夜空の星空に捧げる五重奏22
「おう、お帰り、夕飯は一応できてるぞ」
「おかえり~」
気の抜けた声が隣からも聞こえてきた、こいつ馴染みすぎだろ、別に良いけど
「アルさんもう一度お風呂いただいてもいいですか…流石にこの状態で寝るのは気が引けますので」
「ん?あぁ分かった、だったらその間に飯温めておくぞ」
「すいません、ありがとうございます、ではいただきますね、あーあとこれどうぞ」
ルディアはアルに魔道具を渡した、アルはそれを一瞥した後に自身のポケットに無造作に放り込んだ、その様子を見ることもなく、とぼとぼと疲れた足取りでルディアは洗面場へと向かっていった
「で?お前はどうするんだ?」
「?」
こくんとリディアが首を傾げていた
「夕飯だよ、夕飯。食ってくだろ?」
「うん、食べてく」
血の出しすぎなのか、はたまた夜で気が抜けているのかリディアからは非常に素直な返事が返ってきた
「そうか、ま、ゆっくりしとけよ、今あっためてくるからさ」
私は奥の台所へと足へ運び、火をつけえ始める、その火をぼぉーと眺めながらこれからどうしようかと頭を巡らしていた
何をして、何をなさねばならないのか、放置でも良いんだがな…まぁ知ったのならばある程度は動くか
そんな事を考えながら、料理が沸騰し始めたところでとんとんとんと小さな足音が聞こえてきて台所の目の前で止まった
「どうした?リディア?」
「暇か?」
先ほどとは打って変わってリディアの態度はまた気が引き締められているものに変わっていた、だからと言って私が何か思うところはない、普段通りでいつも通り、こいつは一生不安定だ
だから何か思うこともなく、ただただ普通に先ほどの返事をする
「暇はまぁまぁそこそこには暇だな、眺めるだけだしな」
「そうか、じゃあ少しだけお話をしようじゃないか、私が見てきたもののお話を」
リディアはそんなことを言い、アルの目の前に椅子を置きゆっくりと座った、ゆっくりと切り出す
私は壁に寄りかかり、リディアを視界に入れることなくただ一点、ゆらゆらと夕飯を温めなおしている炎を見続ける
「なぁ人が見ている光景を考えたことはあるか?」
「あぁ?んー…いやないが」
「だろうな、誰しもが自分の見ている光景が正しいと認識するだろうよ」
リディアはゆっくりと目を瞑った後にまたもう一度目をゆっくりとゆっくりと開ける
「何が本当だと思う?」
「何がって何がだよ」
「誰が見ている世界が本当の世界だと思う?」
「…………。」
「見ている世界に正解なんてものはないと思っている、だけどそれと同時に全ての世界が正解だと思ってもいるんだ」
アルはぼぉぼぉとゆらゆらと揺れている炎を見続ける、変幻自在に、角度が違えばこの炎だってまた別の顔を見せるんだろうなと思いながら、それと同時に静かにリディアの次の言葉を待ち続ける
「私は誰にも言っていないことを今、お前に伝える」
静かに次の言葉をアルは待った、まだ曲は終わりを迎えてなかった
全てを聞き終えてアルは火を止めた、これでもう十分に温まっただろう
「ま、そんなところだ」
ここまで聞いて一つの疑問が浮かんでくる、それを言葉としてリディアに投げかけた
「なぁなんで私にそれを話したんだ?姉にもこれは言ってないだろ?」
「私とお前は一緒だからだよ…………あーあのアヤノもか」
アルはその言葉を聞いて苦い顔をするしかなかった
「だから片づけてこい、私は流石に疲れた」
とリディアは椅子を片付けながら手を振り食卓へと消えていった




