夢を見て空を見る少女29
私はエニュプニオンが動き出すのを待った、
相手が何をしてくるのか分からない、無策で突っ込んで痛い目を見るのならば、相手の出方を見たほうが良いだろう
エニュプニオンが最初に動き出した、巣を突いたときにわらわらと出てくる蟻のように、有象無象の影の軍隊がエニュプニオンの足元を中心に至る所から浮かび上がってきていた
影はレストランやルドと私が戦った奴らよりも形や姿、輪郭がはっきりしていた、それに加え一人一人が並々ならぬ戦闘能力を有しているようにも感じる
ま、いくら強かろうが関係ないがな
「アルさん、気を付けて」
「まぁー任せておけ!何十人、何百人居ようが敵じゃないぜ」
アルは魔法を使う、魔術という万人が使えるようなものではなく、一握りの人間しか使えない魔術の極致である「魔法」をアルは軽々と使用する
さぁ始めようぜ
「スターレイン!」
アルが莫大な魔力を使い豪勢に魔法を放つ
魔法は手が届かない、鳥すらも飛ぶことをためらうほどの超上空に大きな大きな星型の惑星を幾つも出現させた、その星形の惑星は轟音を立てながら地面へと降り注ぐ
着弾と同時に爆ぜた、黒い人型、エニュプニオン共々この世界にいる全ての生物を一つも残さない勢いで星形の惑星は爆ぜた
アルは涼しい顔をしながら着弾と同時に、エニュプニオンからの攻撃を防ぎ切った「アイギス」という魔法の盾を展開し、ルディアをスターレインからの余波から守る
たっぷり十秒数え終わったところで、アイギスの盾を解除し、辺りを見渡す
スターレインによって至る所で煙が上がっていて、周りの様子が見えない
「はぁこれだからこの魔法は使いがってが悪いんだよな」
煙はすぐさま晴れた、辺りは凸凹と空間が抉れていた、当たり前だが黒い人型は一人たりともいなかった
だがエニュプニオンは無傷で立っていた
「無傷か‥ちょっと凄いな」
アルは一人で感心していた
だがエニュプニオンは喋る気はないらしい、既にエニュプニオンは動いており、次の怪物が既に現れていた
その怪物は天に届くほどに巨大だった、それはドラゴンのように感じられた、それは竜のように感じられた、真っ暗な見た目が形を一定に保っていなかった、変動し続け形を変えていた、見方によれば人の形をしているという人もいるだろう、変わらないのは大きさだけだ
それは真っ黒い、黒すぎる歪な羽がついていた、羽が動くたびに化け物のような鳴き声が聞こえてくる
分厚い腕が何十本も付いているように見えた
その怪物が少しでも動けば空間が揺れる、羽を動かせば台風のような風が押し寄せてくる
原始的な恐怖を煽る、それは人間が相対してはいけない生物だった
「はは」
ルディアの乾いた笑い声が聞こえてきた
「oh‥‥デカいな…」
アルも一言感想を漏らす
「xaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaadaaaaasdaewrdf」
化け物は言葉に表せない咆哮を轟かせた瞬間から動き出した
化け物は拳を振るってくる、拳は見えない上空から降ってくる、轟音を立てながら、風を押し付けながら、火を纏いながら、全てを消し去るために振ってくる
世界が暗くなる、空が化け物の拳によって埋め尽くされた
真上を見上げると一面、黒い空だった、拳が空の色を作り上げていた
「アイギス!」
魔法を一つ唱えると空中に一つの大きな大きな盾が出現する
何事にも傷つけることができないどこかの神話の盾が出現する盾だ
盾を展開し衝撃から身を守る、そのすぐ後に衝撃が襲ってくる、ぶらりと風が巻き起こり、空間が地震にあったかのように大きく大きく縦に揺れた
だが盾は一つも傷がつかず、空中で拳を一身に受けていた
拳は引かず、盾は破れず、お互いに均衡していた、拳と盾の間にはすさまじいほどの火花が飛び散り続けていた、それに生じた衝撃はは空中を揺らしていた
アルはその下された拳に怯えずに魔法を一から唱える
