夢を見て空を見る少女20
ここは何処なんでしょうか?
足元がふわふわとしている、足は糸を引かれているように自動的に自身の意思ではないようにゆっくりと足を一歩一歩踏み出していく
普段の重み、重力という人が持つべき枷を外された鳥のように身体が軽かった
ルディアは意識がはっきりとしないまま、歩を進める
鼻には何一つもにおいが寄ってこずに、耳からは音を拾わずに、耳から入ってきて処理されるはずの音が直接脳内で音が生成され、再生される
ルディアははっきりしない頭で周りに目を向けてみる
影のような人間がふらりふらりと行ったり来たりしている。その人物に意識なんてものはなく、生気なんてものも感じられず、ただただ人形が動いているように感じられる
ぐにゃりぐにゃりと形が安定しない建物、ぐにゃりぐにゃりと全てが不安定な形だった、色は様々で自身が赤と思えば赤色の物体があり、だけれども青と思えば青のような物体のようにも感じられる
要するに認識を変えるだけで、建物の形は変わり、色も変わる、場面も変わり、天候も変わる
・・・夢の中のようですね
はっきりとしない夢の中、夜に目を閉じると見えてくる夢の中、起きたら忘れてしまう夢の中
のんびりと、引っ張られるかのように歩き続ける
何処かもわからずに、記憶が曖昧でも、痛さなんてものを忘れて歩き続ける
立っている場所の名称なんてものは気にならない、そんのものは必要ない、頭が”それで良い”と理解していた
ふらりふらりと歩き続けているとふっと輪郭がぼやけている不安定な二人の人に目が行く
自然に、いや決められていたのかもしれない、運命力に操られたように目が二人に向けられた
二人の曖昧だった人は私が目を向けた瞬間に今まで不定形だった輪郭がはっきりしていく、一人は女性に、もう一人は男性に・・
目の前には以前の仲間の魔王の娘、吸血鬼のシャルルと、勇者の仲間の魔術使いオーローンがいた
知らず知らずのうちに足が二人に向かっていく、いや感情に従って、溢れんばかりの思いを抱えながらずーっとずっと記憶が戻った時から会いたかった二人に駆け足になって走っていく
あぁあぁあぁ・・・・なんで?なんで?何処にいたんですか?ずっと・・・ずっと・・・会いたかった
「くぅ・・あぁ・・あ・・・あぁ」
上手く言葉にならず、言葉でない音だけが声としてでてくる
感情が揺れ動き、制御が聞かなくなっている、会いたかった人たちが、会えなかった人たちが目の前にいた
二人は私に気付いたのかオーローンは”よっ”と軽く右手を上げ、シャルルはぶんぶんと元気よく手を振っている
私は真っすぐに走る、頭がぼーっとしているが走る、お互いの手が届きそうなところで二人に飛び込む
「おわっと」
「元気だな~全く」
「オーローンさん!シャルルさん!会いたかった・・会いたかった・・・会いたかった!寂しかったです」
二人の腕に顔を埋める、二人の感触を確かめるようにぐりぐりと頭を静かにゆらす
「変わってないな本当に・・・」
「ほんとね、何にも変わってなくて安心だな」
くすくすとシャルルは笑いながら私の髪に指を入れてゆっくりと撫でてくれた
「お疲れ様、よく頑張ったな」
「ルディア、かなりかっこよかったわよ!100点あげちゃいたいくらい、それに私の魔術上手く使えてたじゃない」
「頑張りました、本当に怖かった、傷を負う度に痛かった、吐きたくなるほど痛かった、弱音を吐きそうになった・・ただただ怖かった、一人だと心寂しかった、だけど、だけどだけど二人の仲間なんです、だから二人に恥を欠かせないように頑張ったんです」
「あぁよく頑張ったよ」
「そうね、よく頑張ったわ、本当に・・」
「あぁ・・あぁ・・・くぅ・」
言葉にならない声が喉から出てくる
