夢を見て空を見る少女27
ヒイロはいち早く状況に気付き鋭い声を上げた
「アル!止まったわよ!」
ヒイロの声が響いた
スクリーンで動いているルディアの位置が完全に止まっている
何故だ?何が起こったんだという疑問も浮かんだが、そんなものはすぐさま取っ払いすぐに頭の中で計算を始める
計算が必要なのは「空間の連続性の否定」を使用するためだ
目測だけで済むレベルの移動ならば計算なんていらないのだが、長距離の移動、ましてや空間そのものが違うとなれば精密ね計算が必要になってくる
正確な位置に飛ぶために莫大な計算を行う
だが止まっている時間がいつまで続くか分からない
計算を終わらせたいが…一歩でも間違えれば虚数空間に放り出される
焦りが顔ににじみ出る、ゆっくりと汗が顔の横を伝う
「アル、止まってるわよ?」
「ちょい、今計算しているから話し掛けんな」
ぐるりぐるりと数式が頭の中を駆け回る、ある程度まとまったところで持っていたメモ帳に書き込み、そして手を止め、また考え出す
「わかったわ、”それ”は必要な行為なのね‥‥だったら私も手を貸してあげるわ」
不敵にかっこよくヒイロは言い切る
ヒイロは能力を使った
だが何かが風景が劇的に変わる様子などは一切無かった
アル以外には…
「何をやったんだ?」
アルは驚愕していた、頭の中で不思議と既に数式が完成されていて、座標を特定できていたからだ
計算、途中式を吹っ飛ばして、式と答えが明確に頭の中で浮かんでいた
その答えと式を何度も考えてみても誤差はなく、ミスも無かった
「ただのマジックよ」
「そっか、ありがとう」
「貴方にお礼を言われるとなんかむず痒いわね」
アルはヒイロに一つお礼をいって、すぐさまアルが立っていた地点から消えた
音もなく、風もなく、動く素振りすら見せずに消えた
ツバメはアルが居なくなった虚空を見つめながら一つだけヒイロに聞いた
「何をやったんですか?ヒイロさん」
「マジックって言ったじゃない」
「・‥‥道中、私たちの事をループさせたあれですか‥‥ふむ、まぁ友人としてあまり踏み込まないであげますか、少々気になりますが」
「そうだぞ、ツバメ。うちのヒイロに手を出そうもんなら私がお前に牙を剥けるからな」
「おぉ怖い怖い‥‥さて、今回はどういう終わりを見せるんでしょうね」
「ハッピーエンドだよ、きっと」
「それだったら面白い結末ですね」
曖昧で未だに不安定な世界に住む彼女らはいつも命を脅かされている、平和な吸血鬼の世界に住んでいるが土台がそもそも不安定である、世界が不安定である
行方不明者なんてものは日常茶飯事で、人が消える事なんて事は幾らでも起こりえる
だって脅かされ続けているんだから
それはどの世界にも言える事、まだ何も起きていない世界にも手はいずれ差し向けられる、まだ危害が及んでいない人たちにもその眼は向けられる
だからこそ、ソフィアはハッピーエンドを願った
アルは「空間の連続性の否定」で飛ぶ
計算式に狂いはなかった、だから目指す位置に飛ぶことは可能だろう
だから虚数空間にほっぽりだされる事はないだろう…多分
虚数空間は初めて入る場所だ、ルディアがどんな状況化は気になるけどもそれよりも虚数空間がどんな場所なのかが気になるな
飛びながらそんなことを考えていた
先までの莫大な量の計算をしなくて済んでいるために頭に余裕がある今余計な事を考えてしまう、気持ちにも余裕が出てくる
まぁ別に頭空っぽで虚数空間に向かうよりかはマシだろう
虚数空間に誘い込む、もとより虚数空間に誘った者は多分、格が違う、人間が勝てる相手ではないのだろう、虚数空間はそもそも人間が居られる場所ではない、その中で自身の存在を証明している、世界を作り出しているとなると‥‥本当にどんな奴なのだろうか
久々にわくわくしてきた
だから予め魔力を開放し、魔力を回しておこう
アルは大きな帽子を被りなおす、気を引き締めるために、一種のまじないのように
魔力をフル回転させる、いつでも戦えるように
さ!楽しもう!
