第六話 仕事
「なんで牢屋に入れられてるんだ」
「南君が森を燃やしたからだよ」
「我の魔力の暴走に世界が耐えられなかったか……」
「すぐ消えたからいいけど、高級な果物も生ってたし……」
「……」
「流石に倒れた時にはびっくりしたけど。魔力切れってやつだってね」
「……チート能力……か?」
「だろうね。だって元の世界で練習しても何も起こらなかったでしょ?」
「……なんで練習、いや、修行の事を知っている!?」
「あの、詠唱って必要なの?」
「……うるさい」
「自分で考えたの?スラスラ言えてたね」
「……くくく。今ここで俺が全てを燃やし尽くしてやろうか……!?」
「磔にされても出来るものなの?」
「……」
「それに僕は冤罪だからね!倒れた南君を衛兵から守って、火傷を治したのも僕なんだからね!」
「お前はヒーラーの能力か……」
「そうみたいだね。治れ!って念じて手を翳したら淡い光が……ね」
「……ありがとうな」
「え?なに?もう一回言って?」
「おい。誰か来たぞ」
「もう一回言ってよ!」
「また生エルフのおねえさんだ……!」
「あ、どうも。ありがとうございます」
「……近いって。近いです。すいません。すいませんでした」
「ふぅ。流石に磔は痛かったな……」
「……ボインがボイン……ボインで……」
「余韻に浸らなくていいから。おねえさん待ってるよ。毎度すいません。どうも」
「……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「城だ」
「お城だね」
「平伏しては無い」
「無いね」
「ついでに言うと後ろ手に縛られてるのは納得いかないが?」
「まぁ森を燃やす人だからね」
「ふふふ……。我の魔力を恐れたか……え?あ、はい」
「そうです。ちょっと試してみたら、こんな事になってしまって。ええ。僕は回復魔法が出来るみたいです」
「すいません……」
「え。世界を救ってほしい?」
「ふふふ……。我の強大な魔力に頼ろうというのか……!」
「伝染病……。はい。回復魔法が有効なんですね!」
「……え?」
「いいですよ!お役に立てるなら!」
「……」
「東の村で治療にあたれば、今回の罪は帳消し……。ええ!もちろんやります!」
「……」
「馬車を用意してくれるんですね!はい!わかりました!」
「……」
「やったね!南君!馬車だって!楽しみだね!」
「……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「もう!拗ねないの!」
「どうせ俺なんて……」
「今回はたまたま僕だっただけだよ!」
「俺のせいで捕まって、俺の罪をお前が……」
「もー。いいから!」
「……いっつもそうだ」
「こら!」
「……情けない」
「……いいんだよ。南君。君は何も悪くないんだ。ちょっと空気が読めなくて高校生になっても厨二病が治らなくって運動が苦手で見栄っ張りで……」
「あ、あのちょっと言い過ぎじゃないか?」
「だけど一番の友達なんだから」
「……」
「こんな世界なんだから助け合わなきゃ!」
「……ああ」
「馬車ってけっこう揺れるねー!」
「……」
「あれ?なんで涙ぐんでるの?」
「……砂が目に入っただけだ!」
「砂なんかないよ?」
「……うるさい!」
「あ!あれが村かな!」
「お、そうだな」
「着いた着いた!」
「閑散としているな」
「よし!行こう!」
「ああ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ごめんくださーい。王都から来ましたー」
「けっこうな人数だな……」
「みんな苦しそう……」
「あ、ああ。王都から来た。あ、貴女も王都から……。いえ、俺じゃなくて、こいつが」
「何をすればいいですか?」
「じゃあ俺は水を汲んで来よう」
「わかりました。頑張ります!」
「……」
「……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……大丈夫か?」
「うん。流石にちょっと疲れたかな。これが魔力切れって感じなのかな?」
「でも、すごいぞ。みんなの顔色がみるみるうちに良くなっていく」
「ふふふ。良かった……」
「お前の回復魔法は身体の傷だけじゃなくて、減った魔力や抵抗力にまで作用するんだってな」
「ね。王都から来ていた人もびっくりしてた」
「レアスキルってやつらしい」
「チート能力だ。やったね……」
「後は俺に任せろ。お前は横になっておけ」
「うん……。助かるよ。ありがとう」
「ちょっと村人の様子を見てくる」
「うん」
「…………大丈夫か?……汗を拭こう……」
「ふふふ……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「だいぶ暗くなったな。体力は大丈夫か?純」
「うん。すっかり元気だよ。ありがとう」
「救えたんじゃないか?この村」
「だね。明日になれば皆元気になると思う」
「馬車も待たせてあるし帰ろうか」
「うん。そうしよう。……いえいえ。どうしたしまして。お礼は王様に貰いますよ」
「……え?俺?俺は何も……」
「ふふふ」
「いや、そんな。こいつが頑張っただけで、俺なんか、いや……どういたしまして」
「じゃあ、お大事にしてくださいね」
「……また」
「……ふふふ」
「何をニヤニヤしてるんだ。純」
「いや。南君が頑張ってるの。村の人達がちゃんと見てくれてて。僕嬉しかったんだよ」
「……ふん」
「感謝されるのは嬉しいよね」
「……我の存在を世界が感謝しているんだ。常にな」
「またそうやって……。今までは僕しか見てなかったからね」
「……ふん」
「照れちゃって」
「次は俺が魔法で魔物を粛正してやる。今回のは純の手柄だからな!」
「はいはい」
「……城に戻ったら存分に報酬を貰おう」
「元々、南君が森を燃やした対価だから望めないかもしれないよ……」
「そうだった」