二人が私の頭を撫でた、その手はゆっくりとゆっくりと頭を撫でる
二人の手は暖かかった、心の温かさが頭を伝い自身の中でその温かさが膨れ上がる
今まで出なかった涙がぽろぽろとこぼれ出ていく、頬を伝い地面に小雨のように涙が降り注ぐ、その雨は止まらなかった、止まることを知らなかった、ため込んでいたものが一気に噴き出していた
小さな小さなルディアの嗚咽だけがこの世界で音を立てていた
その音を静かにオーローンとシャルルは受け止めていた、二人は何も喋らずにひたすらにゆっくりと白い髪を撫で続けた
何も言わずにただただゆっくりとその時間を過ごした
「さてと、再開を永遠と楽しみたいのだけれどもだな・・・」
「まだ無粋な奴がいるのよね~私たちは手を出せないし」
「すいません、ちょっと・・・・何言ってるか分からないです」
頭は雲がかかったようにもやもやと渦巻いていて思考が上手くまとまらない、言葉も感情が先行し出て行ってしまっているだけだ
「俺らもそんなに時間が無くてな、今だってこの姿に入り込んでいるだけでも中々骨が折れるもんでな」
「なーに言ってんの、あんた相変わらずに弱いわねぇ~」
「うるせぇ、こちとら普通の人間なんだわ、人の形を保っているだけでもすごいと思ってくれ」
「はいはい、文句を言う前にその少ない時間有効に使ったらどうなの?」
「・・はぁ、それもそうだな」
オーローンはぱちんと一つ指を鳴らす、あたり一面に主に私の周りに一瞬だけ魔術が展開される
その瞬間にぱっと霧が晴れたように頭の中がスッキリしていく、考えることを止めていた脳が一気に活性化していく、動いていく、先まで感じていなかった重力を感じ、現実に引き戻された感覚に陥る
自身の脳で考える事の第一歩はまず、ここは何処だ?という疑問がまず浮かんだ
ここの不思議な空間に来る前の記憶を丁寧に思い出していくと
最後の記憶は・・・・ウィルフレッドを倒し、ツバメさんヒイロさんアルさんソフィアさんの四人で様々な話をしたのが最後だ
それ以降の記憶はない
・・・ここにどうやって来たんでしょうか?というか本当にここは何処なんでしょうか?
「頭は晴れたか?」
「えぇ頭は晴れましたね、ありがとうございます・・・・・・色々と聞きたいことがあるんですが・・・」
「残念ながらそんな時間ないわよ、オーローン、説明」
「あぁそうだな、いいかルディア、ここは俺たちが最後に戦ったやつがいる場所・・・・」
「・・・・?教祖ですか?私の父が居るんですか?」
私の父が運営していた、教祖を務めていた夢想教を倒したところで私の記憶、物語は終わりを迎えている
「ん?いいや・・・あれ?」
何か引っかかるのかオーローンは疑問符を浮かべた
「お前がルディアの事を触媒にしたから何かしらのバグが起きてるんじゃないの?」
呆れた様子でシャルルは言葉を発する
「そんなことあるのか?ん~?」
「私が目を覚ました時点では記憶の大部分が抜け落ちていましたよ、記憶を取り戻したのだってここ最近ですよ」
「ほら~なんか起きてるじゃないの」
「あぁ?仕方がないだろ?あん時はあれしか思いつかなかったんだから」
「えっと・・・」
話が見えてこない、現状私が置かれている状況があまり見えてこない
「置いてけぼりにして悪いな・・そうだな、端的にいうとここは教祖が信仰していためんどくさいのが居る場所、かつそこにお前は誘い込まれた」
「まぁ色々と理由があるんでしょうけど、第一に彼女は同じような轍は踏みたくないのだろうね」
「あぁなるほど、ルディアがあの時のキーだからか・・・ルディアさえいなければって所だったのか」
一々この人たちは話が脱線する
昔から変わっていないことはいいのだけれども・・
呆れながらも笑みが零れた
「早く進めてください・・」