ルディアが鎖を出した後、片目の炎は徐々に徐々に火力を萎ませていき、炎の勢いは消え、いつもの普段通りの片目へと戻った
同時に大量にあった勇気の色をした鎖も存在自体が薄くなっていった
幽霊のように鎖がどんどんと薄くなり、消えた
「ちょーっとびっくりしたじゃない!今の何だったのよ本当に、全く無断な事をしない方がいいわよ?疲れるだけだから、ふふふ、まだまだ楽しみましょう?ルーディア!!あっは!!」
また殺されるんでしょうね
だけど面白いことも同時にできました、絶対に一泡吹かせさせる、
使いどころは間違えられない、最後の最後の一手なのだから
これが何に繋がるのかは分からない、ただ魔法は出来るといった、やれるだけの事はやろう、たとえ今死んだとしてもまた巻き戻されるのだから…
私は戦闘態勢に入る…死ぬにしたってなにもしないでやられるつもりはない‥‥少しでも少しでも長く生き延びて、生き延びて逆転の一手を模索してやる
「本当に凄いわね、貴方ちょっとだけ感心しちゃう、何回も何回も死んでそれでもなお立ってるのは、人間として壊れっちゃってるのかしら?ふふ、だったら尚更面白いじゃない、壊れている人間をもっと壊したらどうなるのかしら、ふふふふ、鬱憤を晴らせるだけかと思ったけどそれ以上に楽しい物も見れるなんて400年ぶりの月が回ってきたかしら」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「さてとじゃあどんな殺し方にしようかしらねぇ?」
”彼女”は悠長に悩んでいた
ルディアは無言で魔力を練り、魔術を発動する
身体の中が空っぽになるほどの大量の魔力を使った、最大の一撃
轟音が世界に鳴り響き、
視界が魔術の光量によって長い時間白く埋まる
魔術の威力によってあたり一面全ての物質が吹き飛ぶ強風が吹き荒れる
地面は大きく揺れる
空間が大きく歪む
自身の肌が焼けるような熱量が押し寄せる
だが魔術の残滓や魔術によって上がった煙が晴れた後、”彼女”は何事も無かったかのように一歩も動かずに傷一つなく佇んでいた
魔術を食らっても、その姿は何一つ変わらなかった
あぁ今回も…
「あぁそうだわ!!こんな技、合ったじゃない!!」
彼女の両腕が突如として光だす、その光は彼女の腕の中で徐々に徐々に光を増していった、彼女は光を抑え込み、凝縮し、貯めていた
ちりちりと頬が焼けた
どうやら抑え込まれている光の熱は多少なりとも離れている私にも届いたようだった
今回の死因は光ですか…‥‥
「あっは♡」
彼女は腕を突き出して、其の光を私に向かって放ってきた、躊躇いもなく、一直線に、殺すためだけに放たれた光の線
目の前の光景がガラッと変わった、光が世界を埋め尽くす、熱量が全てを溶かしていった
光は凄まじい音と共に私を喰らいに来ていた
その光は空間を揺るがし、空間を溶かし、空間を歪ませた
それは言ってしまえば光が凝縮され一方向へと射出される、いわばレーザービームだった
やはり死を迎える瞬間はスローになる、ゆっくりとゆっくりと死が血数いてきていた、この瞬間、通常の人間ならば走馬灯でも見るのだろう
もう何回も死を迎えた私としては既に走馬灯なんてものは見えなかった
緊急防御‥‥駄目ですね、このエネルギー量だと、そんなもの紙切れと同じでしょうね
私は諦めて目をつぶる、どうか痛くありませんように、どうか一瞬で死ねますようにと祈りながら
心が折れないように、心が壊れないように祈りながら、心が壊れないようにと自身に言い聞かせながら
‥‥‥‥‥‥‥‥‥…‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥
‥
また死ぬのかな