ひどく落ち着いた様子で、一語一語間違えないように、イメージを浮かべながら詠唱を開始した
「私はお前を創る者なり、私はお前を使用する者なり、私はお前を超える者なり、私はお前を従える者なり、お前は原点である者なり、お前は一なる者なり、後にも出ずに、先にも居るはおらず、お前はただ一人の者なり」
純粋な魔力を注ぎ込む、一歩でも間違えれば、この魔法に喰われるだろう
アルの詠唱は続く
「全ては貴様の下に位置するだろう、全ては貴様にひれ伏すだろう、全ては貴様に仇なす者はいないだろう、貴様は斬るものである、貴様は全てを食い尽くす者である、貴様は世界を揺るがす者なり、貴様は世界を焼く者なり、貴様は蛇であり人間である者なり、全てを無に帰し、全てを切り伏せろ!貴様は光である、貴様は希望である、貴様は絶望である」
ぶわりぶわりと魔力が溢れ出る
アルが言葉を紡ぐごとに空中の魔力は震え続けた
ルディアはアルの魔法に目を惹きつけられ言葉を発せられなかった
アルが言葉を端数るたびに魔力は駆け巡った、それは青い電撃のようにばちりばちりと音を立てながら魔力がアルの周りを、体中を回り続けた
化け物は破るために拳をもう一つ振り落とす、轟音と共に拳が降ってくる、その音は正に惑星が落ちてくる、かのように感じられた
だがアイギスは傷を知らなかった、主を守るためにその魔法は一歩も引かずに拳からアルとルディアを守り切る
アルは詠唱を続ける
「私は貴様と契約するものなり、私は貴様は対等の存在なり、私は貴様を使役するものなり、貴様は私に使役される者なり、顕現せよ、顕現せよ、その全てを私の手に現したまえ、その全てを使わせろ!!お前には何もくれてやらないがな!!だから勝手に使わせやがれ!!私がお前を使ってやるよ!嬉しく思いやがれ!!!!」
全ての詠唱を終わらす
アルにバチバチと青白い電流のような駆け巡っていた魔力が弾ける
空中に存在していた魔力すらもはじけ飛び、光の粒子となり、アルの手に集まっていく
光の粒子は徐々に徐々に集まっていきそれは一つの形へと形を成していった
それは剣であった
それは赤色の剣、全ての剣の頂に立つ一振りの剣、全てを喰らう真っ赤な色の剣だった
確かめるようにぶんぶんとアルは振るう
「よし!行けるな」
天高く聳える化け物がアイギスを破ろうと三本目の拳が飛んでくる
それと同時にアイギスを解除する、アイギスは役目を終えたため、青白い粒子を浮かべながら空中へと霧散していく
アイギスが解除されたため盾と拮抗していた拳が私たちに向かって迫ってくる
アルは焦る様子を見せずに、軽く、杖を振るうように紅い剣を真横に巨大すぎる化け物に向けて振るう
振るう同時にキンっと空間に甲高い音がなる
アルが振るった剣先から真っ赤な分厚い閃光が飛んでいく、風を喰らい、空気を喰らい、空間を喰らいながらそれは真っすぐに飛んで行った、それは言わばレーザーだった
レーザーは向かってきていた拳を触れた先から消滅させていく、文字通り、一つのかけらすらも残さずに触れた先から消滅させた
そのレーザーは遠くにある化け物の身体を真っ二つに分離させた、アルはもう一度赤い剣を縦に振るう
振るうとい同時にキンっと高い音が鳴ったのにレーザーが飛んでいく、地面を削りながら、空間を引き裂きながら飛んで行った
そのレーザーは超上空にある、遠く遠い化け物の身体を縦に裂いた
「っつ!!」
もう一度剣を振るう
今度は斜めに振るった。やはりレーザが振るった通りに飛んで行き、化け物を斜めに切り刻む
縦に、横に、斜めに大きく斬られた化け物は体制が崩れていく
「raadxxxxxxxxxxxxxxxxxx」
叫び声とも取れるような声を化け物は放った、身体を地面へと崩しながら
「うるせぇよ」
大きすぎる、化け物は身体を保つことができずにドロリ、ドロリと雪だるまが溶けるように黒い液体を地面へと崩れていった
アルは次の瞬間に「空間の連続性の否定」を使ってその場から消えていた