穏やかに和やかに400年前の以前の光景と重なって、懐かしむような・・暖かな声で話を催促した
「ルディアが困ってるじゃない~早く進めてやりなさいよ」
「お前も同罪だ、お前も・・・・・・はぁ一々突っかかってると話が進まないな、さてと・・・」
オーローンは私に必要な情報を淡々と客観的に述べていった
その情報は余りにも耳を塞ぎたくなるような情報だった
「・・・・・・・・・・・・・・・ま、こんなところかな」
「そうね、私から特にないわ、全部言ってくれたし・・・・・私あんまり説明が得意じゃないのよね」
「っは、そうだな」
鼻で小ばかにするようにオーローンは返事をする
「あーー!馬鹿にしたわね!!」
「うるせえ!うるせえ!お前が自分で言ったんだろが!てか全部お前が押し付けたんだろうが、この身体維持しながら話すの滅茶苦茶疲れたわ!文句の一つでも言わせろ!」
「適材適所ってものがあるでしょ!流石勇者御一行、そんなことも分からないなんて、脳筋具合が抜けてないらしいわね!」
「あー?説明ごときができない雑魚が俺の目の前にいるらしいなぁ!!」
「っは!!その説明ごときでぐちぐち文句言ってるのは何処の誰かしらねぇ?男としての器米粒程度かよ!だからモテねぇんだよ」
「あーー!お前、今の発言ライン超えたぞ!超えちゃいけないところ超えたぞこの野郎!!」
「ちょっと静かにしてくれませんか?」
ぴしりと一言ルディアが言葉を放つ
「「はい」」
流石にうるさい
オーローンの話を自身で纏めてみる
一つはここは彼女?が作った空間であったこと、世界とはどこでも繋がっていてかつ何処にも繋がっていない場所
彼女と呼んだが、厳密では女性の姿を模しているだけの生物らしい
空間の座標位置は永遠と飛び回り、特定することは不可能、だからこそ何処にも繋がっていない
彼女は夢想教の信仰対象、彼女に・・オーローンさん、シャルルさん、そして最後に私が気づいたのが何もかも終わった後だったらしい
彼女が夢想教を一から作ったらしい、彼女が言わばこの物語のラスボスらしい
私とシャルルさん、オーローンさんは身を削り魂を削り死に物狂いでそれも言葉通りの意味で自身の命を散らしながら、最後に彼女を封印したらしい
このあたりが抜け落ちている記憶なんだろう
彼女について割れている情報だが影のような人型を永遠と出すこと、彼女がこの空間を作ったということだそうだ、そして影のような武器も無数にだすらしい…
最後に彼女は無限にも等しい自己回復能力を持ち合わせているらしい、だからこそ封印するという手段をを選んだらしい
「逃げ出したいですね・・・・」
「俺もそうして欲しいんだがここに来ちまった以上戦うしかない」
「私たちも手伝いたいのは山々なんだけど・・」
シャルルは私に向けて手を見せつける、その手先はうっすらと朧気に透けていた
「死んじゃってるのよね~本当に"彼女”は強かったわ!」
シャルルはにっこりと笑いながら言う
「・・・・・・・つぅ」
「そんな気にすんなって」
強引に言葉を飲み込む、シャルルに直視したくない、受け入れがたい事実を突きつけられる
漠然とそうじゃないかと思っていた、オーローンは普通の人間だが優秀な魔術しだ寿命も伸ばすことだって可能だろう、シャルルに至っては魔族であり、吸血鬼だ、寿命の概念なんてあまり考えていないのだろう
だからこそ400年たった今でも何処かで生きているのだろうと思いたかった
だけど心のどこかで、私というイレギュラーな事が起きている時点で気づいていたんだ、あぁ二人はこの世界には存在していないんだなと・・・
どこかで生きていてほしかった、のんびりと過ごしていて欲しかった、幸せな家庭を作って笑っていてほしかった
なのになんで私だけ!
