった、この空間っが私の本体?そんな言葉が出てくるなんて思わなかったわ!!!あぁ素敵素敵!」
「おいおい、いきなりドバっと喋るなよ、耳から零れるだろ、三行で済ましてくれ」
嫌な予感を感じ取った、今必要なのは攻撃するための魔法でないと悟る
アルは先まで練っていた魔法を手放し、手放したためにできた魔力をもう一度身体の中へと循環させる
空気ががらりと変わった
「えぇそうね、私は貴方と本気で戦いたくなったわ、不完全燃焼で終わらせるよりも全力で、全ての全力を貴方にぶつけてみたくなったわ!!こんなつまらない命令を聞くことよりも!私は今!貴方と!全力で殺し合う!!!」
そういうと黒和服の少女、エニュプニオンの身体がぶくぶくと膨れ上がっていく
アルは笑う
どのように勝つのか皆目見当はついていないが、笑った
楽しいから笑った
同時に”どうしようか”と考える、形態が変化する、つまるところ本来の姿に戻るまたは進化する、ということはもちろん具現化する能力すらも大幅に強化されているだろう
となると、余計に魔法を当てずらくなった、先の状態で既に止める手段を模索していたのに、新たな形態になり止める手段が一層に見えなくなった
まぁいいさ、どうとでもなるだろう
ツキは回ってくる来るものだ!
今は楽しもう!
黒い和服が体型が変わり、服の形を維持ができなくなりピシピシと破れていく、エニュプニオンは本来の姿を現していく
元よりあった皮膚は裂け、顔の皮膚も裂け、足の皮膚は裂け
本来の身体が空気を浴びる
その身体は全体的に白かった、真っ白な色をしていた
その変化は蛹が蝶へと変化していく様子にも似ていた
最初に羽が生えた、羽は数多の人間の顔で構成されていた、泣いている表情の顔もあれば、怒っている顔もあった、悲しんでいる顔もあれば、にこやかに狂気的に笑っている顔もあった
その顔の集合で大きな羽ができていた
エニュプニオンの顔は膨れ上がった
エニュプニオンの身体は膨れ上がる
ぼこぼこと、ぼこぼこと、泡立つように
エニュプニオンの人間離れしていて顔すらも変形していく、その顔は膨れ上がり、顔に顔を幾つも形成していく、羽と同様に表情が何十種類もある顔が形成され、どの方向から見ても顔が見えるような奇妙な、不気味な顔が出来上がっていた
頭の頭上には見たことのない材質でできた大きな大きな輪っかが浮かび上がる
手足は以上に細長くできており、手に関しては地面についてしまうほどの長さを持っていた
エニュプニオンの後方には魔法陣が浮かび上がる
「「さぁ始めましょうよ?アル?shall we dance?」」
声が二重になって聞こえてくる
「やだよ、なんでお前なんかと踊らなきゃならんのさ、お前だけ滑稽に踊っとけ」
二人は踊りという名の戦闘を始めた
ルディアは一言も発さなかった、いや発せなかった
エニュプニオンが姿を変え始めた瞬間から空気が変わったからだ
空気が重くなった、呼吸が上手くいかなくなる
足が一歩ずつ自然と後退していく、彼女から逃げなければ
身体が蛇に睨まれたようにうまく動かせなかった、動いたら殺されそうだったから
一つでも音を立てれば、あの長い手で首を掻っ切られると思った
一つでも身振りを見せた瞬間に、殺されると思った
情けない
何もできない自分が情けない
何も動けない状態が情けない
悔しくて、情けなくて、手が出せない自分に苛立って、苛立って、苛立って、苛立って、情けなくなった
だが
ルディアは前を向いた
その時ふと気づく、アルさんはエニュプニオンが姿を変えようが一つも焦りを見せてなかった
その焦りが一切でない余裕は何処から………何か策はあるんだろうか?
だったら何故、それを使わないんでしょうか?
撃てない?余計な話をしたのは時間稼ぎ?
だったら何故エニュプニオンの変身中に撃たなかった?
アルさんが語った話を頭の中で組み上げていく
本体は世界である事、それに加えエニュプニオンも本体である事……エニ ュプニオンが具現化の能力を持っているのならば……………私たちが地に足をつけているこの世界にだって具現化の能力を持っている事になる?
だからアルさんは手を出さなかった?
だって両方同時に倒さなければ回復をされ続けるから
片方がこの世界から消えてしまったら、逃げてしまったら勝負がつかない、また私が狙われる、いや、今はアルさんか……
だからアルさんは両方とも殺せるタイミングを狙っている?
アルさんの先程の行動の意味はわかりました
だったら……