ルディアの表情はくしゃりと歪む
「いいか、俺は何一つ悔いなんて持ってすらいないんだぜ・・・ルディア、俺が彼女を封印した方法は魔術じゃない、魔法を唱えたんだ、何もかもすっ飛ばしちまう最高の術、世界の概念、ルールなんてものもすっぽりと覆っちまうむしろ蹴散らしちまうぐらいの魔法を唱えたんだ、しかもそれがまだ起動しているのを身体中で感じてる、要するにまだ魔法は効力を発揮してるんだ」
驚愕、身体の中が驚きに満ち溢れる、あの夢物語にしか出てこない”魔法”を唱えたんだ
「魔法・・・ですか」
「あぁ、俺が夢見た魔法だ!最後の最後に魔法が唱えられたんだ!それがまだ生きてるだなんて夢にも思わなかったよ・・・・・流石規格外なこともある」
魔法、魔術の最終地点、魔術師が一度は憧れ目指す極致、最上級の一
だがそれは夢物語、誰もが夢見るだけで、夢は夢である
掴めない人の方が多いというか片足すら、手すらも届かない魔術
それが魔法
「ま、私も悔いなんて残してきてないわよ・・・・私の最高の仲間に一つだけ助言してあげるわ、ルディアの中には私とこいつが居る、お前は一人じゃないし、一人になんてことにはさせない」
ぽんとシャルルは私の胸に拳を乗せる
「はい、はい・・・」
「っとそろそろ時間が来たな・・」
「あぁ最後にオーローンさんはどんな魔法を唱えたんですか?」
「ん~~~どんな、かぁ・・・言葉にするのは難しいんだよなぁ・・・あぁそうだ名前を付けるんだったら”青い空”かな」
「青い空?」
「そう、青い空、いい魔法だろ」
「はい、いい魔法・・そうですね・・・」
中身なんて分からない、どんな効果があるのかすら分からない、全容なんて一切見えてこない魔法だが・・・
名前を聞いただけで心が温かくなる、不思議と身体の底から勇気という名の感情が溢れ出てくる
「時間ね、そうそうこれから私たちは・・いえ私たちが入り込んでいる身体が変貌して貴方に対して敵意を向けてくるから、思いっきりやっちゃいなさい、そこには私たちはいないから、貴方の中に絶対居るから!」
「大丈夫、俺はお前の事を信じているし、やり切るやつだと思っている!主人公のルディア!やっちまえ!俺の魔法を信じろ!絶対にどうにかなる!!だから!」
「「頑張れ!!」」
「はい・・はい・・はいっ!」
そういった後に二人は大きくうなだれる、そしてすぐ後にぐにゃりぐにゃりと身体が変形していく、ぼこぼこと身体が膨れ上がったり、縮んだりと脈絡なく動作し始める
どれに伴い、私の周りにあったはずの建物や物体すらもぐにゃりぐにゃりと動き始める、目に入る全てが赤黒くなっていった
それを一言で表すのならば悪夢だと思った
地面に咲いている花は気色悪く笑い
木々は私の事を脅すかのように忙しなく揺れ動き、音を鳴らし
何処からともなく大きなサイレンすらも鳴り響く
だがルディアは気にしなかった
私は必死になって涙をこらえる、もう会えないかもしれない、一生出会うことすらできないかもしれない、でもいずれ別れが訪れるものである、永遠なんてものはない
ちょっとだけ私たちの別れは早かったのだ
ただそれだけだ・・・・・・
私は自分に言い聞かせる
気合を入れなおすためにぱちんと頬を叩く
「良し!!」
私は別段、世界を助けようなどという勇者のような気持ちは端から持ち合わしていない、世界なんてどうでもいいし、私の知らない人間が死んだって・・・魔物に食われたってどうも思わない、世界平和とか心底どうでもいい、争いなんて止めようとは思わない
人が幾ら死のうが、人が幾ら餌になろうが、どうでもいい
私は勇者でもないし、人々を導く王様でもない、魔族を導く魔王でもない
私の本質は、私が、私の仲間たちが仲良く暮らせていれば良いと思うような人間、私とシャルルさん、オーローンさん、400年後に出会ったアルさん、ソフィアさんツバメさんにヒイロさん、助けてくれたルドさん・・・そんな人たちが青い空の下で笑ってくれたらいいと思うような人間
だから私は世界そのものは守る
私ができる範囲の事で、現状できる事ならば私は世界を守って見せる
あの赤い世界に戻るのは嫌だ、生気がない国で生活するなんて嫌だ、夢想教が支配していた世界に戻るのは心底嫌だ
あんな世界では誰も笑えない、独りぼっちな寒い世界はもう味わいたくない
そして何より、シャルルさんとオーローンさんが掴み取った世界をそんなわけが分からない奴に明け渡したくない
それに”約束”だってあるから…
だから私は全力で挑む
手が届かなかったとしても、無残にやられたとしても、最後の最後まで食らいついて見せる、勝ち方なんてものは思いついていない、あの二人が勝てなかった者に私が勝てるなんてあまり思えない
だけどシャルルさんとオーローンさんに「頑張れ」って言われたんですよ
だから頑張らないといけない…オーローンさんとシャルルさんに次会った時に”全て終わらしましたよ”といえるように・・・
”だから楽しく皆で冒険しましょう!”と言えるような世界に・・、私に牙を剥いてくる、夢想教を潰さないといけない・・・・・・
ルディアに向かってシャルルとオーローンだった、今となっては見る影すらもない異形なものが襲い掛かってくる、先までいた場所はひどく廃れあたり一面血液の色、赤黒い色で構成された世界に書き換えられていた
さぁ勝負です




